第53話 オッサンの出自

 ◇ナトル王視点◇


 王城の宝物庫で、わしは大量の資料に埋もれていた。

 どれもバルドに直接関係無さそうなものばかり。


「う~む、どこにあったかのう~~」


 色々と調べていくうちに、一つの事実にぶちあたった。


 バルドのやつ、ずっとフリダニアの王都におったのかと思いきや……そうでは無かったのだ。

 どうやら王都で宿屋をはじめたのは、20年ほど前ということが分かった。


 バルドの年齢はたしか40手前。


 そして幼少の頃から、両親の宿屋を手伝っていたと言っておった。

 わしはフリダニアに代々続く家系かと思っておったんじゃが……違った。


 そして……


 20年前から、フリダニアにはバルドの痕跡が一切ない……

 調べても出てこないのじゃ。



 ―――では幼少の頃は、どこで宿屋をやっておったんじゃ?



 そしてあやつの使う【闘気】


 あんなものは初めて見た。わしもかつては戦場で名をはせた者の1人じゃ。

 じゃが【闘気】など使うやつは初めてじゃ。


 ここでわしはあることを思い出した。


 ―――勇者である。


 はるか昔に、魔王を討伐したとされる伝説の人物。


 勇者は特殊な力を使って魔王を討伐したとある。


 この特殊な力とは、具体的にはなんことかはわからん。


 強靭な肉体を誇ったのか?

 強力な魔法を使ったのか?


 もしかしたら……


 ―――【闘気】のことではないのか?


 バルドの扱う【闘気】は尋常ではない。勇者の力と言われてもおかしくはない。


 そしてもうひとつ。


「勇者の里」といわれる場所があるらしい。

 本当に実在するのかわからんのじゃが。


 今でこそ勇者は1人というような認識が広がっておるが、違う説がある。


 この【闘気】を扱う一族の総称という説じゃ。


 その里で【闘気】の訓練をうけた者たちが、魔王を討伐した。


 そう考えると……


 あやつの故郷はこの「勇者の里」なのでは!?


 一説によると人里から離れた秘境にあり、SSS級の魔物がウヨウヨしているとんでもないところらしい。

 日常茶飯事にそんな魔物と相対しておれば。


 ドラゴンをドラゴンとも思わないやつになるのではなかろうか。


 バルドのように。


 そしてあやつは【闘気】ならある程度の人間は、みな使えるとよく言っておる。


 もし周りが勇者並みの力をもったやつらばかりだとしたら。

 それを常識と思っているなら。


 バルドが幼少の頃いた宿屋とは、「勇者の里」にあったのではないか?



 つまり―――バルドは勇者の子孫ではないのか?



 手掛かりは、「ダルシス」というあやつの家名しかない。


 う~む、たしか鉄製の分厚い本があったはずんなんじゃが……

 勇者の里について書かれていたはず、どこいったんじゃ。


 結局その本は見つからなかった。


 わしは宝物庫から引っ張り出した大量の本を戻すように命じて玉座に腰かけた。


「ふ~~結局無駄足か……」


 少し想像が飛躍しすぎたかのう。

 勇者うんぬんはあくまで仮説に過ぎず、なんの確証もない。


 やはりバルドは、ただのオッサンなのかのう。



 ナトル王は再び頭を抱えるのであった。

 王が探していた本を当の本人が鍋敷きにしていたのがわかるのは、かなり先のことである。





 ◇帝国視点◇


 大陸最大の国家、トメキア帝国帝都のとある会議室にて



「まさか極大魔物大量発生メガスタンピードを防ぐとは……」

「フリダニアの聖女は、ナトルとフリダニア全てに【結界】を展開したようだ。しかも直前に解雇されたとの情報も入っている」


「聖女を解雇とはな……なぜなおもフリダニアを助けるんだ?」

「それはわからん。が、当の解雇したゲナス王子はスタンピードを前に逃亡して、行方不明となっている」


「逃亡とは……やはりアホ王子だったか。いずれにせよフリダニア国内は混乱するだろうな」

「いや、それが第一王女のマリーシアが代理としてなんとかまとめ上げているようだ」


「なるほど、姫君か。我々としてはアホ王子の方が良かったのだがな」

「さらに、「せーい」という大声とともに聖女の【結界】がとてつもない速度で広がっていった、という報告も入っている。我々が今回の仕掛けとして用意したヤマタノシンリュウもその【結界】に吹きとばされたようだ」


「ヤマタノシンリュウはSSS級の魔物だぞ……いったいどんな【結界】なんだ……。それに「せいっ」の詠唱とは少し違うようだが、まさか例のオッサンが絡んでいるのではないだろうな」


「そのオッサンについて、いまだ有益な情報はないのだが……」

「だが? なんだ?」


「フリダニアに長く潜伏している諜報員からの情報だ。20年ほど前に、勇者の里からフリダニアに来た男がいるらしい」

「おい、ちょっと待て。勇者の里だと? そんなもの、ただの昔物語ではないか。報告するようなことではないぞ」


「いや……里は実在するのだ」

「なんだと! 初耳だぞ! 俺ですら知らん情報だ!」


「これは帝国における最重要極秘情報だが、魔王を討伐した勇者の子孫たちが暮らす村は存在する。いや……していた」

「なんということだ、下手をすれば帝国の脅威にもなりかねんではないか! まさか! 悪魔のオッサンも勇者の子孫なのか!」


「その可能性は、大いにあり得る。あのデタラメな強さを考えればな。はるか昔に当時の帝国は、勇者の里には手を出さないと決めたのだ。人里離れた秘境に大人しくしている分には無害だからな」

「たしかに……悪魔のオッサンがウヨウヨいる里など刺激したら何が起こるかわからんな。が、なぜ過去形なのだ?」


「里は20年前に消滅したのだ」

「しょ、消滅だと……!?」


「やつらはある物を求めて、外界に出て行ったらしい。散り散りにな」

「そんな化け物みたいな奴らが、外界で何を求めるというのだ?」


「いや、閉鎖的な世界では、外界における普通のものが衝撃を与えることもある」

「まあ……無くもないか……で、ある物とはなんだ?」


「報告書によるとだな……」

「うむ、よると?」



 ―――アンパンだそうだ。






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