次の週、すっかり早起きが身に刻まれたあたしはホームルームが始まる十分前に学校に到着するのが当たり前になっていた。帰ってからだらだら過ごすあの時間が恋しい……とは、ちょーっとだけ思うんだけど、そんな体力は残ってないからすぐお風呂に入ってご飯食べて寝る。規則正しいぞあたし。

 教室へ向かう途中、あたしに死刑宣告をしたゴトーと出くわした。すっごい驚かれた。口開けて持ってた書類落としてたもん。あの先生のことだから、どうせあたしなんか何言ったって変わんないと思ってたんだろうし。

 いや多分それって正解で、ミネギシさんとこんな風に仲良くならなかったら多分そのままダラダラやって、本当に留年することになって、結局学校辞めてフリーターとかになってたと思う。

 バイトの方は、立ちっぱなしの作業にも慣れてきて、段ボールの開封と、中身出した後の段ボール畳むのと、畳んだ段ボール紐でまとめて縛るのがめっちゃ早くなった。やれば出来んじゃんあたし。早く作業が終われば終わるだけ二人の作業を手伝ったり掃除したり出来るから、この調子で毎日昨日の自分のタイムを更新していこうと思ってる。


「おぉーやぁっと終わったー! あと二教科だぁー……!」

「非常に良いペースです。この二週間で確実に成果は出ていると思います。ですが、油断せずにいきましょう」

 ミネギシさんとハイタッチしながら小さな雄叫びをあげる。大声出して出禁にされたら困るし。

 それに、終わったとは言ったけど、実際は全然終わってなくて、教科が増えれば増えるほど、今度は一度覚えたそれを忘れないように毎日復習してからじゃないと新しいところにいけない。記憶として定着するまでは必ず繰り返さないとってことらしい。そのせいで、ミネギシさんに付き合ってもらう時間はどんどん増えていってる。最初は二、三時間くらいだったのが、今じゃお店が閉まるギリギリまでやることになる日もある。

「マジでありがとー! マジで、なんとかなる気がしてきたわ。ゴトー見返せそう」

「絶対に出来ます、よ……」

 突然、ミネギシさんが頭を押さえて俯いた。先週から、そうなってるのを何度か見てる。

「また頭痛い感じ? 大丈夫?」

「はい……すみません、気圧でしょうか……最近多くて」

 目を閉じて、こめかみを何度か指で押しほぐしてからこちらに向かって笑顔を向けてくれる。でも、なんかちょっと弱弱しくて逆に不安になる。

「無理しないでねって、教わってるあたしが言うのも変だけど。マジでごめん」

「気にし過ぎですよ」

 本人がなんともないって言うから、甘えてる身としては何も言い返せない。ありがとうといって肩を軽く揉む。あたしの二倍はゴリゴリに硬かった。痛いけど気持ち良いらしくて、最近は日に何度かやってる。これで楽になってくれるならガンガンやるよ、あたし。

「ありがとうございます、ずいぶん楽になりました」

「なら良かったけど。全然言って? めっちゃやるから。あとシャワーじゃなくてお風呂浸かって体ほぐしてな? マジ全然違うから」

 これはマジで実体験だからガチ。バイトの疲れを次の日に残さないようにするには、風呂と睡眠。他の何よりこれが一番。

「そうですね……そうします。では、おやすみなさい」

「明日もよろしくねー! おやすー」

 そう言って、ミネギシさんと別れた。あたしはなんだか目が離せなくて、ミネギシさんが見えなくなるまでミネギシさんの背中を見てた。この時間になってようやく、涼しくなる。明日も早いし、あたしも早く帰ろ。



そんで更に次の週。

 いよいよあと一教科ってところまできた。テスト週間も始まって、部活動とかも休みになるから、あたしらが帰る時間はいつも空いている下駄箱も混雑し始めている。

 最近見るからに元気がないミネギシさんを混雑しているところに連れていきたくなくて、教室で駄弁りながら……っていうか殆どあたしが喋ってるんだけど、とにかく、ざわざわが落ち着くまで、待機。

 窓から見えるでっかい木の葉が赤色やら黄色やらに変わってきている。まだまだ全然暑いのに、季節は秋に向かってる。夏は嫌いじゃないけど、蝉とかが本気出し過ぎてて怖いから、秋の方がマシ。秋の虫は涼し気に鳴くし。


「おう来たか二人共。今日もよろしく」

「了解す! じゃとりあえずいつも通り店の前と裏、掃除してきます!

