第6話 聖涙天使降臨! ……からの金色の敗北!

 アリアの体が、光に包まれる。


 転移の度に光に包まれてはきたが、今回はそれとはまるで違う。

 アリアの訓練服が光の粒子となって弾け、赤、青、黄、白等、様々な色の光の帯に姿を変え、その体に巻きついたのだ。



「えっ!? 待ってっ、一体、あぁぁぅ!? な、何がっ!?」



 アリアの動揺を他所に、『変身』は続いていく。


 両手両脚の光は、真っ白い長手袋とニーハイソックスに。


 首周りはの光は、紺色のセーラーカラーに。


 胸元の光は鮮やかな赤のリボンに。


 そして体を包む光は、アリアの体をギチギチに締め上げる、白いノースリーブのレオタードに。



 これこそが、奇才エクエス・レヴィエムの最高傑作。



 ――魔導戦闘服『聖涙布シャイニーティア』



 今ここに、街の平和を守る、新たな戦士が誕生した。







「な……なにっ、この格好っ!? み、見ないでっ! 見ないで下さいっ!」



 戦士は、体を掻き抱いて蹲った。



 確かに、若い娘が街中で晒す様な姿ではない。

 せめてスカートでもあれば違ったのだろうが、変身はここで止まってしまった。

 因みに靴もない。



 ――ジョォォォッ!


「うああぁああぁっっっ!!?!?」



 そしてあまりの事態に一瞬忘れていたが、アリアの尿意は既に限界を超えているのだ。

 もう何度目かの暴発が起こり、纏ったばかりのレオタードに大きなシミを作る。


 純白のレオタードの一部は、我慢に我慢を重ねた黄色にハッキリと染まっていた。



(も、も、漏れるっ! 漏れるぅぅっ! 嫌よっ! こんなところで……こんな格好で……!)



「んんっ! くぅぅぅっ! ど、どいてえええええぇぇぇぇっっ!!!」



 片手で出口を抑えたまま、アリアはできる限りの速さで、異形達へ、その先のトイレへと駆け出した。


 それは、破れかぶれの特攻――の、筈だった。




「「「「「ぐぎゃああああぁぁっっっっ!!!」」」」」




 アリアの行手を阻もうとした数人の黒タイツが、紙切れの様に宙を舞う。


 もう一度言うが、アリアが着ている戦闘服は、先史文明最高の魔導学者と言われたエクエス・レヴィエムの最高傑作。

 アリアの身体能力は、人類でもトップクラスに迫る程に引き上げられていた。

 尿意を堪えながらの弱々しいパンチでなければ、黒タイツ達は哀れな躯になっていたかもしれない。


 だが、その一撃は、彼らのボスである怪人の目に止まる。



「貴様、我々に逆らうつもりか? 生意気な小娘め……お前達っ! この小娘に、ブラックタランチュラの恐ろしさを、思い知らせてやれっ!」


「「「「「「ギィー!」」」」」」



 怪人の指示で、周囲の人々を襲っていた黒タイツ達が、アリアに殺到する。



「くぅっ! このっ! どいてっ! どいてよっ!!」



 一人一人は大したことはないが、数が多い。

 それに今のアリアは、下手に下半身に力を入れれば、すぐにでも大失態を晒してしまう状態だ。

 シャイニーティアが括約筋まで強化していなければ、もう動くことすら出来なっただろう。

 黒タイツ達を突破することができず、それどころか反撃まで貰ってしまう。



「あぁっ!? やめてっ! やめてぇっ!!」


 ジョォォッ! ジョォォッ!


「ああぁああぁっ!!? やめてぇっ! 出ちゃうっ! 出ちゃうぅぅっ!!」



 衝撃が体を伝い、膀胱を揺さぶる。

 その度に、アリアは少しずつ、堪えていたものを噴き出してしまう。


 レオタードはとっくに吸水限界を超え、溢れた雫が、太ももを、ソックスを濡らしていく。



「お願い、通してっ!! トイレに行かせてえええええぇぇぇぇぇっっ!!!」



 アリアの悲痛な叫びが公園に響く。

 だが、その願いは、叶うことはなかった。




 ――最終試練のテーマは『献身』





「こっちを見ろぉっ! 小娘ぇっ!」


「っ!?」



 アリアの目が、怪人に掲げられた一人の赤子の姿を捉えた。



「ゆうちゃんっ!! ゆうちゃんっ!!」



 母親だろうか。黒タイツに組み伏せられた女性が、悲痛な表情で赤子の名前を呼ぶ。



「指一本でも動かしてみろ。この子はミルクを卒業する前に、この世からオサラバだっ!」



 その言葉に、アリアの時が止まる。



(あっ、あぁぁっ!? もうダメっ! もう漏れちゃうっ! でも、赤ちゃんっ……あぁっ、でも、おしっこっ……!)


