第3話 第一発見者の証言
静かな時間が永遠に続くかも知れない。
そんな風に思っていた時間が破られるのは、想像以上に速いものだった。
そう、時間的には20分くらいだっただろうか。終わってしまうと、それまでの底のないほどの静かな時間が、あっという間たったような気がしたのだ。
「ピンポン」
と呼び鈴が鳴ったその瞬間が、その終わりだったのだが、扉を開けると、表に立っている男は二人で、いきなり扉を開けた瞬間に、目の前に警察手帳を提示され、
「これを見せれば、皆までいう必要などないよな」
という恫喝めいたものが感じられたのだ。
刑事と思しき二人は、警察手帳を提示した瞬間、すべての権利が彼らに生じ、その分、「-そちらにあった権利は、こちらが制限する」
と言わんばかりの恫喝だったのかも知れない。
少しだけしか開けていないつもりだったその扉を、一気に引き抜いた刑事は、ひと言、「お邪魔します」
と小声で言った。
そう言ってしまえば、何でもありになってしまうというのは、警察の特権なのだろうか、恫喝された方は相手が警察だと思うとどうしても逆らえないのは、その主婦だけだろうか?
彼女は、歴史に造詣が深く、警察というと、昔の特高警察のようなイメージを以前から抱いていて、戦争批判などすると、どのような目に遭わされたのかということを本で読んだのを思い出した。
あまり、戦争批判をした男が、拷問に我慢をしていると、手を抜くところか、耐えられないような拷問をしてくるという。彼女が読んだ本の中で一番悲惨な状況なのは、
「生爪を剥がす」
というものであった。
それを見た時から、しばらくの間、目を瞑ると、その状況が瞼の裏に浮かんできそうで、恐ろしかった。
その頃から、警察というものは、今の時代であっても、信用できないものだという思いが、自然と残ってしまったのだった。
今回のような態度で入ってこられると、完全に読んだ本にリンクしてしまったかのようだった。そのせいで、この時彼女は、
「瞬きをするのが怖い」
と感じるようになったのだ。
それは、目を閉じると、瞼に浮かんできた拷問のイメージがまた思い出されてしまうという恐ろしさと、もう一つは、一度目を瞑ってしまうと、もう開けることができなくなるというような、根拠のない恐怖から来ていた。
目を開けると、そこは自分の知らない世界が広がっていて、その世界を一度覗いてしまうと、元の世界に戻れなくなるかような、そんな感覚だった。
根拠がないということは、逆に言えば、
「根拠さえあれば、もう疑いようがないということであり、根拠がないことで、疑うことだけは許されるという意味で、余裕があるのかも知れない」
ということであろう。
警察が入り込んで死体を見つけると同時くらいに、今度は今まで二人だけだと思っていたが、扉の向こうから、
「失礼します」
と言いながら、まるでレンジャー部隊のように統率の取れた腕に、F県警察という腕章をつけた集団が、数人入ってきたのだった。
手には、まるで魚釣りでも行ったかのようなくらいのジュラルミンケースを肩にかるっていて、足早に入ってくる。そして刑事がしゃがみこんでいるのを眺めながら、無口で、皆それぞれの配置について、ケースの中から七つ道具を取り出し、いろいろ調べていた。
そこまで見れば、その人たちが、
「鑑識の人間だ」
ということは、疑う余地もなかった。
初めて見る鑑識の手際の良さは、本当に刑事ドラマのシーンそのものであった。
一気にまわりは、死体発見という喧騒とした雰囲気に変わってしまったのだが、それがすべて無言で行われていたことに恐怖というか、気持ち悪さを感じたのであった。
警察は、いろいろ物色をしていて、刑事同士で、小声で話をしているのも見えた。完全に無視されていることに、最初は、
「捜査なんだから、しょうがないか」
と思っていた奥さんだったが、それにしても、自分が通報しなければ、警察だって、捜査できないんだから、さっさとこっちに来てくれてもいいじゃないかと感じた。
その気持ちが分かったのか、それとも、奥さんの視線に気づいたのか。刑事の一人がおもむろに捜査から離れ、こちらにやってきた。どうやら、やっと自分の番のようだ、
心の中では、
「どれだけ待たせれば気が済むんだ」
と思ったが、かなり待たされたという思いは、あくまでも死体を発見してから、通報した時点からの起算となるが、刑事の方とすれば、あくまでも、ここに到着してからの思いなのだろうから、彼女の感覚とはかなりの隔たりがあるに違いない。
「いや、どうもお待たせしております。このあなたが第一発見者の方ですね?」
と聞かれた奥さんは、
「ええ、そうです」
「こんな早朝に、すぐに死体をどうやって発見されたんですか? まずはその経緯をお願いします」
ということで、前述の様子を話した。
