第2話 行けないときに限ってトイレって行きたくなるよね

 目が眩む様な光が止む。


 瞼を開いたアリアは、周囲の光景に息を呑んだ。



「ここは!? 私、んんっ……一体……っ」



 建築様式は、先ほどまでいたエリアと変わらない。

 が、汚れやひび割れが酷く廃墟然としたあちらに対し、こちらは清潔で破損箇所もなく、空気も綺麗に循環している。

 何より照明も生きているため、室内が煌々と照らされているのだ。


 今も誰かがここを利用していたしても、なんら不思議はない程に生きた建物としての環境が整っていた。


 こんなエリアがあることは聞いていない。



「未開放……領域……!?」



 先史文明時代の遺跡で稀に見つかると言う、特定条件を満たすことでしか入れない特殊エリアだ。

 高確率で貴重な遺産が眠っている『遺跡の宝物庫』なのだが、罠や防衛機構、稀に未知の魔獣が住み着いていたりと、危険度も相当に高い。

 間違っても、学生が一人で迷い込んでいい所ではない。



 だが今のアリアにとって、重要なのはそこではなかった。



(嘘……嘘でしょ!? 私、トイレに行きたいのにっ!)



 アリアがいるのは客室程度の広さの空間だ。

 周囲には何も置かれておらず、ただ扉が一つあるのみ。


 未開放領域の入り方は色々あるが、今回のは恐らくは空間移動。

 空間移動で入った場合、ほぼ確実に同じ所から出ることはできない。

 然るべき出口を探す必要がある。


 遺跡エリアから我慢を続けたアリアの尿意は、そろそろ限界が近い。

 こんな状態で危険な未開放領域を抜け、出口を見付けられるのか。


 仮に見付かったとしても、遺跡エリアのどこに飛ばされるかはわからない。

 出口から遠い場所に飛ばされでもしたら……。



「あっ、あぁっ!? あぁぁっ!!?」



 いつトイレに行けるかわからない、という絶望が、余計に尿意を加速させる。



「い、いい、急がないとっ……!」



 ここで足踏みをしている時間は、アリアには残されていない。

 内なる欲求に追い立てられたアリアは、目の前のたった一つの扉に飛び込んだ。


 

 尿意で頭がいっぱいになったアリアは、気付いていなかった。



 扉の横には、案内板の様な金属の板が埋め込まれていたのだ。

 そこには、こう書いてあった。




 ――聖涙の衣を欲する者よ。三つの心の試練に挑め。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る