第7話 剣聖アレシアがなぜか帰らない

 なぜかビラ配りについてきた剣聖アレシア。俺は従業員でもないのに無理に付き合ってくれる必要はないぞと彼女に声をかける。


「全然問題ありません! せ、先生と一緒にお出かけ……」

「え? なに? まあ、アレシアが問題ないならいいけどな」

「と、と、とにかくビラを配りますっ!」


 なんだか、やたらと顔を赤くするアレシア。う~む、仕事でだいぶストレスを抱えてるのではないだろうか。三神とか言われてはいるが、年頃の女子だしな。まとまった休みを取っているようだし、気分転換になるのならいいか。


 相変わらず、リエナの周りには人が集まる。まあ超絶美少女だし、なにより笑顔が眩しすぎる。

 俺もリエナが配ってくれるものなら、なんでも受け取ってしまいそうだ。


 そして、一方のアレシアに目を向ける。


「おい! そこのおまえ! 宿泊か斬首か選べ!」


 わぁああ~~簡単に聖剣抜くなぁあああ! 

 それはビラ配りではなくて脅迫だよぉおお!

 アレシアは昔から人見知り気味なところがあり、いきなり極端な言葉を発することがある。そこは変わっていないらしい。


 しかしまずいな……

 アレシアが聖剣を抜いたことで、ザワつきはじめる広場。

 どんどん人が集まってくるじゃないの。


 ザワザワザワ


 ヤバイヤバイヤバイ、これは店主である俺の責任問題だぞ。

 よくよく考えたら、王女と剣聖にビラ配りさせているし。こんなしがないオッサンが。

 ここはダッシュで帰宅か? うむ、それしかないな。2人にもその旨を伝えようとするも、すでに人だかりができており近づけない。


「虹の光を放つ剣? ねえ? あれは聖剣なのでは!?」

「なんだって! てことはあのお方は、フリダニアの名高き剣聖さま!?」

「ウソ……生剣聖さま、なんて凛々しいの♡」


 ザワザワザワ


 あ~~聖剣なんか抜いちゃうから~~

 アレシアの持つ聖剣は、抜刀すると虹色に輝くので目立つのだ。虹色の輝きを持つ神の剣、一般人にも広く知れ渡っている情報だ。


「なあ、隣の金色の髪の子、姫様なんじゃ……」

「ああ! たしかにリエナ王女殿下だ!」

「うちの姫様も~負けず劣らずの美少女だわぁ♡」


 2人の正体がバレ始めた。ていうか完全にバレた。全面的に色々ヤバイ! 

 取り合えずこの場から離れたい! でも全くもって2人に近づけない! 横にいたおじいさんまで杖をほおりだして2人の元に近づこうとしている。

 とりあえず杖は拾っておこう。あとでじいさん困るだろうし。しかし2人とも超人気すぎるぞ。


 そうこうするうちに、人が人を呼んで広場がえらいことになりはじめた。


「うわぁあああ!」「キャアア!」「危ないっ!」


 この人だかりをどうしたものかと焦っていたら、メインストリートの遠方から多数の叫び声が聞こえてきた。

 叫び声の方に視線を移すと、1台の大型馬車が暴走してこちらに突っ込んでくるではないか。

 馬車の御者はすでに振り落とされたのか、誰も乗っていない。


「いかん! こんな人だかりに突っ込んだら大惨事だぞ!」


 アレシアも異変に気付いたのか、彼女の【闘気】が膨れていくのを感じる。聖剣の輝きが増していく。

 ってヤバイ! こんなところで聖剣を使用したら別の被害が出るかもしれない。威力がデカすぎる! 俺は息を吸い込んで【闘気】を練りこみつつ大声を放った。


「―――アレシアぁあああ! 待てぇ! ここは俺がやる!」

「は、はい! 先生っ!」


 人だかりで見えないが、アレシアから返事がきた。よし!


 ―――じいさん、すまんが杖を借りるぞ!