「なるほど、ということは、あなたが毎朝の日課としている玄関先の掃除をしていると、隣の部屋の扉から、明かりが漏れているのに気が付いた。まわりが真っ暗だったから、余計に分かりやすかったというわけですね? それでこちらを見られていると困ると思ったので、近づいてみたが、扉が閉まる様子がない。おかしいと思って、思い切って覗き込んだというわけですね?」
「ええ、その通りなんです。中を覗き込むと、リビングのところで人が倒れているのが見えて、慌ててしまって」
「そこで警察にですね?」
「ええ、そうです。死体のそばで、手を触ってみると、冷たく、そして固くなっていて、脈を診るまでもなかったので、警察に電話をかけました。完全に、人間の形をした大きな石が転がっているという感じだったからですね」
「よく分かりました。ところで、この方は所持している運転免許証などから、今里茂という方に間違いないと思われるんですが、こちらの住人だということでよろしいでしょうか?」
「ええ、間違いないですね」
「奥さんは、隣の703号室にお住まいの方ということで、よろしいのでしょうか?」
「ええ、かまいません」
ということで、今話をしているのは、その隣の705号室であり、殺されたのは、そこの住人である。今里茂という男だという。
最近は、個人情報やプライバシーの問題がいろいろあるため、玄関先の表札や、一階にある集合ポストに表札を掛ける人は少なくなった。登録されていない電話番号から電話があった場合、今までであれば、
「もしもし、○○です」
と、答えていたものが、今では、
「もしもし。どなたですか?」
という形で電話に出るか、あるいは、最初から出ないかのどちらかであろう。
登録されていないところからの電話であっても、緊急に知らせを必要とするところであれば、かかってくることもあるだろう。そういう意味で、出ないという選択も後での後悔に繋がるのであればと思うと、さすがに出ないわけにはいかないと思う人も少なくはないだろう。
それを思うと、プライバシーの保護という問題は、いろいろなところに影響を及ぼすことになり、
「実に世知辛い世の中になったものだ」
と思わせるに違いなかった。
これだって、元々、詐欺というものが出てこなければ、こんな世知辛い世の中になったり、知らないところからかかってきた電話を、
「まずは、詐欺を疑え」
などという物騒な発想にならなければいけいことを思えば、本当に腹が立つというものだ。
しかも、それを自然とできるようになったことで、
「詐欺に対しての備えは、それくらいでなければいけない」
と言って褒められても、嬉しくもないというのは、実に不思議な感覚だ。
普通は、
「褒められれば嬉しいものだ」
というのは、当たり前のことであり、条件反射のように感じてきたことのはずなのに、その条件反射を覆す時代が来たのだと思うと、これほど情けないものがあるだろうか。
そんなことをいろいろと考えてくると、本来であれば、恨むべきは100%詐欺集団の存在のはずである。しかし、ここまで段階を得ないと、まわりを疑うことで褒められるほどの状態になれないということであり、そこまでくると、元々恨むべき相手が詐欺集団であるということを考えたのが、まるで遠い昔のように思えてくる。それが悔しいのであった。
何が一体、どうして、こんなにも暮らしにくい時代になったというものか。
「今まで普通の会話として成立していたものが、今では、セクハラだ、パワハラだといって、何も言えなくなった」
という嬢氏が果たしてどれだけいるのだろう。
確かに差別問題であったり、上司と部下、あるいは、男と女という上下の関係を使って明らかに自分のストレスをぶつけていた上司もいただろう。それに対して文句がいえない部下があいたのも事実で、そんな状態を打破するため、今は、
「コンプライアンス」
という言葉で、社会が、仕事をしやすい環境という風潮になってきたのだ。
だが、コンプライアンスを遵守するのは、基本的には当たり前のことだが、別にセクハラでもパワハラでもない日常のことまで、ダメだということになってきた。
下手をすると、管理職になると、いかに部下を使って仕事を効率よくまわすかということが課長の上からの評価となるのに、それがコンプライアンスを盾に、部下が上司のいうことを聞かなくなるということも実際に起こっているかも知れない。
前までは、
「○○君、今度のプレゼンの資料、任せたからね」
などと簡単に言えたのに、部下の中には、
「具体的に提示やり方を提示してください」
という人も出てくる。
前であれば、上司の気持ちとして、
「君に任せておけば、できるという期待を込めてお願いしているんだよ」
と言いたいのだろうが、部下とすれば、