「はい、お願いします。そろそろラインナップ更新の時期でしょうか?」

 もう指示がなくてもある程度何をすればいいか分かるようになった。ミネギシさんと仲良くなってからずっと感じ続けているけど、慣れって凄いよな。マジで。

 店の前にあるホースから水を出して、道路に水を撒く。それから花から落ちた葉とかこぼれた土とかをほうきとデッキブラシで回収してゴミ箱へ。この三週間の日課だ。お店は既に営業中だけど、土や草花を扱っているから掃除は何回やっても良いくらいらしい。手が空いたら掃除、暇だったら掃除。そんな感じ。

「おい、大丈夫か……!」

 突然、店の中から大きな音。それからあんまり聞いたことない、カナメさんの声。慌てて中の様子を見に行くと、ミネギシさんが転んでらしく、お尻を手で押さえている。そのまわりには水の入ってないオケと、転がっているブーケが幾つか。水浸しになっているから、滑って転んで、水を撒き散らしちゃったのかも。

「ご、ごめんなさい私……!」

 慌てて地べたを這いながら、片づけを始めるミネギシさん。あたしもそれを手伝う。カナメさんはなんとも言えない難しい顔をして、あたしらの方を見ていた。


「本当にすみません」

 片付けが終わって、改めてミネギシさんはカナメさんに頭を下げる。カナメさんはミネギシさんには声を掛けず、ずっと難しい顔をしたままだ。なんならちょっと呻き声もあげている。え、なんで?

「あ、あの……カナメさん? どうしたんですか?」

「うん、あーいや。ちょっとな……とりあえず、二人共、今日は帰って休めよ。勉強も明日からにしてさ」

 右手でミネギシさん、左手であたしの頭をぽんと撫でてからそう言った。

「……え、なんですか」

「……なんでも」

 そう言って、店の前に出ている花を片付け始める。え、もうお店閉めるの。なんで。こんなこと今までなくて、頭が混乱している。どうしよう。

「商品をダメにしちゃったのは、本当にごめんなさい。その分は私のバイト代から引いて頂いて構いません。だから……!」

ミネギシさんがカナメさんに近付いて食い下がる。

「あーもうメンドクサイな……! とりあえず言われた通りにしとけって、な?

 少しだけ声を荒げてから、今度はミネギシさんを軽く抱きしめてから優しい声でそう言った。


 結局あっという間に店を追い出されて、ついでに店のシャッターも降りた。え、こんな急に店って閉店していいんだっけ? どういうこと? なんで何も教えてくれないんだろう。いつもは何聞いてもちゃんと教えてくれるのに。

「行きましょうか」

 シャッターの前でしばらく二人でぼーっとしていると、ミネギシさんが呟いて、歩き出した。あたしは、さっきカナメさんが言ってた勉強も明日からにして、という言葉を思い出した。

「あ、あのさ……! カナメさんは明日からって言ってたけど……」

「……何言ってるんですかこの期に及んで。貴女の為の勉強でしょう? 来週からテストなのにまだ終わってない。それに、復習しないでもし忘れてしまったらどうするんです? もう少し緊張感を持ってください」

「あ、はい……すみません……や、そ、れはそう、なんだけど……」

 あー上手く言えない。折角勉強してちょっと国語力ついてきたじゃんとか思ってたのに、自分の言いたいことがまとめらんない。あたし、結局バカのまんまじゃん。やば。ミネギシさんがこんなにあたしのこと考えてくれてるのに。でも、だって絶対おかしいじゃん。カナメさん。ミネギシさんは気にならないのかな。まぁ、二人は付き合い長いみたいだし、悲しいけど、一か月も交流ないあたしがわかってないだけで、二人は何言いたいかお互いわかってるとかあんのかな。

 結局、その日は二人で勉強した。今までで一番気まずかったけど、一旦あたしはバカだから考えても無駄ってことで、気持ち切り替えて頑張った。そうだ、あんまりよけいなことばかり考えてたらここまでの努力が無駄になる。そう思って、頑張った。



