3
それから、あたしの地獄のような日々が始まった。
まず朝ミネギシさんが電話であたしを起こしてくる。怠い眠い。ミネギシさんが言うには、朝ちゃんと起きないと記憶力が本来の半分以下になるらしい。どこ情報なんだろう。
まぁとりあえず学校に来いと起こされ、放課後は花屋(後で聞いたらフラワーショップリリィという名前らしい。あんな店長の店なのにとってもファンシー)でアルバイト。何故かあたしは力持ちキャラに設定されたらしく、お願いされるのは段ボールを運んだり花を水に浸けておく為のオケやら、花を店の前に飾っておく為のケースやら台車やらの移動を主に任された。
カナメさんが言うには、花みたいな生きているものを売る店で同じ景観を続けているとお客さんが興味を持たなくなってしまうらしい。逆に、飲食店なんかは一度配置を決めたら変えない方がいいとも教えてくれた。常連さんは気に入った味のものを繰り返し食べたいからだそうだ。そういうの、どこ情報なんだろう。でもなんとなく言いたいことは分かる気がしないでもない。
ともあれ、そういうお店のこだわりのせいであたしはこのお店で重労働を強いられている。
で、その後はミネギシさんと勉強。疲れちゃって帰ったらそのまま爆睡。他のことは一切出来ないまま、気が付くと週末だった。
久しぶりにゆっくり休める。平日が忙しいと、途端に休日にやりたいことがたくさん出来る。普段全然やらないのにゲームがやりたくなったり映画が見たくなったりする。バイトもないし、今日はうんと羽を伸ばそう。
体を起こしてスマホで時間を確認し、そして驚愕した。朝七時。あのあたしが、すっきりと朝目覚めているのだ。しかも昨日まであった疲れがない。つまり怠くない……! 一体どうしたんだあたし。自分で言うのもあれだけどあたしらしくなくて気持ち悪い。
すると、あたしが起きたことを見計らったかのように着信が入る。ミネギシさんからだ。
「もしもし」
「おはようございますミネギシです。……意外でした、てっきりまだ寝ているものかと」
電話に出ると、さっきまでのあたしと考えていたことが同じだった。
「あたしもそれにビックリしてたとこ。今日は何、どしたの?」
「あれ、言ってませんでしたっけ。今日は午前中にバイトを済ませて午後の時間をフルに使ってテスト勉強を一気に進めましょう」
その言葉に一気に目が覚めた。え、ウソでしょマジかこの人。あれだけの重労働を強いておいて、あたしのなけなしの休日を奪う気なのか。
「えっと、あの……ミネギシさん? おやすみとかって言うのは……」
「何言ってるんですか、土曜午前は花の仕入れがあるんですから恒光さんが一番輝ける日ですよ。それに、今のペースでは中間テストまでに全教科終えられません」
ぐっ。確かにその通りだけどさぁ、それはそうなんだけどさぁ……って違う違う。後半についてはまぁわかるけど、午前中のそれはあたし関係ないのに……。
「それじゃあ、九時頃お店の方に。お願いします」
「あっ、ハイ……」
受話口から伝わる圧倒的な威圧感を前に野生の感的なあれで危険を感じ、あたしはただただ従うしかなかった。さよなら休日。また来週に会おう。いや、この分だと来週もこんな感じな気がする……。
※
「おはざぁーす……」
ここ数日はミネギシさん効果(シンプルに怒られる)で朝もいつもよりシャキッと起きられていたんだけど、今日は完全にオフモードだったから、かなり怠い。三倍マシみたいな感じ。
「……おはようございます恒光さん、今日はずいぶんお疲れみたいですね?」
あたしを発見するなり笑顔で挨拶をしてくる。あの、目が笑ってないです……。
「すぃやせん……もうちょっとしたらマシになるから」
「あら、困りましたね。直ぐにやって頂かないと困るのに。それじゃあとっておき、おみまいしちゃおうかな……」
指をパキパキ鳴らしながら、わざとらしい口調でミネギシさんはあたしに詰め寄ってくる。鬼だ。
「わ、わかったわかった! 痛いのはなしなしっ! 着替えてくるから……!」
「あらそうですか。せっかく肩を揉んであげようと……」
それはどんな肩揉みですかあれですか、グキッみたいなヤツですか。急いでお店の中に入ると、花の香りと共にカナメさんがあたしを出迎えた。
「お、今日もこき使われに来たかカレン」
なんて晴れやかな笑顔なんだどエスめ……やべ、今ひとりごと出てないよね……?
