第52話 ナトル王視点 王様、オッサンの正体を探る

「せいっ!」「せいっ!」「せいっ!」


 わしは完璧な偽装で、木陰からバルドのやつをジッと見ていた。


 勘違いしないでほしい。


 朝からオッサンの掛け声を聞きにきたわけではない。

 オッサン趣味があるわけでもない。


 一国の王が草木に埋もれてまでオッサンを監視する理由―――


 ―――バルドの調査じゃ。


 部下に調査を依頼しているが、いっこうにバルドめの情報が集まらん。

 本人にそれとなく聞くも、あやつは「生まれてずっと宿屋にいますよ俺は」としか言わんし。

 あやつ自身に常人離れしているという自覚がないから、要領を得ない。


 仕方なくわし自らが、調査に乗り出したというわけじゃ。



 ―――決して暇なわけではないぞ。



 王国としても、素性のしれん怪物を抱えておくわけにはいかん。

 というか、ぶっちゃけわし自身が気になってしょうがない。と言うのが本音じゃ。



 繰り返すが……決して暇なわけではないからな。



 ふむ、どうやらバルドとその弟子たちは朝練をしているようじゃな。

 リエナは洗濯か? くぅ~~わが愛しの娘に白ティー洗ってもらうなんて!


 わしだって洗ってもらったことないのに!


 っと……いかんいかん、あまり騒ぐと気づかれてしまうからのう。


 さて……王城から持ってきたメガネをかけてと。

 レンズ越しにじっくりと観察する。


 断っておくが、聖女殿の躍動感あるタユンな膨らみや、剣聖殿のシュッとしたはりのある桃を見るためじゃないからのう。

 一国の王がのぞきをするなど、言語道断じゃ。


 これは貴重な魔道具で、レンズを通して対象者の魔力やパワーの量を測定できるのじゃ。


 ―――どれ


 おお、聖女殿はとんでもない魔力を持っておる。とくに2つの膨らみに集中しておるな~~タユンポヨン。

 ふむふむ~~剣聖殿は良き桃をもっておるのう。惚れ惚れする後ろ姿じゃのう~~プリンプリン。



 ―――って違うじゃろ!



 これではガチのぞきではないか!


 わしは気を取り直して観察を続ける。

 む? 聖女殿と剣聖殿、魔力とは違う数値がでておる。これが【闘気】かのう。


 ふむ、レンズで2人の【闘気】の流れを追ってみたわかったぞ。2人とも要所で【闘気】を練り上げて使用しているようじゃ。

 恐らくは、長時間高密度を維持できるものではないのだろう。


 が……一休みしているバルドに視線を移すと……



 ―――【闘気】が漏れ出ておる!



 というか垂れ流し状態ではないのか?


 しかし弟子2人のように、意図的に【闘気】を練り込んでいる様子はないんじゃが……

 わしとてかつては「殺眼の魔獣」と呼ばれた武芸者。奴は今、間違いなく休息しておるぞ。


 どうなっておる?


【闘気】とは自然体から漏れ出るものなのか?


 わからんことばかりじゃ。


 お、バルドやつ。訓練を再開したな……どれどれ

 わしは魔導メガネをクイっとあげて、バルドの【闘気】の流れを見ようとするも……


 ―――パキッ!


 へ?


 バルドが【闘気】を練り始めているというのに……肝心な時に故障かのう。


 ――――――バキバキッ!!


 はぁわあああ! 魔導メガネが粉々に!?


 なんじゃこりゃ……測定不能じゃと……


 バルドの【闘気】は規格外にも程がある、ということなのじゃろうか。


 わしは一つの仮説を立ててみた。


 あやつは【闘気】を常に宿しておるのではないのだろうか。しかもいざとなれば、その【闘気】をさらに高めることができるのでは。


 自然体としての日常生活における【闘気】が、聖女殿や剣聖殿が意思を持って練り出した【闘気】と同等か、いやそれ以上なのだとしたら―――


 あやつは今までの人生において、常に【闘気】の鍛錬をしていることになる……


 この世に生まれてから毎日。食事の時も、風呂に入る時も、寝ている時ですら。



 ―――【闘気】の達人ではないか……



 あやつはいったい何者なんじゃ?



 今いちど王城に戻り、集めさせた資料を洗い直しじゃな……ひとつ、腑に落ちぬ点もあるしの。



「ねえ、さっきからあれはなんなんでしょうか?」

「ああ、あたしも気になっていたんだ」

「ミレーネ、アレシア……ごめんなさい。気にしないで……」


 ―――!?


 なに! わしの完璧な擬態が見破られているというのか? 恐るべし……バルドの弟子たち。



「お~い、リエナ~お父さん来てるぞ~。木の枝持って隅っこで何してるんだ?」

「バルドさま、シー。あれ隠れてるつもりなんです……」

「隠れる? よくわからんが暇なのかな?」

「さ、さあ。気にしちゃダメです。セラが美味しい朝ごはんを作ってくれましたから。行きましょう」



 ぐっ……おのれバルドのやつめ、あとで覚えておれ。


 しかし、今は王城に戻りバルドの正体を見極めねば……


 ―――ガブっ!


 んん? なんじゃ? 犬? いや魔導人形か? 


 これ! 離れるんじゃ!


 キャンキャン!


 なにがキャンじゃ! 可愛い声して恐ろしい力で噛んできよるぞ、この犬!



「シロ~~おいで~ご飯だぞ~~それは噛んじゃダメだ。バッチイだぞ」


 キャンキャン!



「………」



 ぬぅうう、おのれ~こうなったら意地でもあやつの正体を暴いてくれるわ!


 集められた資料だけを読んでおった時はかわからんかったが、今朝のバルドを見て思い出したのじゃ。


 あやつは恐らく……



 勇者の里に関係しておる。





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