【追放された宿屋のオッサンは、今日も無自覚に無双する】スローライフを送りたいのに、なぜか国で要職に就く最強美女の元弟子たちが俺を慕って雇ってくれと集まるんだが~ちょろっと教えただけなのに~
第6話 オッサン、弟子の剣聖アレシアと再会する
第6話 オッサン、弟子の剣聖アレシアと再会する
「先生! 探しましたよ!」
なんと記念すべきお客様第1号は、フリダニア王国史上最強の女剣士と言われる剣聖、アレシア・オラルエンだった。
透き通るような長い銀髪に凛々しい顔立ちと青い瞳。
剣士であるが、女性らしい曲線的な魅力とリエナに負けない2つの膨らみ。その上にはキュッとしまった腰があり、鍛え抜かれた彼女のスタイルを引き締めている。
16歳という若さでフリダニア騎士団長となり、17歳で「剣聖」の称号を獲得した。たしか今は21歳か。誰もが振り向くようなうな超絶美人剣士さまだ。
「やっと、見つけました」
「あ、アレシア……」
久しぶりの再会に、少し言葉が詰まってしまう。
「アレシア、なんでこんなところに?」
「あたしのことはいいんです! なんで先生が追放されるんですかっ!」
う……それを言われるとなぁ~俺もなぜ追放されたのか良くわからん。なぜ濡れ衣を着せてまで、こんな一般宿屋オッサンを追放したのだろうか? ゲナス王子は王代理なのだから仕事は山のようにあるはず。
アレシアに明確な回答ができないまま沈黙の時間が続いたが、再び彼女の口がひらいた。
「……すいません、なんだか久しぶりに先生に会えたので、ちょっと興奮してしまったようです」
「いや、そんなことは無いよ。俺もアレシアと久しぶりに会えて嬉しいよ」
「あたしに会えて嬉しいっ!? ほ、本当ですか!」
「え、ああ……もちろんだ」
え? なに? アレシアの顔がぱぁ~と明るくなり、グイグイ近づいてくるじゃないの。銀髪の美人さんに迫られたらオッサン緊張するじゃないか。アレシアは自身の美貌をもう少し自覚した方が良い。
そんなアレシアが、急に何かを思い出したように懐に手をいれてゴソゴソやり始めた。
「忘れてました! 先生、これ!」
彼女から渡された包紙を開けてみる。んん?
「おおおおお~~これぇえええ!!」
包紙の中身はアンパンだった。
これはフリダニア王都の超人気店で、長蛇の列に並ばないとゲットできないやつ~~!
「あ、あ、アレシア……いいのか!? 食べていいのかっ!」
「ふふ、もちろんです」
まじかよ! 愛弟子最高かよっ!
俺は包紙から出てきた宝にすぐさまかぶりついた。
「―――ぎゃぁああ! うまぃいいいい! これ買うの大変だったろ! ありがとうな!」
「先生の大好物ですから、並ぶぐらいなんでもないです」
「リエナも食べてみろ! ビックリするぞ!」
俺はカウンター越しにこちらを見ていた、リエナに新たなアンパンを渡す。
「いいんですか~頂きます! わぁあ~~美味しいですね~バルドさま~」
「ナトルにもアンパンは売っているだろうが、ここまでの品にはなかなかお目にはかかれんだろ!」
「あ、バルドさま、ほっぺにアンコが」
リエナが優しく、ふきふきしてくれた。いかん、オッサン夢中で頬張りすぎたか。
そこへ急激にバチバチと高まる殺気を感じた俺。
え? なに? 敵襲か―――!?
「おまえは先生のなんなのだっ!」
違った……殺気の主はアレシアだった。
アレシアは殺気全開で、その美しいブルーの瞳を獣のようにギラつかせてリエナを睨みつけている。
あ、そうだった。リエナを紹介するのを忘れてた。だが俺が口を開く前に、リエナがズイっとアレシアの前に出る。
「バルドさまは~私のご主人様ですぅ!」
ええ! ちょっと、言い方!