 赤子の命も、目の前のトイレも、どちらも選べない。

 だが、そんな進退窮まったアリアの様子を服従と取ったのか、怪人はズンズンとアリアに近づくと、指を一つパチンと鳴らした。


 直後、アリアの周囲に黒い靄が現れ、その手足を鎖で絡め取った。



「あああぁぁっ!?」



 両手は纏めて頭上高くに、両足は地面につけたまま、左右に大きく開かされた。



 ジョロッ、ジョロッ、ジョッ、ジョォォォッ!


「あぁぁっ!! うあああぁぁああぁっっ!!?! 離してっ! お願いっ! 離してぇっ!」



 開いた足に連動して、尿道が開いていく。

 アリアの足元に、飛沫が飛び散った。



「そういやお前、トイレとか叫んでやがったよな?」


「っ!?」



 怪人の顔がぐにゃりと歪む。

 人間の表情ではないのに、アリアはそこに、確かな嗜虐心があるのを感じ取った。



「な、な、何のことっ? ト、トイレっ……なんて……あぁぁぁっ……!」



 無駄だと分かっていても、必死に誤魔化そうとするアリア。

 だが、込み上げる尿意に、開かされた足が切なく動いてしまう。



(もうダメっ! もうダメぇぇぇっ!!)



「ほお、強がるねぇ。じゃあ、こうゆうのはどうだ?」



 そう言って、怪人がアリアに手を伸ばす。


 向かうのは、ヘソと股の中間あたり――膀胱だ。



「っ!? ま、待ってっ! や、やめてっ、やめっ」



 ――ツン


 ジョォォォォッ!! パシャッ! パシャシャッ!


「うああぁあぁっ!!? あああああぁあぁっっ!!!」



 それはほんの小さな刺激。

 だが、触れれば割れる程にパンパンになった膀胱は、その程度の刺激でも容易に小水を溢れさせてしまう。



(も、もう、ダメ……私……漏れる……漏れちゃう……! だれかっ……たすけて……!)


「はっはぁっ! いやぁ、悪いなぁ、甚振る様な真似して。お詫びに……楽にしてやるよ」



 それは、アリアに対する死刑宣告だった。

 怪人は再び、アリアの下腹に手を伸ばす。



「やめてっ! お願いっ、もう押さないでっ!」


「遠慮すんなって。それに、トイレじゃねぇんだろ?」


「うう嘘ですっ! ホントは、トイレ、もう、我慢できないんですっ!」


 ジョロロッ、ジョォォォッ!


「ああぁあぁっ!!? もう……もうっ、限界なの……! そんなところ、押されたら、私っ……!!」




「よくできました。ご褒美だ」



「やめてええええええええええええええぇぇぇぇっっ!!!」






 ――ぐいっ。




「あ゛あ゛ぁはぁっっ!!?!」





 くぐもった悲鳴と共に、アリアの長い長い我慢が、終わりを告げた。





 ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!




「あああぁぁああぁぁああああぁぁっっ!!?!? 嫌ああぁああぁぁああああぁぁあああああぁぁっっっ!!!」



 ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッ!!!


 ジュビビビビバババババビビビババババババッッッ!!!!!


 ブジィィィィィィィィィィィィィィィィッッッ!!!!!



「見ないでっ!! 見ないでえええええええええっっ!!! ああぁぁっ! 止まらないっ!! 止まってええええええっっ!!!」



 バシャバシャバシャバシャバシャバシャジュイイイイイイイイイイイイイィィィィィッッッ!!!!


 ビジュゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッッ!!!


 ジョオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!



「嫌あああああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁっっっ!!!!!」




 それはまさに『大洪水』。


 圧迫された膀胱は、容赦なくその分の小水を溢れさせる。

 そして一度大きく開いた尿道は、もう閉じることはない。

 解き放たれた金色の濁流が、アリアのレオタードも、脚も、ソックスも、全てを水浸しにしていく。


 泣きながら見ないでと懇願するアリアに、周囲の視線が無情に突き刺さる。

 アリアが赤ん坊に捧げた『献身』の代償は、悲劇的な結末として、彼女の心も体も穢していった。


 我慢に我慢を重ねた末の壮絶な決壊は、その後一分間に及び続いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る