第64話 オッサン、魔王に石を投げる

「貴様かぁああ、我の暗黒隕石魔法ダークメテオを消し去ったのはぁああ!」


 なんかめっちゃ怒ってるな。全身がワナワナとして、額に青筋を浮かせて。

 キャルの元に駆けつけたら、魔王が激しく絡んできた。


「いったい何者だ! なんだあの魔法はぁああ!」


 魔法? もしかしてなんちゃってメテオのことか?


「あのな、俺は魔法なんか使えん」


「魔法ではないだと!? 貴様~~人族では無いな! まさか……天界の住人か!?」


 てんかい? 何言ってるんだこいつ。訳がわからん。

 こいつなんか勘違いしてるんじゃないか?


 ちゃんと教えないとな。


「俺はな―――ただのオッサンだ」


「おっさんだと?」


 おいおい、オッサン知らんのか。

 どうやら封印の時間が長すぎてボケてるっぽいぞ。


「オッサンというのはな、そこら辺にいる一般中年男性のことだよ」


「んなこと知っとるわぁああ! おっさんごときが我の魔法を消滅させただとぉおおお! ふざけるなよぉおお!」


 再び魔王がワナワナと怒りを吹き出し始めた。

 こいつ情緒不安定か? いや、寝起きが悪いんだな。


「有象無象のザコが調子にのるなよ! いいだろう……我の最大魔法で屠ってくれるわ!」


 そう言うと、魔王は聞いたこともない言葉で詠唱を開始する。

 さっきのはたいしたことない魔法だったが、今回のはヤバい魔法かもしれん……延々と意味不明な言葉で魔力を練り上げているようだ。


 魔王の魔法に対抗できるのは―――


 俺は傍にいるキャルに視線を向ける。


「キャル、デカいの一発お見舞いできるか?」

「もちろんなの!」


 この子の魔法しかない!


「よしっ! 俺が時間を稼ぐから、思いっきりいくんだ!」

「わかったの! バルがいるなら集中できる、魔王なんかに負けないの!」


 キャルは小さな胸を張って【闘気】と【魔力】を練り込み始めた。


 さて……


 俺もやるか。


 思いっきり空気を吸い込み……


 全身に【闘気】をめぐらせて―――リエナからもらった小石に【闘気】を注ぎ込む。


 ―――ギュッと、先ほどよりも多く、濃密に。


 魔王は、いまだ意味不明な言語の詠唱を続けている。

 強力な魔法なのだろう―――だが。


 先手必勝だ!



「せぇ――――――いっ!!」



 全身を使って振り切った右腕から放たれた小石。


 赤い光を放ちながら、魔王に向かって一直線に飛んでいく。


「なんだぁ? 先ほどの攻撃か? 無駄なことを、我は自動防御魔法が発動するのだ。いかなる魔法も効かんわ! 暗黒魔法防御壁ダークシールド×10連!」


 魔王の前方に黒い壁がズズズと現れる。1枚ではなく、何枚も。

 これが魔法防御壁なるものらしいが―――


 小石はその速度を緩めることなく、全ての壁をぶち抜いていく。


「グハっ―――!!」


 魔王は俺のなんちゃってメテオの直撃により、身体をくの字にゆがめて苦悶の表情をみせる。


 しかし……なんだこの壁? 手ごたえが無さすぎる。やはり完全復活には程遠いようだ。そもそもオッサンの石は魔法じゃないしな。


「ば、ばかなぁああ……わ、我の壁をすべて打ち抜くだとぉおおぉぉ……」

「そりゃ魔法じゃないんだからしょうがないだろ。それは【闘気】で固めた石だよ」


「グハぁ~~。と、とうきだと……貴様~~あの忌々しい勇者どもの末裔かぁああ!」


 勇者? 何の話だ? やはりボケてるのか?

 はぁ~しょうがない。


「もう一回教えてやる! 俺は宿屋のオッサン――――――バルドだ!」


「バルドだと……あの王子の言ってたやつか……グガァアアァァ!」


 苦悶の声とともに、魔王の体がきしむ。


 魔王にめり込み続けている俺のなんちゃってメテオ。いまだ推進力は衰えていない。

 そして……踏ん張りがきかなくなったのだろう。魔王は一気に上空へ吹き飛ばされていった。



「ぐぉおおおお! ―――く、クソ王子がぁああ! なにが~~ただのオッサンだぁああ!」



 吹き飛ばされながらも悪態をつく魔王。

 さすがに、オッサンの小石程度で魔王をどうにかできるとは思っていない。


 とどめを刺すのは―――


 空が真っ赤に染まっている。


 準備は整ったようだ。


「キャル―――思いっきりやっていいぞ!」


 うしろに控える少女に合図をだす。


「吹っ飛べなの――――――極大隕石魔法ギガメテオ!!」


 深紅の空から、巨大な岩が魔王に向かって……


 いや―――でか!?


 凄いなキャル……もうちょっとした山みたいだぞ……


 その恐ろしいくデカい岩が、地上から吹き飛んできた魔王と上空でジャストミートする。

 魔王の「ふぎゃんっ!」という情けない声を最後に、上空が爆裂音と閃光で埋め尽くされ、遅れて爆炎が吹き荒れた。


 しばらくして―――

 凄まじい爆炎が徐々におさまっていく。


 青い空が戻ってきた。


 魔王の姿はどこにもない。


「完全に消滅したのかな?」

「うん、魔王の魔力を一切感じないの。それに手下たちも消えていくの」


 おお、キャルの言うとり魔王軍は次々と消滅していくではないか。

 親玉を倒したからなのだろう。そこらじゅうから歓喜の声が聞こえてくる。


「きゃ、キャルット殿~~!」


 魔導士の恰好をした男たちが数人駆けつけてくる。

 キャルと共に戦っていた戦友たちだろう。


「や、やりました! 凄い……我々で魔王軍を……」


 副官ぽい男は興奮吟味に、キャルに手を差し出してくる。

 握手を求めているのだろう。


 これは止めた方がいいか……感動しているところ申し訳ないが―――!?


「キャル……!?」


 なんとキャルも手を差し出して、男の手を握ったではないか。

 すぐに離して俺の後ろに隠れてしまったが。


 空は……


 赤くなっていない。


「そうか……成長したんだな」


 俺は手を袖で拭いて、渋い顔をするキャルの頭を思いっきり撫でた。


「な、なにバル! ちょ、もう子供じゃないの!」


 口を尖らせながらも、顔を赤くするキャルが可愛すぎて。

 俺は再び頭を撫でてしまうのであった。





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