【追放された宿屋のオッサンは、今日も無自覚に無双する】スローライフを送りたいのに、なぜか国で要職に就く最強美女の元弟子たちが俺を慕って雇ってくれと集まるんだが~ちょろっと教えただけなのに~
第44話 オッサン、ドラゴンタートルを「せいっ!」する
第44話 オッサン、ドラゴンタートルを「せいっ!」する
「バルド先生……」
「ミレーネ、大丈夫か?」
「……はい」
ミレーネはギュッと3人の子供を抱きしめて、顔を綻ばせた。
「「「うぷ、せいじょさま~どうしたの? くるしいよ~」」」
子供たちを抱きしめる手が震えている。
最も苦手な魔物を前にしても怯まず立ち向かったのだろう。
魔力もほとんど使えない状態で。
ここまで大きな【結界】を展開しながらだ。
俺はミレーネの瞳に視線を向ける。
「ミレーネ、良く頑張った。偉いぞ」
彼女は今にもこぼれ落ちそうな大粒の涙をぬぐって、コクリと頷いた。
「さて……だがまだ終わっていないぞ。ミレーネ、君は【結界】の展開に集中。リエナ、子供たちを連れて下がってくれ」
でかいカメは3つあるうちの1つの首を失ったが、依然へばる様子もなく残った2つの首を唸らせながら、怒りに巨体を震わせていた。
ナトル各所の防衛ラインが、魔物たちに突破されたという報告は入っていない。
とすれば、あとはミレーネの【結界】が完全に広がりきれば、この
オッサンに出来ることと言えば、目の前のカメ退治ぐらいだ。
少しは先生らしいところをみせないとな―――
「こいつは――――――俺がやる!」
グゴォオオオオオオ!
グゴォオオオオオオ!
でかカメは、怒りに我を忘れたように2つの首を振りまわしながら、俺の方へドシドシと突進してくる。
俺を踏みつけんと、その大きな前足を叩きつけてきた。
「せいっ!」
俺は攻撃を躱しつつ、【闘気】を込めた斬撃をその前足に叩き込んだ。
グギャッ! グウウウ!
でかカメの前足から血が噴き出して、バランスを失いその場にズーンと崩れ落ちる。
―――遅い……
いや……カメだから遅いのは当然か。
斬りつけられたことに苛立ったのか、2つの首がグッと持ち上がり、大きな口をパックリと開いた。
開かれた口から何かを吐こうとしているようだ。
グゥウ! グゥオオオオオ!
―――まさか! これは!?
ヤバイ、アレ(ゲ〇)を吐く気だ!
こいつマジかよ……なぜここまで吐きまくる?
だが、良く考えればこいつは地中を突き進んできたはず。
そりゃ気持ち悪くもなるか……
地上に出れば強い個体に捕食されるしな。ここまで図体がデカいだけだと恰好の餌食だ。しかも動きがすこぶる鈍い。
無理を押して地中を掘り進んでいたのだろう。
こいつなりの事情があるのはわかるが……
―――神聖な教会で吐くんじゃない!
「――――――【一刀両断】せいっ!」
グギャアアアア!!
でかカメの悲鳴とともに、2つ目の首が宙を飛んだ。
俺は間を置かずに、最後の首を斬り落とそうとするも……
「――――――!?」
なんと残った一つの首が甲羅の中にスッポリ収納されて、高速で回転し始めたのだ。
ゴゴゴーという騒音とともに、回転させた甲羅ごと体当たりしてくるカメ。
おい! なにやってるんだ! 正気か!
ただでさえ気持ち悪いんだろ。
そんなグルグルと回転などしてみろ……
もはや甲羅の中身は地獄だぞ!!
俺の悲痛な叫びなど魔物に届くはずもなく、でかい甲羅はさらに回転を速めて俺に突進を繰り返す。
しょせんカメなので、攻撃をことごとく躱す俺。やはり魔物か……
知能はそこまで高くないのだろう。
だが……
―――ここで暴れさせるわけにはいかん!
ゴゴゴーという轟音を立てながら、真正面から突っ込んでくるカメ。
すぅうううう
【闘気】を練り上げて一気に絞り出し、全身に循環させる。
―――スッ
銅貨1枚の愛剣を正眼に構えて目標に視線を集中。
甲羅が俺の眼前に迫った瞬間―――
―――――――――せいっ!!
俺の放った【一刀両断】の斬撃は、甲羅ごとカメを真っ二つに切断した。
ズズンと地面を揺らしながら、2つの大きな肉片が地に落ちる。
「ふぅう……カメ退治完了だ」
「ええぇえ~あの甲羅って剣で斬れるんだ……」
駆けつけてきたリエナがその瞳を白黒させて、真っ二つになった甲羅をみつめている。
「なんだあのオッサン! ミスリルより硬いと言われるドラゴンタートルの甲羅を斬ったぞ!」
「ていうかあの回転は神の閃光ではないのか!? 一夜で一国を滅ぼした滅びの回転と言われる!」
「なにぃい! あのひとたび発動すれば街を削りつくすまで止まらないという!?」
なんか周りの騎士たちが騒ぎ始めた。
この国の騎士は大げさな奴が多すぎるな。
賞賛されるのはカメ退治をした俺じゃないだろ。
俺は礼拝堂の奥で今も全身全霊で【結界】を広げているミレーネに向けて手を上げた。
「ミレーネ! これで邪魔者はいなくなったぞ! ナトルのすべてに光の壁を広げてやれ!」
ミレーネがニッコリと笑顔で応える。
彼女の身体からは、純白の光が絶え間なく溢れ出していた。
よし、これで【結界】はナトル全土に広がるだろう。
「バルドさま……カッコ良すぎでしょ……」
横にいたリエナがボソっと何かを言った。なんか目がキラキラしてるこの子。
「ふぅう~なんにせよオッサンの出番は終了だな」
「ふふ、もうじゅぶんすぎるほど活躍しましたね。バルドさまに怖いものは無いんでしょうね」
そんな他愛もない会話をしていると―――!?
ブルブルブル
「うわぁ~~あれきたぁあああ! り、リエナ~~きたよぅううう!」
俺のポケットで通信石が揺れている。
フリダニア王国第一王女様だ……
「ええ!! ドラゴンタートルよりマリーシアさまのほうが怖いんですか!?」
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