第50話 オッサン、宝物庫へ行く

「バルドさま~~こっちです~~」


 奥の方からリエナの元気な声が聞こえてくる。

 俺たちはナトル王城内の宝物庫にいる。王様が褒美として何か持っていけというからだ。


 宝物庫の鍵とか渡しちゃダメだろうと断ったのだが、ドン引きするほどグイグイ押し付けてきたので止む無く受け取った。


「好きなもの持って帰りましょうね~~」


 なぜかテンション高めの王女リエナ。

 そんなノリでいいのだろうか……ここの王族は、親子そろって大丈夫なのかと心配になるよ。


 にしても、なんか想像してたのと違うな。もっとピカピカした金銀財宝の山といったイメージだったが、どちらかというと地味目なものが多いし、部屋全体が薄暗い。



「バルドさま~剣なんてどうですか? これ凄そう~」

「いや、俺の剣はまだ折れていないから大丈夫だぞ」


「え? 折れるまで使う!? あ~~たしかに。バルドさま、宿屋の道具はどれも壊れるまで使っていますものね」


 リエナの言う通り、俺は基本壊れるまで使うからな。

 もちろん客に見えるものは、汚くなったら買い替えなどは当然する。だが、俺の剣など誰も見ないし興味もないだろうからな。


「でもせっかくのご褒美なんですから~とりあえず持ってみるだけでも~はい、これ」


 リエナが天使の笑顔で、大層な箱から取り出した剣を渡してきた。

 無下に断るのもあれなので、取り合えず持ってみる。


「うむ……」


「え~っと、バルドさま、それは神剣エクスカリバーだそうです」


 リエナが箱のプレートを読み上げてくれた。


「ふむ……」


「ほらぁ、バルドさまにぴったり~」


「……」

「どうしたんですか? バルドさま、さっきからあまり反応がないですけど」

「手が痛い……」

「え?」


 柄の部分がゴチャゴチャしてて痛い。こういのうはシンプルで持ちやすい方が良いんだ。


「そっか~~カッコいいからバルドさまにピッタリなんですけどね~。あと売ると金貨50万枚分ぐらいの価値があるらしいですから。いざとなったら売っちゃえばいいかなぁ~って」


 ―――んん?

 

 リエナさん、いまなんと!?


「とりあえず売る用で持って帰りますか」


 箱ごと持ってくるリエナさん。


「ちょ、ちょ、ちょっとリエナ待ってくれ。これは置いておこう」


 俺は必死でリエナを止める。

 50万枚ってもうオッサンの脳内でアンパン換算してみたが、何個分なのかすらわからんぐらいの桁数いってしまった。


 そんなもんが店内にあるだけで、気が休まらないよ。勘弁してほしい。


「剣は気に入ったものがないですか? じゃあ防具ですかねぇ」


 リエナが俺の袖をつかんで、グイグイ次のコーナーに連れて行こうとする。


「ちょっと待ってくれリエナ。俺は兵士ではなく宿屋のオッサンだぞ。そんな装備よりももっと実用的なものがいいよ」

「う~~ん、実用的ですか……宿屋で使える装備と言えば……あっ! ちょっと待っていてくださいね♡」


 え? 待つ? 自分の装備をみるのかな?


 ―――待つこと10分。


「バルドさま~~こっち来てください~~」


 言われるがままに、声のする方へ向かうと……


 ―――!?


 リエナとミレーネが、ビキニを着てらっしゃる。

 年頃の美少女美女が何やってんの!? マジで!


「な、なにを……!?」

「何って? 防具選びですよ。ビキニアーマーは魔法耐性が強くて優れものなんですよ」


 あ、これ防具なんだ……。オッサンにはビキニにしか見えん。


「バルドさま~~どうですか? 似合うでしょ♡」


 リエナがくるくる回転している。もう2つの膨らみがたゆんたゆんだ。


「ワタクシのは聖女用のビキニアーマーですよ、バルド先生」


 聖女用のビキニってなに!? 


 ―――ってミレーネもくるくる回り出した。

 こちらもリエナに負けず劣らずのたゆんたゆんだ。


「バルドさま~わたしたちの夏制服はこれにしましょうか~~」


 ダメだ! 絶対ダメだ!


 理由は俺のクソザコ理性が1分と持たないからだ。

 あと、たぶん全ての男性客は色々とマズいことになる。


「は、早く脱ぎなさい!」

「ええ~~脱いだら裸ですけど~~そっちがお好みですか~♡」


 何言ってるの? いや、リエナの言ってる事は正しいか……いや違うだろ!