「……お、おはようございますカナメさん」
「就業中は店長と呼びたまえ。今日は本当はお店休みなんだけど、色々やることが多くてさ。午前中の短い時間で終わるけど、結構力仕事でね。宜しく頼むよ」
仁王立ちであたしにそう言うと、電話が鳴った。それじゃ、とカナメさんは直ぐに電話を取りに中へ戻っていく。早く着替えないとミネギシさんに怒られてしまう。急いでシャツを着て、エプロンを装着する。そう言えばいつの間にかシャツとエプロンを持って帰って自分で洗ってるなー。
すっかりアルバイトが板についてしまった。それに、最初は色々な花の匂いが混ざって気持ち悪かったけど、今では慣れてしまったし、なんだか心地好いもののように感じる。慣れってすごい。
身支度を整え、ミネギシさんの所に向かうとそのまま店の裏手に連れられていく。丁度カナメさんが指示をしながらトラックのおじさんが大きめの段ボールを幾つか降ろしていた。
「今日はこの段ボールをお店の倉庫と、レジの横に運ぶ作業を店長と二人でしてもらいます。重い物は十キロほどあるみたいなので腰を痛めないように持ち上げる時は膝を付いて抱えて下さい」
「……りょーかい!」
滑り止め付き軍手を借りて、せーので持ち上げる。結構重いけど、三回くらい運んだら体がようやく目覚めたみたいですいすい作業が進んだ。なんとなくだけど、こういう仕事、性に合っているんじゃないかと思った。覚えたら結構楽しい気もするし。
髪が邪魔だったのでゴムでまとめる。休日の町はようやく目が覚めたみたいで、通りが騒がしくなってきた。この辺りがこんなに混雑しているの初めて見た。学校帰りくらいしか寄らないしな。
「よし、今ので最後だな」
カナメさんが汗を拭いながら言う。あれ、この人作業着超似合うじゃん。頭にタオル巻いちゃって。カッコいいじゃん。っていうかそう言う服あるなら貸して欲しかったし。
「お疲れした」
「ん、助かったよ。ありがとうカレン」
「お疲れさまでした。こちらもほぼ終わりました」
カナメさんと店の裏で休憩していると、ミネギシさんが店の中から出てきた。いつも通りに見えるけど、ミネギシさんも中でバタバタしていたみたいで、手で自分の顔を扇いでいた。
「お、そっちも終わりか。じゃあ今日はこれでおしまいってことで! 出前でも取るか、奢っちゃる」
「え、マジすかいいんすか」
「ありがとうございます」
人に奢るとかしない人だと思っていた。朝から動くとお腹が空く。カナメさんの言葉が合図だったかのようにぐるるるっとお腹が鳴った。ミネギシさんと顔を見合わせて笑う。
シャワー貸してやるよと店の中に入っていくカナメさんの後に続く。どうやらこの花屋、二階が居住スペースになっているようだ。シャワーとかめっちゃありがたいけど、着替え持ってきてないや。でも汗は流したいから我慢しよう。
お先にどうぞとミネギシさんが譲ってくれたのでありがたく先に借りることにする。
カナメさんからタオルを受け取り、シャワーを浴びた。
あぁぁぁぁぁぁあ気持ちいいぃいぃ……。
※
三人順番でシャワーを浴びてから、丼もの屋で出前を取った。二人とも体は細いからあんまりご飯も食べないのかと思ったけど、意外とがっつり注文してた。あたしもカツ丼頼んだけどさ。
「つかずっと気になってたんだけど、ミネギシさんとカナメさんは何繋がりなの?」
ご飯を食べ終えて三人で一息ついている時に、思い切って聞いてみた。ほら、なんかこういうのって聞くタイミングを逃すと聞き難いことあるじゃん。気になってたんだよね。
「いや、あたしとは血縁関係とかがあるわけじゃないよ。先代がシューコのばあちゃんで、あたしはシューコが小さい時からずっと働いててさ。で、その先代からあたしに店を継いてくれって言ってくれたのが三年ちょっと前。シューコは店に遊びに来たり、手伝いをやってくれてたりしたんだ。で、勝手はわかってたつもりなんだけど、やっぱり一人で切り盛りするのは結構大変でさ。で、バイト募集はじめて……」
そこまで言って、カナメさんがコップの麦茶をあおった。
「家の事情と重なって、バイト第一号に私をしてくれたというだけです。要さんにはお店のことだけでなく、色々とお世話になっていて……」
カナメさんが言葉を引き継いで、最後。照れくさそうにミネギシさんがカナメさんを見て、二人ははにかんだ。
「へえ……」
「殆ど毎日ここに来ていますからね。今では家族と会う時間よりも長くここにいます」
「なんでそんなにバイト一杯入れてんの? なんか欲しいものとかあるから?」
食器を片付けながら話を続ける。あたしはテーブルの上を拭きながらミネギシさんに質問した。あぁそれはとカナメさんが答えようとするのを、ミネギシさんがいいんですと遮ってから教えてくれた。
「私の家、片親なんです。父は私が小さい時に」
「あ、ごめ……」
あたしが謝ると、何故か二人とも顔を見合わせた後笑いだした。え、あたし別に変なこと言ってなくない?
