第1話 聖水皇女、やりなおしてもやっぱり大ピンチ!
『次に、んっ……情報漏洩に関する、連絡です』
舞台袖に設置されたマイクが、アリアの零した小さな喘ぎを拾う。
直前の休み時間にトイレのタイミングを逃したまま始まった生徒総会。
開始時点で少々不安を覚えるほどに存在を主張していた尿意は、今や体面を取り繕うのが困難になるほど、大きくなっていた。
『先日、学園校舎の情報が、外部に、漏れ……ていたことが、発覚しました。学園内の情報は、防犯のため――』
少々不自然なほどに閉じ合わせた脚が、プルプルと震える。
全校生徒、職員に、尿意を堪えていることを悟られるなど、とても耐えられない。
アリアは、自身に注目が集まるこの瞬間だけは、背筋を伸ばし、毅然とした姿を保とうとした。
だが残念ながら、下腹の貯水池が波打つ度に、アリアは湧き上がる衝動に翻弄され、腰を前後左右に動かしてしまう。
それはほんの僅かな動きで、マイク前の最前列の生徒でも気付くか気付かないかという程度。
だが彼らのうち数人は、アリアの様子に探るような視線を向けていた。
『情報を……も、漏らして、しまった、生徒には、厳罰が、んっ』
声にしてしまった『漏らす』という言葉に、張り詰めた膀胱の中身が暴れ出す。
下腹をさすって宥めたいアリアだったが、そんなことをすれば衆目に対して『おしっこがしたい』と言うようなもの。
手は横に下げたまま動かせない。
アリアはチャプチャプと波打つ衝動に耐えながら、表情険しく次の連絡に移る。
彼女が知る由もない別の自分が、一生ものの失態を犯してしまったシャーロット川氾濫の話に。
『先日の豪雨で、シャーロット川が、急激に、増水を――』
水かさが増え、荒れ狂う濁流となったシャーロット川。
それはそのまま、アリアの膀胱内のイメージだ。
跳ね上がった水が沿道を濡らす様を想像するたび、脚の付け根の『女』の部分がギュッと窄まる。
『水圧で、堤防が決壊し、川の水が、あ、溢れ出して、あぁぁ……っ』
耐えることをやめ、激流を解き放ったシャーロット川。
それは、どれほどの快感だったのだろうか。
嫉妬と羨望、そして想像してしまった
その揺れは物理的な力となって膀胱を襲い、ついに話の途中で、堪えきれずに切なげな声を出してしまった。
『失礼、しました。溢れ出した、水で……くっ……付近の街は、浸水の被害に――』
思考は、完全に排泄に向けて傾いている。
下腹の騒ぎが治らぬまま、それでも話を進めるアリア。
短いスカートから伸びる太ももが、もじっ、もじっと動き出した。
『さ、最後に、んんっ、渡り廊下前の、トイレっ、が、現在、漏水中で――』
結局、アリアは思考を持ち直すことができなかった。
大きくなっていく脚の動きを無理やり止めれば、逃げ場を無くした尿意に下腹が悲鳴を上げ、口から吐息が零れてしまう。
それすら止めようとすれば、今度は腰の辺りが独りでに、艶かしい円を描いてしまうのだ。
熱を帯びた声と、誘うような下半身の動きが、全校生徒の情動を刺激する。
そして、表情が見えるほど近い位置にいる生徒の半数は、彼女が何に悶えているのかに思い至り、気の毒そうな視線を向け始めた。
時間にして7分程度の、だが体感では果てしなく長い、尿意に苦しむ全身を晒す恥辱の時間。
地獄のような出番を目に涙を浮かべながら乗り越え、アリアはぎこちない足取りで席に戻った。
「んふぅぅぅっ……」
椅子に座ると、出口が体重で押さえられて少しだけ気持ちが楽になる。
とんでもない無様を晒してしまったが、1番の関門は乗り切った。
残り時間は、あと40分。
長くはあるが、下腹に生まれた余裕はアリアに我慢の意志を蘇らせた。
余白を求め、前屈みを要求する膀胱を叱咤し、脚を揃えて背筋を伸ばす。
残り時間、何としてもこの姿勢で耐え抜くと心に決めるアリア。
だが、まだ体内に残っている紅茶の水分と利尿作用は、そんなアリアの決意を蝕んでいく。
刻一刻と深刻さを増していく尿意が、精一杯の澄まし顔に苦しげな影を差す。
縋るように視線を向けた時計は、決意を決めてから5分程度しか経っていない。
時間の進みのあまりの遅さに、アリアの中の弱気が膨れ上がる。
脚のもじつきが大きくなってきた。
上半身が、少しずつ前屈みになっていく。
僅か10分ともたずに、踏み躙られた決意。
「あぁぁ……っ」
時計を見る感覚は、5分から4分、3分、1分……やがてまったく目が離せなくなる。
無表情を装っていた眉は、険しく吊り上がり、やがて弱々しい八の字に。
真一文字に結んでいた口は、声にならない『はやく』を繰り返す。
脚の上で揃えられた手は、生徒達から見えない右手だけ、ヒクヒクと蠢く尿道口に押しつけられていた。
「んんっ……んっ……んむぅ……くはぁっ……!」
――自分はこのまま、壇上で漏らしてしまうのではないか?
尿意に悶える姿を見られることへの羞恥が、それ以上の不安に塗り潰されていく。
壇上でもじもじと身を揺するアリアが小水を漏らしそうになっていることは、もう会場の生徒、教師のほとんどが気付いていた。
男子達は、容姿、成績共に優れた高嶺の花のあられもない姿に目を奪われ、その押さえた右手の奥から卑猥な飛沫が噴き出すところを妄想し、股間を固くする。
女子達は、嫉妬深い者は苦しむアリアにほくそ笑み、そうでない者達は、壇上で我慢が限界を超えそうになっているアリアを、ただひたすらに憐れんだ。
「あぁぁっ……あ……あ……うぅっ……だめ……っ」
終了4分前。
何度も会場脇の教師達に視線を送っては、左手を上げかけるアリア。
もう、本当に我慢が出来なくなってしまったのだ。
出口を押さえた右手は、少し前から汗ではない湿りを感じている。
だが、左手は体から僅かに浮くだけで、手のひらを教師達に見せることはなかった。
それは、あと4分……いや、もう3分を切った残り時間すら我慢ができないと、自ら宣言する行為だ。
例えこの場の全員に自分がもう限界だということがバレていたとしても、アリアはそれだけはできなかった。
「あ゛っ……! あ゛っ……!」
アリアの腰が、ビクンッ、ビクンッと間隔を開けて跳ねる。
それは、アリアの我慢が、溜まりに溜まった水圧に押し広げられていく合図。
口から押し潰したような悲鳴が漏れるのは、そうすれば少しでも尿道に溢れる小水が減るような気がするからだ。
「あ゛あ゛っ!!」
堤防に空いた穴は、両手で押さえても塞がらない。
ドンドンと激しいノックを受けるたび、ヒビが広がり、溢れ出る量が多くなる。
米粒程度だった下着の染みは、股布全体に広がっていた。
「でる……うそ……こんな……ところで……!」
残り2分。
だが、その2分を耐え切れるイメージが、アリアはどうしてもできなかった。
治ることのない排尿衝動の高まりが、決して開けてはいけない門を大観衆の前でこじ開けていく。
もう、間に合わない。
「い、やぁ……で……ちゃ……っ」
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