第63話 オッサン、魔王のメテオを「せいっ!」(粉砕)する

 ◇キャル視点◇



「あたしに続け! 【一刀両断】―――っ!!」


 アレシアが聖剣を振るいながら、崩れ出した魔王軍を各個撃破していく。


 私の放った隕石魔法メテオが魔王軍の中心部に炸裂したことで、戦況は一気に変わった。


 中心部の魔王軍は大きくその戦力を削がれ、残存兵も慌てふためいている。

 大混乱に陥った魔王軍は、ミレーネに浄化魔法をかける時間を与え、アレシアに斬り込む体制を整える時間を与えた。


 ―――そして


「キャルにまた時間を与えたの!」


 魔法陣を構築して詠唱にはいる。

 先程の偶発的なものではなく、正しい手順で一からじっくり作り出す。


 空が再び赤く染まり出した。


 落下から着弾までの軌道修正も完了。

 中心部からの味方の離脱も確認。


 その魔法とは


 もちろん―――


 最も得意で、最も威力のある魔法……



「これで終わりなの! ―――隕石魔法メテオ!!」



 私の放った隕石魔法メテオが流星のごとく魔王軍に襲い掛かる。



 ―――!?



 なにか黒い塊が、上空から私のメテオを追撃している!



「なんなの! あれ!?」



 黒い塊が私の隕石魔法メテオに激突し、双方が上空で粉々に砕け散っていく。

 四散した爆炎から1人の魔族が現れた。


「ククク、星の魔法か……まだ使える奴がおるとはなぁ」


 崩れかけた魔王軍から一斉に歓声があがる。

 あるじを称える声だ。



 こいつが魔王―――



「ククク、人族の魔法使いよ、良いものを見せてもらった。 我からも―――お返ししてやろう」


 魔王が一本の指を空に突き上げる。


「す、凄い魔力なの! ―――!?」


 凄まじい魔力の放出!

 どす黒く濁った空が広がり、さっきの黒い塊が形成されていく。


「ま、またあの魔法なの!?」


 ―――は、速すぎるの! 隕石魔法メテオで迎撃しようにも間に合わない!

 あの威力の魔法を落とされたら、マリーシアたちは全滅してしまうだろう。


 地上のマリーシア達に向かって落下しはじめる黒い塊。


上級魔法防御壁ハイマジックシールド!」


 上空に分厚い魔法の壁を展開する。

 一枚だけではない、何重にも光の壁を重ねて黒い塊の落下を阻む。


 黒い塊は、展開された魔法防御壁を次々と突き破るも……


「ふう……止まったの……」


 最後の一枚でなんとか落下を防いだ。


「ほう、我の暗黒隕石魔法ダークメテオを止めるとは、大したもんだな。だが―――」


「―――っ!」


 黒い塊がもう一つ形成され始める。いや……


「まだまだあるぞ~ククク」


 さらに増える塊。空一面を埋め尽くすほどの量。


「そんな! 多すぎるの! 上級魔法防御壁ハイマジックシールド!」


 詠唱を連発して、壁を増やし続けるも。どす黒い空から次々と現れる塊が、壁を食い破っていく。


「どうした人族の小娘~~ククク」


 魔王が虫けらを見るような視線を落として、ニヤリとする。


「ククク、所詮は人族の行きつける領域などこのていど……ん? んん? なぁっ!?」


 上空に視線を向けた魔王の目が大きく見開いた。



 空が―――



 赤く染まってる!?



「な、なんだ! 我の暗黒隕石魔法ダークメテオが次々と……!?」


 地上から赤い流星が、ひとつまたひとつと打ち上がっては、黒い塊に激突していく。

 魔王の作り出した黒い塊が、次々と粉砕されてその数を減らしていった。


「ば、ばかなぁあ! 我の暗黒隕石が破裂していくぅうう!」 


 魔王が新たに黒い塊を出すも、地上からの赤い流星がその全てをことごとく粉砕する。


「げぇえええ! なんなんだよぉおお! 空の闇が消えていくぅうう! なぜ空が赤いぃいいい!」


 ―――なぜか?


 ―――知ってる。


「キャルの知っている朝練の空……」


「人族の娘ぇえ! この空はぁ~~~お前の魔法かぁああ!」



 魔王、それは違う―――



「――――――バルが来たの」


 




 ◇バルド視点◇




 俺たちは帝国軍を撃退した後、すぐにマリーシアさまの本体を追いかけた。

 戦端はすでに開かれており、キャルが敵大将らしき奴と戦いを繰り広げている。


「なんてどす黒い空……バルドさま~~もしかしてあれが魔王!?」

「ああ、どうやらそうらしいな」


「なんですかあの魔法の量! 魔王もですけど、キャルちゃんもとんでもないんですけど」


 リエナの言う通り、2人の間で魔法が激突しまくっている。


「バルドさま!? 黒い空からなんか塊がいっぱい出て……なにあれ!」


 たしかに凄い量だが……なにかおかしい。


「ふむ、リエナ! そこらへんの石を集めてくれ」

「ええっ! 石なんかどうするんです……あ……もしかして」

「キャルを手伝うぞ!」

「はい! バルドさま!」


 俺の持つ違和感……これではっきりするだろう。


「バルドさま、はい!」

「よしきた! せぇーい!」


「はい、次です!」

「ほいきた! せぇーい!」


 リエナからもらった石に【闘気】を込めては空に投げる。

 投げたら次弾をリエナが渡してくれるので、再び投げる。


 どす黒い空から現れた無数の黒い塊が、「せぇーい」の言葉とともに粉々に砕け散っていく。


 やはり―――黒い塊はたいしたことがない。


 魔王は本来の力はこんなもんじゃないはず。

 恐らくだが、魔王は完全復活には程遠い状態なのだろう。


 その証拠に黒い塊は、オッサンのなんちゃってメテオでも簡単に砕くことができる。



 ―――いつもの朝練と同じだな。これならいくらでも対応できる。



「よ~しリエナ、肩があったまってきた! どんどんくれ! ペースアップだ!」

「わかりました、バルドさま! じゃんじゃんいきますよ~~」


 新たに黒い塊がいくつか出てきたようだが……



「遅い! そんな程度は焼け石に水だぞ! せぇーい!」



 俺の「せぇーい」の加速は止まらない。


 こりゃ乗ってきたぞ、オッサン!


「わぁ……空が朝練の時みたいに真っ赤になってる……相変わらず無茶苦茶ですね……」


 リエナの言う通り、どす黒い雲は散っていった。

 どうやらあれが無いと魔王は黒い塊を出せないらしいな。


 もう打ち止めか。俺は投球をやめると、リエナに声をかける。


「さて、リエナ。俺はキャルと合流する。君はここにいてくれ」

「あ、バルドさま。これ、まだ使いますよね」



 俺はリエナが渡してくれた小石を片手に、グッと地を蹴った。



「ああ―――助かる! ちょっと行ってくる!」






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