「や、恒光さんもきちんとそういうこと気にする人なんだなっと」
「最初の段階でわかってたけど、見た目で損するタイプなんだな」
二人の中であたしどんな人間だと思われてたんだ……いや、仕方無いけどさ。これは、あれか、褒められてるのか? いや貶されてるのか……? よくわかんなくて、はぁ、みたいな答え方しか出来なかった。
ミネギシさんはひとしきり笑った後、続きを話してくれた。
「母は私に不自由させないようにと一生懸命働いてくれていました。けれど、その無理が祟って……半年ほど前でしょうか、倒れてしまって」
「え、マジ? ヤバいじゃん……今は、どうしてるの?」
「順調に回復してきてはいるんですが、まだまだ入院生活中です。で、その間の生活費や入院費などを稼がなければいけず……こうして内緒でお手伝いを」
ミネギシさんはうっすら笑みを浮かべながらそう言って、窓の外に視線をやった。窓の向こうはベランダになっているようで、カナメさんが育てたのか掌くらいの大きさの赤い花と、青い花が見えた。二つの花は同じ形をしているように見えるけど、なんて名前の花だろうか。
「ウチで小娘一人くらい面倒みちゃるって言ってんだけどさ、何もしないで施しを受けるのが嫌なんだと」
カナメさんがあたしの視線に気付いたのか、赤と青の花の生えた鉢植えを持ってきて見せてくれた。どっちもカリブラコアというらしい。聞いたことないや。でも、キレイ……な気がする。
「母は、私に不自由させないようにと、自分の時間など全て削って私を育ててくれました。だから、これはある種、禊……罪滅ぼしのようなもの……と思っています。今まで甘えていた分、私は自分を戒めなければと」
「……すごいねミネギシさん。むしろなんかごめん。そんな大変なのにあたしなんかの為に時間取ってもらっちゃって」
「いえいえ、むしろとても助かってますよ」
カナメさんは持ってきた鉢植えを片付けている。ベランダに近寄って覗いてみると、他にも色んな種類の花が隙間ないくらいに咲いていた。めちゃくちゃ花好きじゃんこの人。
こういう時に、羨ましいって思うの、少し変だと思うんだけど。
あたしん家は、3つ上に姉ちゃんと4つ下に弟がいて、五人家族。親はどっちも働くの大好きマンって感じで家には殆どいなかった。その代わり、毎月のお小遣いとかは多分他の同級生より多く貰ってたと思う。欲しいと思ったもの、手に入んなかったことないし。姉ちゃんと弟はあたしが中学上がる頃くらいまでは仲良くやってたつもりだったけど、まぁ皆難しい時期に入っていって、段々会話もなくなって。姉ちゃんが大学入って家出てからはいよいよ家で会話とかなくなった。だから別にそれがどうってわけでもないんだけど、だからミネギシさん家の繋がりみたいなの、ちょっと憧れる。
※
「今日はこれで終わりだけど、あんたら勉強しにファミレスとか行くくらいならここ使っていいぞ? 金掛かるだろ」
「いいんですか要さん」
遠慮すんなってと、カナメさんはミネギシさんの頭を手でわしゃわしゃにした。ミネギシさんは目をぎゅっと瞑って、抵抗もせずされるがままだ。なんか猫みたいで可愛い。
「ありがとうございます」
「ん、ドリンクバーは麦茶しか出ないけどな」