「上司から、自分の実力以上の仕事を押し付けられた。つまりは嫌がらせを受けたのだ」
という思い込みから、
「上司から、パワハラを受けた」
と言いかねない。
課長とすれば、それだけは避けなければいけなかった。
なぜなら、もし、この主張が通る通らないは別にして、この不満が表に出てくれば、自分の直属の部下たちが、
「私も課長から、パワハラを受けていました」
「私もです」
と言って、次から次に申告する人が出てくるだろう。
そうなると、会社というのは冷たいもので、部下から、
「パワハラ上司」
というレッテルを貼られたことで、上司はそれ以外の功績をすべて封印し、彼を、
「コンプライアンス違反」
と認定し、何かしらの処分を科すことになる。
どこかに左遷されるか、そのままいわゆる、
「窓際族」
となり、
「肩たたき予備軍」
として、会社で完全に干される形で、最悪の、
「飼い殺し」
という状態にされかねない。
それほど今の世の中は、
「部下に仕事を振っただけで、パワハラ扱いされる時代になった」
といえるかも知れない。
そんな時代を、奥さんは思い浮かべていたが、実は刑事の頭の中には、絶えずあると言ってもいい。もちろんそれは、自分のことではなく、犯罪捜査においてのことで、動機が何かということを考えた時、怨恨だったりが、考えられる時、このコンプライアンス違反や、プライバシーの侵害などということが、犯罪に絡んでいることも少なくないからだった。
奥さんが警察がそこまで考えて捜査をしているかどうか、正直分からなかった。ハッキリいうと、
「ほとんど考えていない」
と言った方がいいかも知れない。
普通であれば、警察という組織自体が、コンプライアンスであったり、個人情報の保護を一番率先して守り、さらに、捜査においても、理念やモラルという意味でも一番遵守しなければいけないところだと思うのだろうが、警察という組織にそこまで期待もしていなければ、さらには、失望しかないという思いも抱いている。
その理由には、テレビドラマの影響もあるだろう。
主婦というと、昼の2時間サスペンスの再放送などを見ている印象があるが、この奥さんも、パートはしているが、毎日というわけではなく、週に、2、3回の休みがあるので、その時に、よくサスペンスを見ていた。その影響もあってか、警察組織の、典型的な縦割りであったり、管轄と呼ばれる縄張り意識。縦割りなどでは、キャリアやノンキャリアの明らかに差別にしか見えない待遇の違いや命令に絶対で逆らうことのできないという体制、そんなものを見せられると、
「完全にパワハラの巣窟ではないか?」
と感じさせられるのだ。
そういう意味で、近所の奥さんと話をした時など、
「あんな警察にだったら、何かあった時、協力なんかしたくないわよね。下手に警察に協力して、そのせいで、近所の人から恨まれるようなことにでもなったら、誰が責任を取ってくれるというのよ」
と言って、相当にご立腹だった。
その意見には、この奥さんも賛成で、
「そうよね。変に死体の発見者になったり、事件の関係者になんかなりたくないわよね」
という舌の根も乾かぬうちに、このような事件に遭遇するとは、これって、本当にただの偶然なのかと疑ってみたくなるものだった。
「ところで、立ち入ったことをお伺いいたしますが、お隣の今里さんのことで、何かご存じのことはありますか?」
と刑事に言われて、
「そら、来た」
と思ったが、刑事の言い方が、気を遣っているからなのか、かなり曖昧な言い方だったので、聞き直したのだ。
「それはどういった種類の?」
「たとえば、時々お話をするとか、お隣によく客が来ているとかですね。分かる範囲で結構です。客観的に見た意見でも構いません」
と、かなり、遠慮していて、言葉を選んでいるのが分かった。
そのせいでぎこちない質問になっていることに、思わず吹き出しそうになりながら、
「いいえ、私は何も知りません。私自身、近所づきあい自体好きではないし、特に、掃除を始めたきっかけを考えると、私が近所づきあいが嫌いになるわけは分かるでしょう?」
と少し立腹したように言った。
もちろん、刑事も先ほどの話でそのことは重々分かっているからこそ、このような歯に物が挟まったかのような言い方になったのが分かったのだ。
それでも、警察というものに信用をおけないと思うことで、余計なことを言わないまでも、今までの不満や鬱憤を、この時とばかりにぶつけてやろうというくらいの思いはあったのだった。
「警察って、本当に信用できない」
と思っている。
それを考えると、これ以上の話は時間の無駄だ」
と思うようになってきた。
「警察なんだから、何も知らない私にかまっている暇があったら、もっと他にすることがあるでしょう?」
という思いが顔に出ていたのかどうか分からないが、
