【追放された宿屋のオッサンは、今日も無自覚に無双する】スローライフを送りたいのに、なぜか国で要職に就く最強美女の元弟子たちが俺を慕って雇ってくれと集まるんだが~ちょろっと教えただけなのに~
第43話 オッサン、ドラゴンタートルに突撃する
第43話 オッサン、ドラゴンタートルに突撃する
「うわぁ~~ミレーネの【結界】凄いですね! バルドさま!」
「ああ! 凄いだろう! なんといっても聖女だからな!」
俺は【結界】に瞳を輝かせているリエナを見て、少し誇らしくなった。
ミレーネは本当に立派な大人になった。あの泣き虫な女の子が、聖女にまでなって人々の希望となっている。
人々の希望であるミレーネの【結界】は、その光の壁をドンドン広げていく。
俺はリエナとミレーネのいる中央教会に向かっていた。
宿屋の方はアレシアとセラに任せている。
といってもミレーネの【結界】はすでに王都全域をカバーし終えているので、宿屋に魔物が侵入してくることも無いだろう。今はナトル王国全土へとその光の壁を広げている最中だ。
「にしてもバルドさまは本当にアンパンが好きですね~~」
「はは、そうだな。でもミレーネも負けず劣らずのアンパン好きだぞ~」
俺が背負うバックパックには、アンパンがたくさん詰め込んである。
ちょっとした差し入れだ。長時間の激務だろうから、サッと糖分補給できるアンパン。
これだけの【結界】を広げつつ維持するのは大変なことだ。
オッサンごときが出来ることなど知れてるだろうが……
大事な愛弟子が頑張っているのだからな。
何かやってやりたい。
―――ドーンっ!!
俺たちが目指すその教会から、凄まじい音が鳴り響く。
「ば、バルドさま! 地面が……!」
グラグラと揺れる大地。
何か異変が起こったようだ。
「―――とにかく教会へ急ぐぞ!」
◇◇◇
「バルドさま~~教会に近づくにつれて揺れが大きくなって……な、なんですかっ! あれ!!」
リエナが驚愕の声をあげた方向には、半壊した教会から何か大きな半円ドームのようなものが見える。
「まさかっ……魔物ですかっ!」
「ああ、そのようだな」
「で、でも! ミレーネが【結界】を広げているのにどうして魔物がいるの!」
たしかにリエナの言う通りだが、現に魔物は暴れている。
まずはこいつを何とかしないとダメだ。
オッサンでも対応できる魔物ならいいのだが―――
教会に近づくにつれて魔物の全貌が明らかとなりはじめる。
「―――ば、バルドさま! あれは!」
「ああ……」
「あれはドラゴンタートル(亀形竜種)!? なんて大きさなの! しかも首が3つもある! これは魔物ランクS級超えてSS級ですよ! こんなのにどうやって対抗すればいいの!」
「……いや、リエナ。よく見てみろ」
「ええっ……良く見るというかデカすぎて、さっきから余すことなく見えまくってますけど……あ! まさか……」
「あれはドラゴンではないぞ」
「あ……やっぱり。えと、一応理由を聞いてもいいですか?」
リエナが何故か理由を聞いてきた。
誰でもわかると思うが一応説明するか―――
「―――――――翼がない!!」
そう、とても単純明快なことである。
「リエナ、前にも言ったがドラゴンってのは翼の生えた魔物だ(実際に見たことはないけど)」
「あ……はい」
「よく観察してみろ。背中に何がついている?」
「えと……甲羅です……」
「これでわかったな?」
「え……どういう」
「要するにあれはカメだよ。厳密にはカメのでかいやつだ。だからそこまで不必要に恐れなくていいんだ」
「ええっ! さすがにそれはどうなんだろう……でもバルドさまが自信満々すぎるよぅ……」
「安心しろリエナ。俺は昔、あれの首8つある奴を討伐したことがある。正直たいしたこと無かったよ」
「首8っつぅううう!? それ、もう神話に出てくる魔物なんじゃ……」
「はは、面白い冗談だなリエナ。たしか、ヤマタノなんとかっていうカメだったぞ。ただデカいだけの奴だ」
暫くの沈黙が続いた後、リエナがなにやらブツブツ呟きはじめた。
「ふ~~大丈夫! 大丈夫よ、リエナ! ちょっと解釈が違うだけなの! カメドラゴンのカメなところが多いと思えばカメよ、あれ! そうよ、バルドさまを信じるの! うぅうう~~リエナ~~ファイトッ!!」
おお、掛け声まで出して。リエナも気合じゅうぶんだな。
そうだ、しっかり分析すれば、大抵のことはいくらでも対処できるんだ。
大きな爆発音から駆け出すこと数分後―――俺たちは教会の入り口に到着した。
「バルドさまっ! ミレーネが!!」
「む……」
半壊した教会の奥に、ミレーネがいた。
彼女は魔物から子供たちをかばっているようだ。
―――ミレーネ……
頑張ったんだな。
本来ならこんなカメごときに、ミレーネの【結界】が破られるわけがない。
礼拝堂に大きな穴が開いている。恐らくは地中から出てきたのだろう。普段のミレーネなら魔物の接近を察知できたかもしれないが、【結界】の展開に多くの力と注意力を割いているからな。
それでも頑張ったのか。
無理を押してでも。
彼女の表情をみればわかる。
必死に恐怖と戦っている。
―――さて、俺も彼女の元先生だ。
だったら……
弟子ばかりにやらせるわけには―――
「―――いかないなぁ!」
俺は地に両足をしっかりと固定して、グッと拳を握る。
一気に【闘気】が全身を巡りはじめる。
グゥウ! グゥオオオオオ!
カメの首のひとつが、ミレーネと子供たちを包む結界にむけて大きな口を開く。
「あ、あの光は……まさかあんな至近距離でブレスを吐く気なの!?」
リエナが、緊迫した声を上げる。
―――ぶれす? 吐く?
ああ、こいつもか。宿屋を襲撃したトカゲと同じだな。
前回のやり取りでオッサンは完全に理解しているぞ。これはアレ(ゲ〇)を吐く気だ。
俺は、地を蹴り。でかいカメとの距離を一気に詰める。
―――神聖な教会で、聖女や子供たちにそんなもの吐くんじゃないぃいいい! この不届き者が!
「―――【一刀両断】――――――せいっ!」
俺の掛け声とともに、カメの首が宙を舞った。
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