第29話 オッサン、新品の洗濯窯に感動する

「うぉおおお! 凄いぃ! これだけあればいくらでも洗えるぞ!」


 俺は王様から貰った10台のピッカピカ新品洗濯窯がズラーっと並んだ様を見て、1人ウンウンと頷いていた。


 防衛戦から1週間が経った。客足も以前のように戻っている。いや以前以上な気がする。


 ちなみにアレシアの元部下たちは、いったんフリダニアの故郷に各自帰った。国軍の所属ではなくなったから、各自なんらかの職を見つけるのだろう。


 ヌケテル将軍とその部下たちもフリダニア王国に帰還した。まあ、ナトルの防衛戦は大勝利で終わったからな。意気揚々と帰っていった。

 ちなみに俺からも新品白ティーシャツを数枚渡してやった。あいつは全裸で鎧を装着するからな。英雄の肌着だとか言いながら泣いて喜んでいたけど。いや、ただのオッサンの肌着だぞ。


 しかし―――


 ―――新品10台とは壮観な眺めだなぁ。


 最高の褒美だよ。これで洗濯関係で問題が起こることはなさそうだ。


「これだけあれば、みんなもオッサンとは別の洗濯窯で洗えるしな」


 美女美少女たちの衣服と、オッサンの白ティーシャツを混ぜてしまうことも無くなるだろう。

 俺は、早速洗い終わった洗濯物を洗濯窯から出し始める。


 ヤバぁああ、めっちゃ白いぞ! うわ~これいいやつだぁ。


 うっきうきで洗濯物をパンパンしながら干していくと……なんか、布面積少なめの白ティが出てきた。


 ……んん? 白ティって三角形だったか?



 ―――って、パンツじゃねぇえか!



 待ってくれ! なんでオッサンの白ティと混ぜてんの!


「あ~~バルドさまったら~またパンツ持って! 好きなんですね♡」


 タイミング良く、いや俺にとっては悪くリエナに現場をおさえられた。パンツ好きってなんだよ。いや……まあ……嫌いかと言われるとそうでもないけど。んん? なに言ってんだ俺。


「というか、リエナ。なんで一緒に洗ってるんだ? こんだけ洗濯窯あるんだから。別々にしていいんだぞ」

「ええ~~!」


 なぜそこで驚きの声が出る? いや、待てよ洗濯窯だって水や洗浄剤を使用する。出来る限りまとめて無駄使いをすべきではないということか。

 なるほど、しっかりしているなリエナは。王女とは思えん生活感だ。


「だあって~バルドさまの匂いがした方がいいんだもん~」


 ―――全然違った。


 というか正気かっ!


 臭いだと……オッサンだぞ! 自分で言うのもなんだが俺オッサンだぞ! 


「い、いやリエナ……普通は混ざっていたら嫌だろう?」


「ふふ、バルドさまったら、変なこと言うんですね。これからも一緒に洗いましょうね~♡」


 ええぇ~何を言ってるの? この娘!


 不安だ……リエナは俺の宿屋で働き続けていいのだろうか?  

 王様に、わしの大事な娘をおかしくしおって! どうしてくれんだ! とか言われたらどうしよう。


 そもそもリエナはやたら飛びついてくるし、距離も近い気がする。もしかしたら固い王族暮らしから、一般平民暮らしに急変したひずみかなんかが出ているんじゃないか。

 俺だって今の宿屋業務から全く違う職場に環境が変わったら、精神的にまいってしまうだろう。俺はどうしたもんかと唸りつつ、手にしていた洗濯物をパンパンして、しわを伸ばして、竿にかける……



 ―――いや、だからこれパンツだったよ……



 俺、パンツ握りしめて思案にふけっていたのか……もう完全に変態オッサンだわ。


「あ、バルドさま~洗濯窯の魔導石交換しないと。またお願いしますね」


 若干落ち込んでいる俺に、リエナは満面の笑みで魔導石を渡してきた。

 まあ、リエナに関してはそっと様子を見るしかないか。オッサンが出来ることがあればしよう。ということで魔導石に【闘気】を入れる。


「せいっ!」


「わあぁ~バルドさま、ありがとうございます。【闘気】って便利~」


「まあ、【闘気】は多少訓練された者なら誰でも使えるからな。あ~でも洗濯窯に使っている奴は流石にいないかもしれんけど」


「誰でも? ですか?」 


 リエナがキョトンとした顔をする。

 俺は再び洗濯干し作業をしながら話を続けた。


 これは俺の父親も出来ていた、そして祖父も。うちは代々宿屋の家系だ。なのである程度訓練したものは誰でもできる。俺の弟子たちも幼少の頃にすぐに会得したしな。

 ただし毎日訓練しないとダメだ。【闘気】が体中に巡る感覚を常に養う必要がある。こう体中がカァーとなる感じ。


 などとつらつら説明してたら、「もうバルドさまたら~また洗濯物握りしめてますよ」と笑われた。


 おっと、力が入りすぎた。オッサンの年になるとどうも説教くさい感じになっていかん。



 ―――ってまたパンツ握ってるじゃねぇか!? 



 ヤバイヤバイ、俺は今日ずっとパンツ握ってるぞ。完全に変態オッサンだ……従業員にセクハラで訴えられるじゃないか。


「せ、先生! リエナ! 受付お願いします! あたし1人じゃ……」


 俺が慌ててパンツを干していると、アレシアが顔面蒼白でこちらに駆けつけてきた。うむ、アレシアもコミュ障気味ではあるが、頑張って最近受付もやってくれている。少しずつだが前進している彼女を見ると微笑ましくなるよオッサン。


「バルドさま?」


 リエナがキョトンとした顔で首を傾げる。オッサンの微笑みが漏れていたようだ。でも、別に俺の娘ではないんだけど成長っていうか努力をしている姿って見てるとほっこりするんだよな。


 と、ニヤついてる場合じゃない―――さあ、仕事だ。


 すでにロビー受付に客が並び出している。最近客が増えている。

 王様がナトルの英雄宿とか意味不明なことを国民に言ってたからか? まあ英雄の剣聖アレシアが働いているからあながちウソでもないけど。


「先生ありがとうございます! あたしはあいつら……じゃないお客様の荷物を部屋に運んできます!」


 アレシアがメイド服姿でピューと慌てて駆けて行った。


「バルドさま~受付がはけたら書類が溜まっているから処理しますね、あ、あと食材発注しなきゃ」


 リエナがせわしなく体を動かしつつ、顧客対応にあけくれる。


「ご主人サマ……セラは作りかけの料理があるので厨房に戻りマス、そのあとロビーの清掃、204号室のランプ修理シテ、ソレカラ……」

「ちょっ! セラ! 煙出てる! 煙!」


 慌てて煙を消して、セラをソファーに座らせる。

 うむ、これは忙しすぎるのでは? スーパー仕事できる魔導人形のセラですら満身創痍じゃないか……


「大丈夫かセラ?」

「ご主人サマ……セラは大丈夫デス。ちょっと夜のスリープ時間が取れなくなって、メンテナンス不足にイライラして、夜な夜なアイスを食べまくるのがやめられないダケデス」


 ―――いやいや、精神やっちゃってるじゃん!


 ヤバイヤバイヤバイ、これ働かせすぎだよぉ。いかん、このままではブラック宿屋になってしまう。

 むぅう従業員増やすか……



 ―――よし、従業員募集して面接するぞぉ!





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