 とにかく2人にはすぐに着替えてもらう。これ以上たゆんを見たらオッサン鼻血出ちゃう。



 しかし、色々と見て回るもあまり欲しいものはないなぁ。

 どれも使えない感じがするんだよね。


「バルドさま~こっちは本がいっぱいありますよ~」


 たしかに、大量の本が所狭しと積まれている。どれどれ……


「古代魔法と魔力の方程式」

「ナトル王国歴史大全」

「禁術の書~隷属編~」


「う~~ん、もっと最近のはないのかな?」

「最近のですか? これなんか比較的新しいかもです」


「どれどれ……「マテウス王の筋トレ」……えと、これは?」

「はい、お父様の若かりし頃に書いた筋トレ本です。ビックリするぐらい売れなくて、可哀そうだから1冊だけ宝物庫に入れてもらったようですね」


 いや……最近って数十年前じゃないか……パラパラとめくってみると、王様の微妙なポージング魔導写真が大量に貼り付けてあった。これはさすがに売れんだろ。


 ロビーや食堂で、客がサッと読めるものが良いのだが。

 そもそも宝物庫にそんな本を求めちゃダメだな。


「ご主人様、セラはこれがいいデス」

「随分と分厚い鍋敷きだな」

「セラの火力が強くて、市販の鍋敷きだとすぐに焦げちゃうのデス」


「あ、バルドさま、セラ。それは本ですよ」

「ええ! これ本なの? なんか分厚い鉄板にみえるけど。なになに「勇者の里」なんだこりゃ?」

「はるか昔に魔王を討伐した勇者関連の本ですね」

「本なのかぁ……さすがに鍋敷きにするわけにはいかないだろ……」


「別に構わないですよ。どうせ誰も読みませんから。それにその本は鉄製なうえに高度な耐火魔法が付与されていますから、燃えたりしないので」


 いいんだ……


 まあ王家の許可が出てるのならいいか。なによりセラが気に入っているみたいだしな。その鉄本。


 ―――あれ?


「鉄本になにか引っ付いてるぞ?」


 俺は引っ付いている本を剥がすと、その場で固まってしまった。


「アンパンの全て~始まりのアンパンから世界のアンパンになった物語~」


 ―――めっちゃ面白そうじゃないかぁああ!!


「これ! リエナこれ! これ! これ!」


 ヤバイ興奮して言葉が「これ」しか出ない。


「はいはい、大丈夫ですから。この鉄本と一緒に包んでおきましょうね」

「お、おう……」


「にしても勇者の本にアンパンの本って……随分とジャンル違いな本のまとめ方ですね」

「そ、そう……」


 いやスマン。ちょっと興奮が冷めないから、まともに会話できん。


「ふふ、今更ですけど、本当にバルドさまはアンパンが好きなんですね」

「お、おう……」


 そんなやり取りが一通り終わって、だいぶ時間も過ぎた。



 さて、そろそろ帰るかとみんなに声をかけ始めるが。

 そういえばアレシアは……どこいった? ずっと見ていない気がする。


 ん……いた!


 なんだか隅っこで木箱を覗き込んでいる。


「アレシア、なにか気に入ったものは見つかったか?」

「先生……これ」


 木箱の中身は人形だった。それも白い子犬の。


「ああ~これ魔導人形ですね。犬型の」

「ええ! てことはセラの動物バージョンみたいなもんか」


 じ~~と、人形を凝視するアレシア。


「アレシア、欲しいんだな」


 コクコクと頷く剣聖アレシア。少し頬が赤い。


 アレシアは男勝りなイメージがあるが、実はかわいい人形や小動物が好きだったりする。

 騎士団に入団してからは、そういった趣味は表に出さなかったようだ。だが、俺の宿屋で働くようになってからは、少しずつそういった一面も出すようになってきた。


「これ、セラと同じなら魔導石で動くんだよね?」

「ええ、バルドさま。説明書によるとここに魔導石が……」


 子犬のお尻をゴソゴソするリエナ。


 くっ……セラと同じ製作者か……なぜ魔導石の設置場所をそこにするんだ……


 魔導石に【闘気】を込めて、子犬に入れると……


「キャン、キャン!」


 動き出した! 小さな尻尾をフリフリ、ヤバイなんかカワイイぞ!


 アレシアが大喜びで抱き上げる。


 リエナ、ミレーネ、セラになでなでされて「クゥーン」とか言っちゃってる。


「せ、先生も撫でてあげてください」

「お、そうか……どれ……」


 ガブっ!!


 噛みつかれた……


 咄嗟にセラの持っていた鉄の本で防いだけど。くっきりと歯形ついてんじゃん!

 どうやらセラと同じく俺の【闘気】を注入して、パワフル犬になってしまったようだ。


 これは連れ帰って大丈夫なのだろうか?


「ああ~~シロちゃんったら、噛みついたらめっ! ですよ~」

「そうだぞ、シロ~あたしの言う事ちゃんと聞くんだぞ~」

「まあまあ、シロは強いのね~」

「シロ、セラと一緒。友達デス」


 もうみんなが名前まで付けちゃってるよ……これは連れ帰るしかないな。

 ていうかシロって名前になったのね。


 まあ番犬ぐらいにはなるか。


 キャンキャン!


 リエナとミレーネの膨らみに挟まれるシロ。


 こいつ……ちょっとうらやましいじゃないか。


 こうして宿屋「親父亭」に新たな家族(?)が増えたのであった。




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