32限目

 勝負が始まったけれどルビィさんは動かない。わたしがどう動いても対処出来る自信があるんだと思う。少し変わっている構えとは言えわたしの剣を持つ腕を見れば素人だという事はバレバレらしいしね……これはまーくんやドランからも言われている。


「ジッとして動かず引き分けを狙っているわけじゃ無いわよね、早く動かないと反則負けよアーリャさん」


 動かない両者に戦いを促すのは審判の役目だけど、この場合はルビィさんにも言える事なのにわたしだけにいってくるちっとも公正じゃ無いジャッジのキャレルさん。

 言われなくても今わたしに出来る事はひとつだけ……それしか練習していないから。


「……いきますよ」


 わたしは摺り足で足がちゃんと動くか確認する……それを見てもルビィさんは動かない。軽く深呼吸をしたあと、わたしはルビィさんに向かって走り出した。



□ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □ □



『相手がどう動くかなんて予測する事は熟練の剣士にだって難しいよ』


 まーくん達の言葉を思い出す。万が一わたしが戦う事になったらと言う事でまーくんとドランが練習方法を一緒に考えてくれる。二人は自分がもしも負けた場合……ルビィさんが予想外に強くて二人が負けてしまった時……についてちゃんと考えていた。


『相手との実力差があれば後の前……相手の動きを見て相手より早く攻撃出来るからな』


 でもそれじゃ何をやっても勝てないよ~一体何を練習すれば良いの?


『上手い事相手の攻撃を限定させる事だ。例えばルビィ・テンカーは騎士のギフトジョブ……中でも相手との間合いを計って放たれるソリッドスラッシュという高速で剣を振り下ろすスキルに定評がある』


『連戦で疲れている時、最後の戦いだったら得意スキルでサクッと終わらせたい気持ちは分かるぜ』


『いつもみたいにアーリャの口八丁でそれを使わせる方向に持って行けば相手の一手を読めるという事ですね』


 ちょっとケニー言い方!! でもなんか希望が見えてきた気がする。まーくんも『ソリッドスラッシュ』というスキルの真似事は出来るみたいで間合いも分かるので練習をすることになった。


 練習内容は……思い出したくないよ。しばらく筋肉痛で毎日マリナにマッサージしてもらっていたから。



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「貴女を全力で迎え撃ちます」


 左手を前に向けて右手の剣を高く構えるルビィさん。騎士は盾を持って戦う戦術が基本らしいので、左手は盾を構えている体なんだと思う。

 大丈夫、何度も練習したんだから。これが駄目だったらわたしに勝ち目は無い……そのまま剣を持つ腕に力を込めた。


 明らかに剣の間合いの外……だけどわたしが剣を振るう素振りを見せたのでルビィさんはスキルの準備に入ったのが分かった。おそらくわたしの剣が空振りをしたタイミングでスキルを当てるつもりなんだろう。


 わたしは剣の間合いの外から後方に構えた剣を力一杯振り上げる。剣道で脇構えが使われなくなった理由は、ルールで竹刀の長さが決まっているから隠す意味が無い事と竹刀の重さなら上段に構えていてもそこまで疲れない事だって前世で聞いた事がある……体育の先生の話が良く脱線していたのが懐かしい……逆に振り下ろすより振り上げる方が威力やスピードが無いので、この構えはこのファンタジーの世界から見ても効率的には見えないと思う。


 でも、もしも剣の長さが決まっていなかったら?


「やああああっっ!!」


 わたしが剣を振り上げるとその剣に『加工』のスキルを使った……するとその木剣はその剣身を伸ばしていった。


「!?」


 驚愕に染まるルビィさんの表情……わたしは必死に剣を振り切る。


 カァンッッ!!


 決闘場に衝突音が響く。


「……」


「……」




 ……わたしの持つはルビィさんの脇をしっかりと捕らえていた。




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