 次の日。

 教室に入ると、やっぱり普段一緒にいる奴らは来てない。他のクラスメイトも机に突っ伏して爆睡してるか、それぞれのグループで誰かしらの机周辺に集まってダベってる。

 そんな中真ん中辺りで一人姿勢良く勉強してるミネギシさんがいた。そう言えば、ここまであまりにも精一杯過ぎて教室に着いたらすぐに寝てたけど、今はもう仲良しだし、挨拶くらいするべきだよね。

「おはようミネギシさん」

「……あぁ、恒光さん……おはよう、ございます……」

 ……普通に挨拶した筈なんだけど、ミネギシさんはこちらを見ず俯いたまま呟いた。

「ミネギシさーん?」

 鞄を机に置いてからミネギシさんの前の席に座って顔を覗き込んで見る。なんか、めっちゃぎゅっと目を閉じてて。そこでようやく、ミネギシさんが震えてることに気付いた。え、どうしたのホント。体調悪いのかな。だんだん怖くなってくる。

「……だ、大丈夫……?」

 肩に手を置くと、ビクッと体を跳ねらせる。ごめんごめんと慌てて手を離す。

「……後で……メール、します……から」

 蚊の鳴くような声でそれだけ言って口を押さえながら教室から走って出ていってしまった。なにがなんだかあたしには分からなくて、ホームルームの時間になって担任が声を掛けてくれるまで、そこから動けなかった。


※ 


 結局ミネギシさんはその日一日教室に戻ってくることはなかった。花屋に行けばいつも通りのミネギシさんに会えるかと思った行ってみたけど、そこにもミネギシさんはいなかった。

「こんちはーカナメさん」

「……おぅ。なんだカレン、来たのか」

 仕事をしてるカナメさんに声を掛けると、カナメさんもなんだか元気がない。え、どうした、なにがあったの。

「はい、ミネギシさんとの約束なので……それより、ミネギシさんが」

「……知ってるよ。学校で倒れたらしいな」

「え」

 マジか。お店には連絡していたのか。でもよかった、何かあったのかと……いやいやよくないじゃん倒れてんじゃん。あぁ、もしかして、昨日カナメさんは、こうなるかもって思ったから無理矢理お店閉めてまであたしらを帰らせたのかな。だとしたら、大馬鹿じゃんあたし。何普通に夜中まで勉強付き合わせてんだよ。

「柊子もいないし、今日は仕事いいぞ。帰って勉強しろ。やばいんだろ?」

「え、はい。……や、でも、あたし仕事やります。カナメさん一人だと大変でしょうし……あ、いや! あたしなんて役に立たないかもっすけど……」

 この一週間、二人にはかなりお世話になったし、今こそ頑張りどころだ。

「……あんがとな。じゃ頼むわ」

「う、うす!」

 カナメさんに教えてもらいながら、ミネギシさんがやっていた花の世話をした。水のやり方や棘とか葉とかとったりも大きさとかでやり方が全然違くて、よくこんなの一人で全部やっていたよなと思う。季節毎に花は入れ替わるわけだし、色が違うのに同じ名前の花があったり、その逆でめっちゃ似てて見分けつかないけど、違う花だったり。同じ花でも暖かい所で育てる花なのか寒い所で育てる花なのかとかで色々変わったり。こんなの、絶対出来ないなと思った。

「バカ。いきなり全部任せるわけないだろ。ちょっとずつ覚えてきゃいい。んで、わかんなかったら聞け。最初っから全部出来る奴なんていないんだから」

「……おんなじこと、ミネギシさんにも言われました」

 もしかしたら、ミネギシさんも最初は、カナメさんにそういうこと教わったのかもしれないなと思った。

 今日はお店が閉める時間まで手伝った。めっちゃくちゃ疲れたけど、なんか色んなことが知れて楽しかった。

「今日はありがとな、カレン」

「いやいや、お世話になってるっすから。それよりミネギシさんが大丈夫か心配です」

「それなんだけどな……もうここでは働けないかもしれない」

 カナメさんは暗い顔でそう言った。え、いや。もしかしたら聞き間違いかもしれない。だって、え、何かヤバい病気だったとか? でも、昨日まで全然元気だったし、笑ってたし。あれこれ考えていると、カナメさんが笑い出す。