それだと、なんか変な誤解を受けるじゃないか!
アレシアの方を向くと、なんか全身ワナワナと震えていた。ヤバイ、オッサン変態だと思われてる!
17歳の美少女姫にご主人様とか呼ばせて、ウヒウヒ変態オッサンプレイしてる奴だと思われてる!
「なんだと~~~貴様ぁああああ! 小娘の分際でぇええ!」
わぁ~この子~聖剣抜いた~~宿屋で―――!?
待て待て。聖剣抜くほどのことじゃないだろ? アレシアって、ここまでぶっ飛んでたか?
そしてなぜリエナに怒る?
「アレシア、ちょっと待て、この人は……」
「申し遅れました、アレシアさん。私はナトル第一王女のリエナと申します」
リエナが、礼儀正しくスッと挨拶をした。その所作には震えが一切ない。剣聖の殺気に押されないなんて、さすが王族。
ふぅ、さすがにアレシアもリエナが王女とわかれば、大人しくなるだろう。
「なんだぁ、たかだが第一王女ごときが、あたしの先生と釣り合うとでも思っているのかぁああ! 気安く先生の口をふくなぁああ!!」
まったく大人しくならなかった……
まてまてまてぇえ~~~何を言っている? 釣り合うわけないでしょ、宿屋オッサンと美少女王女様なんだから。
俺は速攻でアレシアの手を引いて、裏に連れて行く。
「アレシア落ち着いてくれ! リエナはこの宿屋のオーナーである王様の娘なんだ。それに、いきなり聖剣抜いちゃダメだ」
「は……はい……先生、申し訳ございません。あたしつい興奮してしまって……修行不足です」
アレシアは顔を真っ赤にして、反省の言葉を口から震えるように漏らした。
あ、ちょっと言い過ぎたか? 俺が掴んだ手をチラチラと見ては、顔が火を噴いたように赤く染まっていく。
良く考えたらナトルへ来るだけでもそこそこ大変だしな。色々疲れているんだろう。
ちょっと行き違いがあっただけだ。
その後少し会話を交わすとリエナから「ふふ、バルドさまは剣聖さまにとっても慕われてるのですね」なんて微笑みが漏れていたので、まあ大丈夫だろう。それにアレシアだって話せばちゃんとわかる子なのだ。
しかし、慕ってくれるのは嬉しいものだ。修行をつけたのは彼女が幼少の頃なのに、いまだに俺の事を先生と呼んでくれる。なんて義理堅い子なんだろうか。
そして会話はこの宿屋のことにうつり。
「なるほど、先生はこちらで宿屋を経営されているのですね」
フムフムとアレシアが頷いている。
まあ、経営が成り立ってはいないのだが。だってアレシアがはじめてドアを開けた人だからねぇ……
「そういえば、先生は外出の準備をされていたようですが?」
そうだった。アレシアの訪問ですっかり忘れていたが、ビラ配りに行く予定だったんだ。このままでは経営が破綻してしまう。夢のスローライフどころか、飢え死に街道まっしぐらじゃないか。
◇◇◇
「新装開店の宿屋~~親父亭です~~よろしくお願いしま~す♡」
俺たちは王都の中央広場に来ていた。ここならば人も沢山いるので、ビラ配りにはうってつけの場所だ。
リエナの元気な声が広場にいる人たちを惹きつける。いや~さすが美少女のビラはみんな取ってくれるなぁ。俺も頑張らねば。オッサンでもビラを取っていくれる人はいるのだ。
ちなみに宿屋の名前はとくに考えていなかったが、ビラを作る際にリエナが「親父亭」と書いていたので、そうれでいいかとなった。
ところで……
実は俺とリエナ以外にも、もう一人ビラ配りしている人がいた。
聖剣を腰にぶら下げて凛々しい顔が眩しい、銀髪の超美人剣士さん。
「あ、アレシア……フリダニア王国に戻らなくていいのか?」
なぜかビラ配りに、剣聖のアレシアまでついてきた。
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