第5話 ゲナス王子視点 ゲナス軍、剣聖の不在によりあっけなく崩壊する

「フハハ~これが玉座か~~」


 俺様はフリダニア王国の玉座の間にて、王しか座れない玉座にどっしりと腰を降ろしてほくそ笑んだ。


 クフフ、ようやくぼんくらな親父を王座からひきずり落としたぜぇ。毎日毎日、薬物を食事に少しずつ混ぜ込んで、少しずつアホにする。ったく、俺の嫌いな地味な作業だったがようやくだ。

 それにぃ~気にくわないバルドの野郎も追放してやったしな。


 あ~~スッキリだぜぇ。


 ようやく俺様という天才が日の目をみるのだ。フリダニアを大陸一の最強国家にしてやる。


 何も恐れることはない! なぜなら~~我がフリダニア王国には最強の王国軍に加えて、剣聖をはじめ三神がいるからだ!

 ギャハハハ~勝ったも同然だぜ。親父のくだらない協調路線なんぞクソくらえだ。舐められてたまるか! 

 いよいよ俺様の伝説が始まるぜぇ。俺様が世界を支配してやるのだ!


 クフフフ、もう笑いが止まんねぇ。


 俺様が近々実現するであろう勝利の余韻に浸っていると、1人の美少女が入ってきた。


「お兄様! なぜバルド様を追放したのですか! それに兵を緊急招集して、どういうおつもりですか!」


 腹違いの妹、第一王女のマリーシアだ。

 ああ、今日も美しい。そしていい匂いだ。


「フフ、我が愛しい妹よ。バルドの野郎は、あろうことか王国の財を己の欲望のために貪りつくしていた。そんな奴は追放されて当然だ。むしろその場で処刑されなかっただけ俺様の慈悲深さに感謝していることだろう」


 なぜか愛しの我が妹は、バルドの事を気にかけていたからな。たしか随分前に窮地を救ってくれただったか。

 まったく、無能クズ野郎の何が気になるのか全くもって理解ができん。まあいい、あいつは二度と現れんからなぁ~グフフおまえは誰にもやらんぞぉ。


「何を言っているのですか! バルド様がそのようなことをなさるわけがないでしょう!」

「クフフ、マリーシアよ。奴はお前が思っているような人間ではない。人を騙す浅ましい下民なのだ。さあ、あんなクズの話はどうでもよいではないか。俺様はフリダニア最強国家計画の戦争準備で忙しい、おまえは伝説を俺様の傍で見ていればいいのだ」


「何を……このような戦になんの意味があるのです! 私の親衛騎士団はこの戦いに参加しません!」


 そう言うと、我がマリーシアは退室した。まったく、後ろ姿もたまらんなぁ……俺様のマリーシア。

 クフフ、今はああ言っているが、俺様が連戦連勝する雄姿を見ればマリーシアもメロメロになるに決まっている。ああ~楽しみだ。たっぷり可愛がってやるからなぁ~~。


 ―――が、その前に王国を最強にしないとなぁ!


 さあ~て、お待ちかね戦争タイムだぜぇ~~。




 ◇◇◇




 俺様はまず、我がフリダニア王国と北方で国境を交える国。ノースマネア王国に侵攻することとした。

 ときおり小競り合いが発生しているが、その全ての防衛戦においてフリダニアが勝利している。最初に血祭りにあげるには絶好の相手だ。

 ノースマネアは魔道具の生産が盛んだからなぁ。屈服させてフリダニアの魔道具装備を拡充させてやるぜぇ。


「さあ~戦争だ~~~王国は最強になるのだ~~」

「そうですそうです~ゲナス王子~我らにかかればノースマネアなど虫けら同然ですぅう!」


 俺様の隣で、北方担当のヌケテル将軍がウンウンと頷いていた。


 フハッハ~~夢にまで見た戦場! 

 今まで愚かな親父に出陣を止められたいたからな。「まずは心の鍛錬をしろ」とか意味不明な事ばかりほざきやがって。

 だから俺様のやれることと言えば、スパイを使っての情報収集や王都での風俗遊びしかできなかった。俺様のような天才を世に出さないなど宝の持ち腐れだったんだ。だが、その愚かなクソ親父も、もはや廃人同然! ククク、もう笑いが漏れ出してしかたないぜぇ~ついに俺様も栄光の初陣だ!


