第2話 私とエルナの、割とよくある朝の一幕

『あ、ありがっ、とうっ、ござ、ございっ、ますっ』



 どうしよう、どうしよう。



『どうなされました? 皇女殿下?』


『い、いえ、なんでも、ありま、うぅっ!? ありま、せん』



 どうしよう、どうしよう。



『アリア?』


『具合でも悪いのかい?』


『だ、だいじょうぶ、ですっ!』



 どうしよう、このままじゃ。



『無理をしてはダメよ?』


『では、皆に一言だけ貰ったら、それでしまいとしよう』



『は、はひぃ……!』



 このままじゃ、私……!




『ほ、ほんじつはっ、わ、わたしのっ、ためにっ、た、ため、ためっ、たっ……ぁっ』




 ――ジョロロロロッ! ジョロロロッ! ジョオオオオオオオオオオオオッッッッッッ!!!!!!




 ◆◆




「っっっ!!!?!?」



 声にならない悲鳴を上げて、私は飛び起きた。



「はぁっ! はぁっ! はぁっ!」



 目の前には見慣れた壁、見慣れた家具。

 エルナが『デザインだけでも同じのを』と言って買うことになった、フリフリのシーツ。



 夢……夢だった。



「はぁ…………んんっ!!?」



 体が起き始めたせいか、突如湧き上がる重苦しい感覚に、私はベッドを飛び出した。


 あんな夢を見て、下着を濡らしていないのは本当によかった。

 が、濡れていないと言うことは、それはまだ私のお腹の中にあると言うことになる。





 一晩かけて溜め込んだ、大量のおしっこが。




 慌ててトイレに走り、扉のノブを回す――が。





 ――ガチャッ、ガチャガチャッ。




「ん? アリア、起きたの?」


「エ、エエ、エルナっ!?」



 非情にも、トイレには先客がいた。



「あ、あのっ、私っ、あのっ、私っ!」


「すぐ出るっ!」



 私の声から窮状を察してくれたのだろう。

 中から聞こえる水音が、一層強くなった。



「あっ、あああっ、早くっ、エルナっ、は、は、早くぅっ!!」


「もうちょっとだけ我慢してっ!」



 私は震える手で、パジャマと下着を脱ぎ捨てる。

 もう、中に入ってから脱いでいては間に合わない。


 中にいるのがエルナでよかった。

 彼女かロッタ相手でなければ、こんな大胆なことはできなかった。



「ああああっ!? もうダメっ! 私っ、もうダメっ!!」


「出るよっ! 離れてっ!」



 気心知れて、私の『弱点』を誰よりも知ってる、一番付き合いの長い親友。


 扉を開けた彼女もまた、生まれたままの下半身を晒していた。


 音がなかったから、流してもいないのだろう。

 一秒でも早く私が入れる様に、全てを置き去りにしてくれのだ。




「ああああぁぁああぁぁああぁぁっっっ!!?!?!?」




 おしっこが、出口に向けて駆け下る感触。


 待って、まだ、もう少し。


 もう少し――



「あっ」



 もう、止められない。




 ジョビィィィィィィィィィィィィィィィッッ!!!!



「ああぁはあぁああっ!!」



 間一髪、部屋を汚すことは避けられた。

 でも、便器を跨ぐ前に飛び出したおしっこは、トイレの床を水浸しにしていく。


 背後でエルナが扉を閉めてくれる気配を感じながら、私は飛びつく様に便器にしゃがみ込んだ。




 そして、ようやく、全ての力を抜いた。





 ジュビイイイイイイイイイイイイイィィィィィッッッ!!!!


 ジョババババババババババババッッッ!!!!



「ああぁああはああぁぁああぁっっ!!! くぅうううぅぅうぅっ!! いいいぃぃいいいいぃいいぃっっ!!!」



 快感が、涎と共に口からこぼれ落ちる。



 気持ちいい、きもちいい。


 なにも、かんがえ、られない、きもち、いい。







 どのくらい、そうしていただろうか。

 最後の一滴まで出し尽くした私は、改めて周囲の状態を見渡す。



 勢いが強すぎたのか、便器もその周りもびしょ濡れ。


 そして、一段降りたところの床は、一面水溜まりになっていた。



「エ、エルナ……その……」


「はぁ……一緒に掃除してあげる」

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