二人でお礼を言ってノートと教科書、ミネギシさんはプラスで参考書とかをテーブルに広げて勉強を始めた。……ってあら、流れで勉強しちゃってるけど、なんかあんまり辛くない……気がする。もしかして、この一週間のしごきであたし、大分変わったのかな。
気のせいか調子ノリ過ぎか。でももうちょっとで苦戦してた世界史の範囲終わるし。まだ辿り着けないんだよなぁ。絶対どっか間違っちゃう。鳥頭かよあたし。
……でもミネギシさんはそうじゃないって言ってたし、あたしはやれば出来る子やれば出来る子……。
「……なんつうか、話には聞いてたけど凄いなカレン」
「……へぁ? ……あ」
顔を上げると、ミネギシさんもカナメさんも笑ってる。
「そうなんですよ、勉強してる時は特に酷くて……面白すぎて……」
もー、また口から出ちゃってたよあたし。これテスト中やっちゃったらマズいでしょ色々……。治さないと。二人はめっちゃ楽しそうだけどさ。
「すんません……黙って勉強します……」
※
気が付くともう夕方で、カナメさんのそろそろ帰れー晩飯は奢らんぞーという声であたしらは勉強を切り上げた。
なんだろう、ファミレスと違って音楽が流れてたり他のお客のざわざわみたいのがないから凄いはかどった。そして、ちゃんと集中するとあたしのひとりごとは止まるようだ。ちゃんと集中……しないと。
「んぅおーやぁっと世界史終わったぁー……!」
「おめでとうございます」
固まった体を伸ばしながら報告すると、両手を口の前で合わせて小さな拍手をしながらミネギシさんは喜んでくれた。あたしとしてもビックリの成果。こーんな怠いこと、よく逃げ出さなかったな……いや、花屋の仕事はとっても楽しい。殆ど力仕事という名の雑用だけどさ。カナメさんにそれとなく聞いたら、ちゃんとお金もくれるみたいだし。でも勉強はやっぱり別。もう怠い以外のなにものでもない。しかも鬼教官付き。
でも、なんていうかこう……ちょっとずつ出来るようになっていくのって楽しい、かもしれない。すごい苦しいけど。
「ミネギシさんのおかげだよ、ありがとう」
「恒光さんが頑張ったからですよ。でも、どういたしまして」
なんかミネギシさんが照れてるみたいに見えて、危うく頭をわしゃわしゃするところだった。
「この調子で毎日頑張ればなんとかテストの範囲をおさえられそうですね。明日はお店もお休みですし、一日頑張りましょう」
「な、なるほど……って明日!? 明日も!?」
聞き間違いだと思い込みたくて何度も聞き返すけど、ミネギシさんは何か問題でもありますかって首を傾げるだけだ。いつもの暗黒微笑と違う、混じりっ気のない笑顔が逆に怖い。
「わりいな、明日はあたしもこっちにいないから、ここは貸せないんだ」
苦笑いをしながらカナメさんはあたしにそう言った。
「いやいや! むしろ今日貸してくれてありがとうございました、ぶっちゃけすごい助かったです。数百円でも毎日だと意外に出費がかさんじゃって……」
「まだバイト代貰ってないですもんね」
ミネギシさんがそう言うとカナメさんがあぁそういうことなら、とカナメさんがまた奥の部屋に消えていき、少しの間ごそごそしたと思ったら封筒を持って出てきた。
「ほい」
「ほい?」
差し出された封筒を受け取り、中を見るとお札が入っている。
お、お札が入っている……!
