第66話 オッサンVSゲナス王子
「ギャハハハ―――いくぜぇええ!」
下卑た笑いを漏らしながらゲナスのどす黒い体が、ブクブクと膨れ上がる。
人よりもはるかに大きい、まるで巨人だ。
ズンズン―――
地鳴りとともに巨体を揺らして向かってくるゲナス。
そこへ3つの影が立ちはだかる。
「おまえごとき、先生の手を汚すまでもない! あたしたちが相手だ!」
アレシアが聖剣を振りかぶって光の斬撃を放つ。
ミレーネが聖属性の光の弾丸を打ち込む。
キャルが極大炎の塊を投げつける。
「ぐぎぃいいい~~~こんなもので……俺様がくたばるかよぉおお!」
ゲナスの周りに黒い霧が渦巻き、全ての攻撃を逸らしていく。
「おらぁあああ! お返しだぁああ!」
ゲナスの身体から渦巻いたどす黒い霧が四方に飛び散り、3人の体を闇に包んだ。
「―――なんですか! 邪悪な魔力が充満しています、気を付け……て……」
「おい、ミレーネ! どうし……」
「なんかきもいの! あっちいけ……」
ゲナスの黒い霧に纏わりつかれた3人は、何かに取り憑かれたようにガックリと膝を地に落とす。
みんな何かを振り払うかのように抵抗するも、次第にその動きが弱まっていく。
「ま、魔物……こないで」
「ぐっ……暗い……暗い」
「お、おとこ……さわるな……」
「ギャハハハ~どうだぁああ~クソ女ども~~みじめな過去をほじくり返された気分はぁあああ!」
苦痛と恐怖で引きつり真っ青になるアレシアたち。
理屈はわからんが、ゲナスの黒い霧には人のトラウマをほじくり返す効果があるようだ。
―――ふぅ
「ギャハハハ~雑魚どもは勝手に悶え死ぬがいいぜぇ~~てめえの弱さに負けてなぁあああ!」
相変わらずだな……ゲナス王子
「さ~~て、取り巻きは全滅だぜ。これでおまえをじっくりと始末できるぜぇええ」
下卑た笑みを浮かべながら、地面に転がっている剣を手にするゲナス。
俺は抜刀して、剣の切っ先をゲナスに向ける。
「おらぁあああ―――!!」
膂力に自信があるのか、剣を力任せに大振りしてくるゲナス。
俺は【闘気】を通わせた剣で、迫る刃を軽く弾き―――
そのまま一気に踏み込んで、ゲナスの左肩に斬撃を見舞った。
「グッ……やろう……」
―――ギンッ
第二撃を右肩へ―――ゲナスの大きな体が揺れる。
おれの攻撃に驚いたゲナスは、狼狽えながらも剣をブンブンと振り回してきた。
空を切る音はたしかに轟音だ。こちらまで空気の振動が伝わてくる。だが……
単に振り回しているだけ。
……オッサンでもわかる。
この男は剣を振ったことなどないと。
「―――なんだそのへっぴり腰はぁああ!」
俺は一喝とともに剣を一閃させ、じりじりと前に進む。
「クソがぁあああ! なんで斬れねぇ! 俺様は最強なんだ!」
相変わらずの振り回し。ゲナスの剣はむなしく空を切る。
俺はさらに一歩踏み込む。
「ヒぃいいいい! ち、近寄るななぁあああ」
黒い巨体から叫び声が漏れ出た。
おい―――
なんだその情けない声は……
「それが一国の主が出す声かぁあああ!」
―――中途半端だ。
ゲナスが手に入れたのは邪神とやらの膂力だけ。
その力の背景には、努力もなければ覚悟もない。
俺は負ける気がまったくしない。
「クソがぁああ! これでも食らいやがれぇえ!」
ゲナスはどす黒い身体から、黒い塊を発射する。先ほど岩を粉砕したものと同じやつだろう。
―――せいっ!
その塊は俺に到達する前に真っ二つに斬り落とされた。
バカ正直に真正面から飛んでくるのだ―――こんなもの誰にでも斬れる。
「なんなんだよ~~おまえぇえ!」
「ゲナス―――」
俺の視線に少し後ずさるゲナス。
「俺はただのオッサンだが―――鍛錬すらしない奴ごときに後れは取らん!」
「クソ、クソ、クソォオオオ!」
怨嗟の声を上げながら、さらにいくつもの黒い塊がゲナスの体から飛んでくる。
だが、俺の剣によりその全てがことごとく斬り落とされていく。
「お兄様……もうおやめになって!!」
後ろから叫び声が、マリーシアさまだ。
「マリーシア……なんでこんなオッサンに……」
ゲナスの顔がことさらひどくいびつに歪む。
なんて顔をするんだ、この王子は……
「その女は俺のものだ! てめえにやるくらいならぁああ!」
ゲナスの体からどす黒い触手が勢いよく飛び出して、マリーシアさまに絡みつく。
―――マリーシアさま!?
俺は咄嗟にマリーシアさまの傍に駆け寄り、絡みついた触手を切り落とした。
「ふぅ……まったく妹になんてことするんだ」
ぐったりとするマリーシアさまを抱えながらも、俺はホッと息をついた。
しかしその安堵の息は別の悲鳴で消し飛ぶ。
「キャアアアア!」
「ギャハハハ~捕まえたぁあああ!」
「リエナ!!」
別の触手がリエナを掴んでゲナス本体に引き寄せられていた。
「―――ゲナス、なにをやっている? 相手は俺だぞ!」
「ああ? 随分と焦ってるじゃねぇかぁああ。リエナぁあ? そうかナトルの王女だなぁああ、バルド~おまえのお気に入りかぁ、この女ぁ」
「ゲナス! リエナを離すんだ!」
「いいねぇええその顔ぉおお! この女~~俺様の血肉にしてやるぜぇえええ!」
ゲナスの黒い身体に取り込まれていくリエナ。
「ちょっ! やめなさいよ! このヘンタイ!」
黒い肉片に絡みつかれて思うように動けないリエナは、そのままゲナスの体に埋もれていく。
―――いかん! 切り離さんと!
俺が地を蹴り出そうとすると、ゲナスは黒い塊をこれでもかというほど放ってきた。
……くっ! マリーシアさまを守りつつでは―――
俺が全ての塊を斬り捨てた時には、すでにリエナの姿は無かった。
「ギャハハハ~~残念だったな~お前のお姫さまは俺の腹の中だぁああ! ゆ~っくりと消化液で溶かしてやるぜぇええ!」
―――リエナ!?
「おお? なんだこりゃぁああ! 力が溢れてきやがるぅううう! こりゃ想像以上の上物だったみてぇだなああ!」
ゲナスが剣を一振りすると―――
黒い剣圧が俺の傍を突き抜けて、後ろの丘に激突した。
地面が揺れ、丘の上部が吹き飛んだ様を見てゲナスの口角がグイと上がる。
「ギャハハハ~~、みろ~~やはり俺様が最強なんだぁあああ! クソ小娘~~俺様の一部となれたこと~~泣いて喜ぶがいいぜぇええ!」
―――クソ小娘?
泣いて喜ぶだと……
「ギャハハハ~~、どうだバルドぉおお! 見ただろうこの力ぁあああ! ああ? ビビってんのかぁ!! 降参しますってかぁああ!」
バカ王子――――――それは完全に悪手だぞ……
「ゲナス―――」
俺は静かに息を吐き、剣を構えた。
「御託はいい―――さっさとかかってこい!」
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