「治んないなーその癖。……実はさっき連絡があってな。今病院で、暫くは入院生活だそうだ。過労……だとさ」

 流石にその言葉の意味は分かる。

 ミネギシさんは今までずっと、自分の勉強と花屋のアルバイトを休みなしで頑張ってた。

 自分でやってみて痛感しているけど、学校終わった後にバイトするのはめちゃくちゃしんどい。なのにあたしが調子に乗って勉強教えてとか言うから。

 きっとミネギシさん。あたしに教えて時間取れなかった分、家に帰ってからも頑張って勉強していたんだ。体めっちゃ細いし、顔色だって元から良くない。あたしみたいに頑丈な体のつくりしている人じゃないんだ。それなのに。あたしのせいで。

「……あ、あたしの、せい……で……あだっ!?」

「違うだろ。仕事のさせ過ぎはアタシの責任だっつーの」

 頭を小突かれる。一瞬星が見えて、涙が出てきた。カナメさんを見ると、カナメさんも目に涙が溜まってて、声も震えてた。

「……お前達が学生だってことすっかり忘れて甘えちまってた。言い訳でしかないけど、あいつ、めっちゃ楽しそうに仕事してたし、わざわざ来てくれた日に帰れなんて言えなかった。昨日の様子見てヤバいかと思ったけど、気付くの遅すぎだろあたし。シューコのこと、任されてたのに」

「そんな……こと」

「……学校にな、バイトしてることがばれたんだと」

 それだけ言うと、とうとうカナメさんは俯いてしまった。バイトが学校にバレたってことは。まさか、ミネギシさんは……。

「い、いやいやそもそもおかしいんすよウチの学校! 今時バイトなんて中学生でもやってるっつーの。それに、ミネギシさんには家庭の事情もあるし……」

「……ここで働いていることと、お前のことは言わなかったそうだ」

「そん、そんな……」

 うそだよ。そんなの。だって、ミネギシさんだぜ? 学年一位の成績で、生活態度もいいし、あたしなんかと違って朝ちゃんと学校来てるしさ。何て言うんだっけ、こう言うの。ジョージョーシャクリョー? じゃないの。

「テレビで問題起こして辞職していく議員いるだろ? あの人らだって頑張ってた筈なんだけど、言い方はあれだけど、マイルドに言えば、ほんのちょっとだけルール破っただけなんだよな」

「でも、あたし納得いかないです」

「……そりゃアタシもだ。まぁ入院中は今後どうするかっていう話は学校の方で進めないみたいだから、アタシの方で事情聞いて、学校とあの子のお母さんの所に行って謝ってくるよ。とりあえずあんたはテスト、頑張りな」

 何か言い返したかったけど、カナメさんの顔は見たことないくらい真剣な顔で、あたしは何も言えなかった。そもそも、あたしが何か言ったって何かが変わるわけじゃないし……カナメさんの言う通り、あたしはあたしで頑張るしかないのかな……。

 納得いかないけど。頑張ろう。一週間だけだったけど、ミネギシさんに教わった通りにやっていけばテスト、きっといける、筈。



 それから、あたしなりに頑張ったつもり。

 本当はミネギシさんに会いに行きたかったけど家がどこだとか、先生もカナメさんも教えてくれないし、ミネギシさんに連絡しても、当然だけど繋がんないし。

 誰かに詳しい話聞きたくても、先生は体調不良で倒れたとしか教えてくれないし、カナメさんも大丈夫だから心配すんなとしか言ってくれない。

 なんだよ、別に隠すことないじゃん。

 だんだん腹が立ってきて、そのおかげって言ったら変だけど、勉強にはすごい集中出来た。一人でファミレスに行くの、大分寂しい。二人掛けの机に一人とか。四人掛けの机に一人とか。

 もしかしたらまた一人でぶつぶつ言ってたかもしれない。ちょっと危ないヤツだと思われてたかもしれない。でもそんなのもう知らない。音楽とか掛かってるし、平気でしょ。なんかそういうの気にならなくなってきた。

 もしかしたらミネギシさんが言っていた通り、うるさいところでも集中出来るようになってきたのかもしれない。


 いつの間にか、テスト前日。正直二週間ずっと眠かったけど、それだけ勉強やった甲斐あって、どうにか全教科のテスト範囲を勉強出来た。

 最初ミネギシさんに教わっていた時は全然気が付かなかったけど、全教科のテスト範囲って一週間前くらいにならないと全部はわかんないんだよね普通。だってテスト直前まで授業がどこまで進むかなんてわかんないんだもん。ミネギシさんは何故か全ての教科の範囲を知っていて、あたしが聞いてなかっただけだと思ってたんだけど。あれ、ミネギシさんの予想範囲だったんだね。しかもバッチリ全部当たってたし。そうやって勉強してるからテスト前に慌てたり一夜漬けしたりしないんだ。まぁあたしはそもそも勉強さえしたことなかったけど。