 さあ~ノースマネアめ! 今まではクソ親父の方針で防衛戦ばかりだったが、今度は違うぞ。地獄を見せてやる。


「ヌケテル将軍、して戦術はどうするのです?」


 横から口を出してきたのは、宰相のピエットである。戦争ではなく外交しろとうるさいので連れてきたのだ。バルド追放にも反対していたしな。こういう奴には俺様の偉大さを直にわからせた方が良い。


「ムフフ~ピエット宰相殿~~剣聖さまが中央から突破して~ザンしてガンしてバーンですわ!」

「ん? 何を言っているのだ将軍? そんなことで大丈夫なのか……?」


「はっは~宰相殿~~剣聖さまは無敵です! そのうえわが軍は5倍の兵力ですぞ。ご安心を!」


「ピエット! ヌケテル将軍の言う通り俺様の軍は無敵だ! 素人文官は黙って見ているがいいわ。すぐに片付くであろう」


 俺様の栄えある初陣なのだ。しょーもないことを言うんじゃないぜぇ。ピエットを黙らせると、眼前に広がる戦場に視線をうつす。

 しばらくして、両軍の戦端は開かれた。


「うむ? ヌケテル将軍、どうみてもフリダニア軍が押されているように見えるが? さきほどの戦術はどうなっているのかね?」

「い、いや宰相殿。あ、あれ~~おかしいな! 剣聖アレシア殿は、なにをやってるんだ!」


 そこへ1人の兵士が顔面蒼白で駆けつけてきた。


「ヌケテル将軍大変です~~! 剣聖さまがおりません。陣がきれいに片付けられていてこんな書置きが~」


「あんだとぉお! それをよこせ!!」


 俺様はヌケテル将軍を押しのけて、駆けつけた兵士が手にしているものをむしり取る。

 すぐに表紙の2文字が視界に入ってきた。


「辞表」


 んんんんん?


「――――――辞表だとぉおおおおお!」


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 先生がいない国に興味はない。

 よって去る。

 以上。 剣聖アレシア・オラルエン


 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


「意味がわからん! なぜ辞めるのだ! 先生? あの能無し野郎バルドの事か? そんなわけがない! 本当の理由はなんだ? そうか給金か! 昇給を渋ったのが気にくわなかったのか! クソがぁ、金の亡者どもめ!」


 どうなってんだ? 俺様の下で働く以外の選択肢があるのか? 


「ゲナス王子殿下。だから申し上げたではないですか。あれほど剣聖アレシア殿がバルド殿の追放を取り消してくれと抗議していたのをお忘れですか? 剣聖殿にどのような対応をしたのです?」 


 ああ? たく~いちいちうるさい宰相だな。そう言えばそんな世迷言を一蹴したような記憶もあるかな。

 あんなクソ野郎などどうでも良すぎるだろう。剣聖は本当のアホなのか? 


「はわぁ~~ゲナス王子~~どうしましょう~!」


「狼狽えるな、ヌケテル将軍! えぇええい! たかが女剣士1人いなくなった程度どうでもいいわ! 俺様の軍は相手の5倍だぞ! 数で押し殺せぇええ!」


 ふん、俺様の精鋭フリダニア軍が負けるはずがない。



「前線より伝令! 今まで剣聖殿が半殺しにした敵兵に、とどめを刺すしかしたことがありません! 元気な敵兵にはどうやったら勝てるのでしょうか? とのことです!」


「―――やかましぃいいい! 全員さっさと突撃しやがれぇええ!」



「前線より伝令! 今まで剣聖殿が鬼のように突撃して道を切り開いた後に、のんびりと進軍してました。道が切り開かれてない場合は、突撃したら相手にぶつかって痛いと思います。痛くない方法をご教授ください。とのことです!」


「――――――おまえら全員アホかぁああああ!」


「ヌケテル将軍、きさま前線に行って立て直してこい! 高い給料はらってんだ! やれぃ!」

「はわわわ~ゲナス王子~私ちょっと武者震いがすぎて~お腹が痛くなってしまい行けません!」


「クソがぁああああ!!」

「はい~~そのクソに行ってくるであります~~!」


 クソ将軍が退出したあとに、ピエットの野郎が口を挟んできた。


「ゲナス王子、このままでは損害が膨れ上がる一方です! 即時退却すべきです!」

「こ、この俺様が……退却だとぉおおお! クソ~クソ~クソぉおおお!!」


 剣聖がいないことはいち早く兵の間で広まり、士気が一気にガタ落ちとなった。さらに状況を打破できる将軍は誰もいなかった。フリダニア軍は、剣聖不在でも戦える体制にはなっていなかったのである。


 その後フリダニア王国軍は総崩れとなり、侵攻作戦は失敗に終わった。


 ゲナス王子は王代理就任直後に歴史的大敗を喫するという、不名誉な歴史を刻むのだった。

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