第2話 友情のゴールデン・ウォーターカッター

「い、やぁ……で……ちゃ……っ」









『以上で集会は終了です。では、速やかに退場してください』






 それは、本来の残り時間まであと1分38秒という時。


 明らかに漏れる寸前のアリアを憐れんだ教師が、幾つか話を省略して、早回しに集会を切り上げたのだ。

 多くの男子と、一部の女子は落胆を、残りの生徒は安堵を露わにする。


 そんな彼らの視線を一身に受け、アリアが椅子から腰を浮かせた。



 もう、両手は出口から離せない。


 震える脚を必死に伸ばそうとするも、直立に近づくたびに膀胱が圧迫されていく。



「んっ……ぐぅっ……あ゛あ゛っ!?」


 ジョロロロロッ。



 突き出した尻を戻せないまま、圧力に耐え切れず下着の中に小水が溢れる。


 下着は既にびしょ濡れだ。

 吸いきれなかった小水が太股を伝う感覚に、アリアの理性は崩れ落ちた。





「ああぁぁああぁぁぁあぁぁぁっ……!」




 アリアは腰を後ろに引き、両手で出口を押さえたまま舞台袖に消えていった。

 全校生徒の目に、その情けない姿を晒しながら。




 ◆◆




「も、もれ、ちゃ、もれ……あぁぁっ!」



 脚を伝う雫を増やしながら、舞台裏のトイレへと急ぐアリア。

 もう人目はないし、あったとしても気にしている余裕はない。


 湧き上がる衝動に追い立てられるまま、体を震わせ、尻を振り回す。


 そして、下着から溢れる小水が床に滴り落ちるほどに股を濡らした頃、アリアの目が待望のトイレを映し出した。



 だが――




「う、うそっ……こ、しょう……ちゅ……あ゛あ゛あぁぁっ!」


 パシャッ、パシャパシャッ……!



 両手の蓋を突き抜けた小水が、アリアの足元に飛び散る。


 尿意が限界を超えかけた少女にとって、絶望は恐ろしい麻薬だ。

 『16歳にもなって、お漏らしをするわけにはいかない』という理性を、『おしっこがしたくて堪らない』という本能で塗り替えてしまう。


 アリアの膝がガクガクと笑い、足元の水滴は秒刻みで増えていく。

 『故障中』と貼られたトイレの扉に縋りつきながら、アリアの身体がズルズルと崩れ落ちていく。




「も゛う……がま゛んっ……できな゛いぃぃ……!」




「アリアこっち!」


「もう少しだけ頑張って!」




 そんなアリアの体を、両側から支える温かい手。

 この学園で出会った2人の親友、エルナとロッタだ。


 アリアの窮地にいち早く気付いた2人は、最悪の場合全てを水浸しにしようと、壇上を上から照らす照明エリアに潜伏していたのだ。

 そして間一髪でアリアが舞台袖に消えるのを確認すると、急いでその後を追いかけてきた。



「える、な……ろった……! もれちゃう……もれちゃう……!」


「わかってる! ほら、足動かして!」



 エルナに支えられて、ヨロヨロと歩き出すアリア。

 ロッタは準備していた雑巾で、アリアの『痕跡』を拭き取っていく。


 やがて3人は、舞台裏から裏口を出て講堂の裏手へ。

 その先には目の前から順番に、花壇、舗装路、植木、そして身を隠せそうな林。




「まって……ふたり、とも、ん゛ん゛っ! そ、そっち、といれ、じゃ……!」


「いいんだよ、アリア。もう少し、もう少しだけの我慢だから」


「よく頑張ったね。偉かったよ。もう、いいんだよ」




 2人はアリアに、裏の林での野ションを敢行させようとしていた。

 それが、もうどう見ても校舎のトイレには間に合わないアリアを救う、唯一の手段だから。


 嫌がるアリアを宥めすかし、少しずつ足を進めさせる2人。

 だが、その優しい声と言葉は、アリアが保っていた最後の意地を溶かし尽くしていく。



「だ、だめっ! そんなこと言われたらっ、もうっ、あ゛っ!? ああぁああぁぁぁああぁぁっっ!!!」



 ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!




 道半ば、よりによって硬い舗装路の上で、アリアの我慢の糸は切れてしまった。

 全力で締めているはずの尿道が、下腹の圧力であっけなく広げられ、まだ穿いたままの下着に凄まじい勢いで小水が迸る。




 ジュビビビビビビッ! ジュビイイイイイイイッッ!! ジョオオオオオッ! ジョオオオオオオオオオオッッ!!



「あぁぁっ、ああぁあぁっ! と、止まらないっ! どうしようっ、止まらないっ!!」


「脱いでっ! 早くっ!」


「大丈夫、今なら誰も来てないから!」



 それは、普段のアリアなら絶対にしない行動。

 だが、始まってしまったお漏らしでパニックになった頭は、信頼する親友2人の言葉を唯一無二の救いとして受け入れる。


 ジャバジャバと小水を溢れさせながら、アリアは下着を下ろし、舗装路のど真ん中にしゃがみ込んだ。



 そして――




「ん゛んぁあぁはっ」



 まるで敗北の証のように、一切の理性を感じない、気の抜けるような悲鳴を吐き出した。





 ブジャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!!!!


 ブジイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!!




 アリアの脚の付け根から、前方の石畳に向けて一直線に小水が迸る。

 それはまるで、水圧で岩盤をも切り裂く魔術『ウォーターカッター』の如し。

 激しく飛び散る飛沫は、本当に石が削れているかのように見える。



 ブジイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイッッッ!!!!


 ビジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャジャッッッ!!!!!




「あ、ああぁぁぁっ……くはああぁぁぁぁっ……んんっ……んんんっ! んんはあぁぁぁあぁあぁっ……!!」




 気が狂いそうなまでの解放感と、尿道を激流がこする背徳的な快感に、アリアの意識も表情も蕩けていく。

 焦点の合っていない目はゆらゆらと前を見つめ、半開きになった口からは喘ぎとも吐息ともつかない声が垂れ流されていく。



 ビジュウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウウッッッ!!!!



「あはぁぁぁぁぁっ……き、きもち、い、あっ! あああぁぁぁあぁぁぁっ……!」



 膀胱が空になるまでの凡そ1分間、アリアは腰をビクビクと震わせながら、身を焦がすような放尿の快感に酔いしれた。




 ◆◆




 なるほど、こうゆう結果になりましたか。



 ……で、何をしているんですか? 神様。



 やめて下さい。隣で『解脱』を始めようとしないで下さい。

 ええい、パンツを脱ぐなっ!



 失礼、取り乱しました。


 どうやら誰にも見られる事なく、アリアの放尿は終わった様です。

 親友達に抱きかかえられて、少し幸せそうな顔をしていますね。


 下着も靴下もびしょ濡れになってしまいましたが、そこは手慣れた親友達。

 お着替えセットも持ってきています。


 実は左右の角には別の仲間が控えていて、人が来ないかをずっと見張っていましたが、そちらの出番はなかったようですね。

 ですが2人の存在があったからこそ、エルナとロッタも、アリアに講堂裏での放尿を促すことができたと言うもの。


 美しい友情が、アリアを衆人環視のお漏らしから救ったのです。




 めでたし、めでたし、ですね。


 おや、神様、一体どうされて……。





 替えのパンツとズボンをお持ちします。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る