 テストは二日間。寝る前に一日目にやる教科の最後確認をしていたら、着信があった。ミネギシさんからだった。電話じゃなくて、メッセージだったけど。やっと連絡くれたんだ。めっちゃ嬉しいんだけど、このタイミングで送ってくるなんて、きっとあたしがテスト前の最終確認してないとか思ってるんだ。



――恒光さんへ。

連絡が遅れて申し訳ありません。

 それと、テスト勉強を最後まで教えてあげられなくてごめんなさい。もうカナメさんから聞いているかもしれませんが、先生方にご心配掛けるわけにいかなかったので、結局リリィでバイトしていたことは学校にお伝えしました。

 普段からもっと恒光さんみたいに元気に過ごせていたらそんなこともなかったかもしれませんが……。

 まだはっきりと告げられてはいませんが、恐らく停学処分になるでしょう。そうなると、私が目指していた大学推薦も難しくなってしまう。

 母に負担を掛けずに済むことを考えれば、高校は中退して働く方が良いのかなと思っています。これも運命だと、受け入れるつもりです。

 幸い、カナメさんは店員として是非働いて欲しいと言ってくれたので、食うに困ることはなさそうです。

 それから今回の件、私の普段の休養不精、不摂生が祟ったことですから、恒光さんは全く関係ないですからね。そこは安心してください。


 実は、私には夢がありました。色んな国を旅するという夢です。

 ただ旅をするだけではなくて、その地に滞在して、生活をして……。

 人生って一回しかないのに、一つの生活しか知らないのって勿体ないと思うんです。その為に色々な言葉を学んで、様々な国の文化を知って、実際にその場所に行って学んだこととの違いや、もっと深い……例えば宗教的な違いや価値観、倫理観を共有して……と、そんなことを思っていました。

 本当は私、自分のことしか考えていないんです。

 お金を貯めてるのも母への負担が等と言いながらその実自分の学費だったり旅費に充てようと思っていましたし、恒光さんをバイトに誘ったのも、この人だったら私がいなくなっても流れでそのままバイトを続けてくれそうだなぁと思ったからで……すみません。

 恒光さん、たった一週間でしたが、貴女と過ごした時間はとても楽しいもので、また新しい発見の連続でもありました。

 こんなに短期間で、誰かの見方が変わったのは初めてでした。正直な話、私に話しかけてきた時はどうしようかと思いました。まずまともに話が出来るのかと……。

 無意識に、恒光さんや他のクラスメイト達を見下していたんだと思います。

 私、普段喋らないようにしているだけで、性格悪いんです。そんな風に生きていると、いつかバチが当たるんだなぁと、思いました。


 改めて、ずっと連絡しなくてごめんなさい。

 昨日の夜あたりから、ようやく体がちゃんと動かせるようになったので、メールさせて頂きました。メールって、疲れますね。

 バイト、たまに遊びに来てくれると嬉しいです。

 テスト、きっと良い結果が出ると思います。だから恒光さんはちゃんと学校卒業して、自分のやりたいこととか、夢を見つけてください。

 遅いとか早いとかはない筈ですから。怠いなんて言ってたら、あっという間におばあちゃんになっちゃいますよ。

 それでは。



――そんなこと、急に言われても困るよなぁ。

 後半鼻水と涙で読むのが大変だったけど。ちょっと途中言葉の意味がわかんなくて調べたけど。ちゃんと読んだし、頑張るよあたし。

 頭の中ぐちゃぐちゃだけど。そんでちゃんと、ちゃんと言うんだ。


 ミネギシさんを見返してやりたくて、どうしてやろうか色々考えてたら朝になってた。いつの間にかテストが始まってて、いつの間にか全教科終わってて、あれ、ちゃんと解けたのかな? 

 ヤバイ、怖い。

 ……しゅ、集中し過ぎてて何も覚えてないってだけだよね。

 ちゃんと解いたよねあたし……え、だって、一杯頑張ったしさ……大丈夫だよ……ね……?

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