「お、おぉぉ……!? こ、こここ、これはっ……!?」
衝撃のあまり言葉にならない。カナメさんは得意そうに胸を張った。
「一週間お疲れさん。柊子は月末払いだから今度な」
「はい、いつもありがとうございます」
い、いち、に、さん……え、一週間でこんなに貰っちゃっていいの……!? あたし数時間くらいしか働いてないんだよ? しかもほとんど雑用だよ? ミネギシさんに手伝ってもらったりカナメさんと一緒にやったりしただけなんだよ? え、つか普通なのこれ? みんなこんな貰ってるのこれ? すげー……働くってすげー……。
「声に出てますよ、恒光さん」
「あ、ごめ……。いいんですかカナメさん、こんなに……」
「そんなに喜んで貰えるとあたしも嬉しいよ。あと、それからこれも」
「え、なんすかこれちょーカワイイ!」
手渡されたのは両手の掌に収まるくらいの小さいブーケだった。アジサイっていう花らしい。
「折角手伝ってくれてるしな、これ持ってって部屋にでも飾りなよ」
「えー凄い! なんかめっちゃ上品な女子になった気がする……! ありがとカナメさん!」
「気にすんなって」
言ってからカナメさんはニカっと笑った。今日一番楽しそうにカナメさんが笑ってる気がする。
両手にお金とブーケ。めちゃくちゃ嬉しい。人生で上から数えても何番目だろうって感じ。
「やー凄い、ヤバい、バイト凄い。超スゴイ。これで……」
「これでしばらくファミレス勉強にも困りませんね」
「へ? ……う、ウソウソウソその通りっ! 頑張ろうね!」
一瞬言葉で表現するのも恐ろしい顔になったぞミネギシさん……。
※
そんなわけで日曜もがっつりミネギシさんの指導が入った。怠いとか眠いとかそんなこと言ってられない。いややる気がどうとかじゃなくて、「ドリンクバーの色々な飲み物を混ぜたらどんな味になるでしょうね?」とか「見てください恒光さん、ここにタバスコがありますよ。これを飲み物に入れて飲んだら眠気も覚めるかもしれませんね」とか、末恐ろしいことを言ってあたしを脅すんだもん。マジな目してたもん。本当にやる気だったもんあの顔は。
そんなミネギシさんだけど、あたしが出来なかった計算とか出来るようになるとすっごい褒めてくれんの。「凄いじゃないですか」とか「この調子ならクラスでも上位になれるんじゃないですか」とか言って。あたしより頭いい人が何言ってるんだって感じだけど、やっぱり褒められると嬉しいから、めっちゃ頑張っちゃうんだよね……あれ、こう言うのをアメとムチって言うんだっけか。単純すぎだろあたし……。
「まずは一週間お疲れ様でした。恒光さん」
「あー……おつかれす……」
そんな感じで気が付いたら朝から夜までドリンクバーだけでファミレスに居座って勉強してた。なんか体動かしてないのに体が痛い。口動かすのも疲れる。ふと思ったんだけど、図書館とか近くにあったらそっちの方が静かだし長い時間居座っても変な目で店員に見られないんじゃないかな。あたしら十時間以上いたし、元取れるくらいめっちゃドリンクバーおかわりしたし、お店から時間制限とか付けられたりしちゃうんじゃないかと思った。
「実際のテストに近い形でやった方が良いと思うので。テスト中、他の人の筆音や身動ぎはファミレスのざわめきと同等ですから。それに、恒光さんの呟き戦法を図書館でやったら、それこそクレームが来る気がします。あと、炭酸飲料などは原価を考えると、元を取る為には百杯近く飲まないといけないので……私達が飲んだのなんて、精々二十杯程度ですから、もっと飲まないとですね」
あたしがボソッと言った疑問に一つずつ答えてくれた。本当になんでも知ってるな。
「ミネギシさん絶対先生とか向いてると思う」
「そうでしょうか? そんなことないと思いますけど……」
お、照れた。ちょっと嬉しい。
「うん、なんでも答えてくれるし、ちゃんとあたしのこと考えて教えてくれるし」
「そんなこと……」
「……ミネギシさん? 大丈夫?」
一瞬、ミネギシさんがふらついた。立ち眩みって奴かも。肩を支えながら顔を覗き込むと、大丈夫ですと言って微笑んだ。
「それじゃ、また明日。この調子であともう少し頑張りましょうね」
「え、あ、うん……あんがと……」
そう言ってさっさとミネギシさんは行ってしまった。やっぱりなんか様子がおかしい気がする。うーん……多分疲れてたのかな。つかよく考えるとあたしに付き合ってくれてるってことはあたしとおんなじだけ勉強してるってことで、それにプラスであたしに教えてくれてるってことはあたしより疲れてるに決まってるじゃんか。
うわーマジか今頃気付いたのかあたし。
もっと気遣いの出来るオンナになんないと。
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