33限目
闘技場から音が消える。
誰もが言葉を忘れたかのように口を閉ざしている。
「魔道具を使うなんて卑怯だわ!! アーリャの反則負けよ!!」
「止すんだキャレル……これは私の負けだ」
最初に声を上げたのはキャレルさんだ。そう言いたくなる気持ちは分かるけどそのまま言い切られるわけにはいかない。
「普通の木で出来た木剣ですよ……決闘前に学院に確認してもらって承認の印もありますから……見て下さい」
「……た、確かに印はあるけど……でもおかしいじゃない、剣が伸びるなんて!! きっと何か卑怯な手を使ったんだわ!!」
わたしは再び扇を広げるとキャレルさんを冷たい目で見つめる。
「人聞きの悪い事を言わないでいただけませんか? 貴女の言動は気高い決闘の名誉を汚す発言です。いくら身分が関係ない学園とは言え相手を貶める言葉を好き放題言って良いわけではありませんよ」
「ううっ」
さすがにまずいと思ったのか黙るキャレルさん。まぁ、わたしの勝利をハッキリさせるためにそれっぽい理由で種明かししないとね。
「私のギフトジョブは『林業師』と言う事はご存じでしたよね」
「あぁ、その力で良質な木を育てて素晴らしい製品を生み出しているのだろう」
ルビィさんも当然わたしのジョブを知っていた。扇をしまい剣を掲げる……長くなったせいかバランスが悪くて重いよ。
「この世界に様々な変わった『木』がありますがこの
それほど丈夫でも無いので使い道が無いうえに突然成長して日陰を作る困ったちゃんなので不人気な木です。
「『林業師』の力で成長する寸前を見極めて切り出して剣にしました。もちろん剣にしてしまったら本来なら成長などしないのですが、ここもジョブの力で一瞬だけ木をよみがえらせるとあら不思議……このように伸びるんです」
「試合の最中そのような技を使うとは……林業師の力が先頭に役に立つとは夢にも思わなかった」
感心しているルビィさんには申し訳無いですけど、実は嘘です……あ、嘘では無いんだけどわたしのジョブなら
……とはいえ『林業師』の力という説得力を持たせるためにわざわざ用意したのでした。
「私達の試合まではジョブの力無しの勝負だった……しかし貴女はこのスキルを使うために私に本気を出すように言ってきたのですね?」
「はい試合前に互いがジョブの力を使う事を了承すれば決闘は成立しますしね」
もちろんルビィさんが違うスキルを使っていればわたしは負けていたと思う。結局は運が良かったんだよ。試合形式だからわたしの勝ちになったけど、ちゃんとした相手を倒す勝負だったらこんな真似は出来なかったしね。
「私の完敗だ……これもどこかで驕っていたのだろう。修行のやり直しだな」
「と言う事で、審判のキャレルさんはそろそろ役目を果たして貰えないかしら?」
「くっ……勝者……アーリャ」
「おめでとうアーリャ」「やりましたわ!!」「凄いですアーリャさん」「へへっ、中々やるな」
悔しそうなキャレルさんの声と共にみんなが私に駆け寄ってくる。わたしも改めて勝利を実感出来た。
「ベスさんにヘレナさんが仲間になってくれて、ドランが作戦を考えてくれて、マクシス様が訓練を手伝ってくれたから……みんなの力が無ければわたしは勝つ事が出来ませんでした。本当にありがとうございました」
「お友達として当然です」
「私もアーリャさんのお力になれて嬉しいです」
「まぁ、アーリャならやれると分かってたぜ」
「……アーリャ、君がルビィの元に行かなくて本当に良かった」
「……マクシス様」
まーくんが優しい目でわたしを見る……わたしも真っ直ぐにまーくんを見つめ返す。
「何良い雰囲気出しているのよ!! 決闘が終わったんだから報告しにいかないといけないんだからね!!」
せっかく良い雰囲気になっているのにキャレルさんが邪魔してきた。おのれ~。
でもいいの、確実にわたし達の間には積み重なっている何かを感じるもん。でも、わたしは欲張りになったから物足りないんだ。
……もっともっとまーくんと仲良くなりたいよ。
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