 おれは手にしていた杖を正眼に構えて、【闘気】を全身に練りこんでいく。


「ぬぅううう~~」


 暴走馬車は4頭立ての大型荷馬車で、凄まじい砂煙を上げながら突進してきた。


 ―――スッ


「【一刀両断】!! せいっ!」


 一筋の光が、馬と馬の間に差し込んだ瞬間、荷馬車本体が凄まじい音を立てて、その場でバウンドする。

 俺は【一刀両断】の剣圧を荷馬車本体に叩き込んだのだ。杖なので、切るというよりは剣圧を叩きつける感じだが。

 荷馬車は何度かその場でバウンドしたものの、暴走する勢いを完全に止めることができた。

 繋がれていた馬たちも衝撃でビックリしたのか、その場で大人しくなる。


「ふぅう……なんとか止まった」


 周りを見ると大したけが人も出て無さそうだ。良かった。

 俺はその場でプルプルしているおじいさんに杖を返す。ほら~~これ無いとプルプルしちゃうじゃない。放り出しちゃダメでしょう。


「ふぉおお、わ、わしの杖~~剣聖様の聖剣のように光りよった~~ありがたや~~家宝にしますじゃ~~!」


 はい? 何言ってんだ普通に使ってくれ。俺の手あかがついただけだよ、その杖。


「ふぁぁああ、あのオッサンは何者なんだ……暴走馬車を軽々と……」

「あの三神と言われる剣聖さまを、一瞬で黙らせたぞ。てかどんだけデカい声出せるんだよ」


 いやいや、単に【闘気】を荷馬車に当てただけだぞ。ナトルの騎士にもそんなやつゴロゴロいるだろうに。


「さすが先生です!」

「バルド様~~凄い~!」


 アレシアとリエナが俺の元に駆けつけて、左右から手を握ってきた。

 またこの2人も大げさな……


 さらに周りの人から感謝の言葉がどんどん膨れ上がっていく。


 なにこれ? 今度こそ、ヒッソリと宿屋の親父スローライフを過ごそうと誓ったのに。

 滅茶苦茶目立っているじゃないか! 

 ビラも配り終わったことだし、オッサン早くこの場を去りたいんだ。


 これ以上は耐えられん! 俺は2人の手を引いて無理やりこの場から去ることにした。するとリエナが満面の笑みで、「みなさ~ん、宿屋親父亭~よろしくお願いしま~す」と大声で宣伝し始めるではないか。


 わぁああ~~なにやってんのリエナ! これ以上目立つのは嫌だぁ。


「おお、さっきのビラの宿屋かぁ!」

「知り合いの運送屋に紹介しとくね~」

「おれは冒険者ギルドにアピッとくぜぇ!」


 あれ? なんだかいい感じになってる? 


「ふふ、バルドさま。これで宣伝はバッチシですね」

「え……あ、うん」




 ◇◇◇




 はぁ~~どっと疲れが出てきた。あんなに大勢に見られるのは慣れていないからな。

 俺は白ティーシャツを着替えながらフウッと一息ついた。

 変な汗をいっぱいかいたからな。俺はオッサンとしての自覚がある。だから臭っていないとは思うが念には念を入れて白ティーを着替えたのだ。あくまで気持ち良く働くための行為だ。


 まあとにかくビラはまいてきた。あとは客が来てくれるのか……。


「り、リエナ! これあたしに似合っているのだろうか!」

「ふふ、とってもいいですよ。アレシアかわいい♡」

「ほ、本当か! せ、先生にみせてくる!」


 奥からリエナとアレシアの声がする。なんだかんだで仲良くなったようだ。にしてもアレシアはいつフリダニアに帰るのかな?


 奥から出てきたアレシア。

 帰り支度をしていたのかと思いきや、なんかフリフリの服を着てらっしゃる……


「先生! あたし決めました!」


 決めた? なにを? 


 なぜメイド服を着ている?


「あたしを従業員にしてください! ここに住みます! 先生と一緒に!」



 はい? なに言ってんのこの子!? あなた剣聖でしょ?





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