「とにかく、私は何も知りません」
と、追い打ちとして、ダメ押しの一言を浴びせると、刑事は、何かホッとしたかに見えるような表情で、
「ありがとうございました」
と言って、簡単に引き下がった。
今のお礼は、思わせぶりな態度で、いたずらに時間を費やす相手ではなかったということでの安心ではないだろうか。主婦とすれば、それ以上でもそれ以下でもないとしか思えなかった。
第一発見者の話を聞いてみたが、そこでハッキリとした証言を得ることはできなかった。だが、この現状を見る限り、おかしな部分、他の犯罪ではなかなかないような特殊なところなどが浮き彫りになったのも、第一発見者の証言があったからであろう。
一つ目としては、
「玄関が開けっ放しであった」
ということである。
そのおかげで、第一発見者によれば、
「あの時間は、一つ置きにしか電灯がついていないので、ちょうど、事件があった部屋の前は暗いんです。でも、扉が開いていて、中の電灯がついていたことで、すぐに何かおかしいということが分かったんです」
ということであった。
もし、犯人が死体発見に時間を考えていたとすれば、隣の奥さんがあの時間に掃除をしていることを知っているのかいないのか、それによって状況が少し変わってくるであろう。知っていたとするならば、犯人は明らかに、奥さんに死体を発見させようとして、わざわざ明かりをつけっぱなしにしていたのだろう。奥さんがいうには、
「自分が掃除をしていることを誰かが知っているかいないかは正直意識はないですが、知っている人がいたとしても、別に隠しているわけではないので、誰が知っていたとしても、そこに不思議はないです」
と言っていた。
それを思うと、
「確かに、第一発見者を奥さんにしたいのが目的なのか、発見時間をあの時間にしたかったのかのどちらかではないか?」
と思えるのだった。
ただ、奥さんを第一発見者に仕立てたかったということであれば、あまりにも奥さんが、被害者の情報を知らないといってもいいだろう。
知っていることといえば、一人暮らしであるということと、あまり訪問者もおらず、どちらかというと、あまり部屋にいる方ではないということだった。どこかに出かけている時間が多いということだろう。
さらに奥さんの話では、
「私が掃除を始めたきっかけになった、ごみを捨てるという嫌がらせに関して、どうもあの人ではないような気がします。なぜなら、ごみがあった時期は一時期、毎日だったのですけど、その間、朝、旅行カバンを持って出かけることが多かったので、出張なのだろうと思っていたんですよ。だから、犯人はあの人である可能性は限りなく低いと思っていました」
というのだった。
ただ、それでも、あまり交流がないのは、今里氏の方も、近所づきあいが苦手なのか、奥さんだけではなく、他の人ともかかわりを持たないようにしていたからのようだった。
まあ、今ではそれが普通だと言えばそれまでなので、別に珍しいことでもなんでもないのだった。
他に分かったこととすれば、死因は、胸を刺されたことによる出血多量からのショック死だということだった。死亡推定時刻も、鑑識が見てから、5時間前くらいだろうということだったので、日付が変わるくらいの時間ではないかということだった。
いわゆる、深夜という時間帯である。扉を開けたままだと、刺された時に声を発したとして、扉が開いていれば、その声が響かないとも言えないだろう。
ということは、殺害までは扉はしまっていて、犯人が出ていく時に、扉にロックがかからないように、留め金をひっかけておくような形にしたのだろう。
なぜそのようなことをしたのかは分からないが、犯行の瞬間から、その後の行動は何となく分かった気がした。
また鑑識の報告によれば、リビングはフローリングになっているのだが、どうやら、本当はもっと血が流れていたということだった。出血多量だったというにしては、床に残っていた血痕が少なかったように思ったので、訊ねると、
「どうやら、拭き取った跡があるようですね。しかも、アルコールのようなもので拭き取っています」
と言って、鑑識はアルコールの入ったスプレーを、いかにもこれを使ったかのように刑事に示したのだった。
それを見た刑事は、
「これは?」
と聞くと、
「この部屋の玄関先にあったんです。きっと帰ってきた時、被害者はこれで毎日消毒していたんでしょうね」
と言っていたこともあって、それがいかにも被害者が潔癖症であることを示してもいたのだ。
もう一つ考えられることとして、現場にあまり争ったと思われる後もなく、さらには、来客があったことを示すようなものはなかった。犯人が後から片付けたというには、ごみとなるものもなければ、コーヒーやお茶などが使われた痕跡もなかった。
となると、
「死体は、どこか別の場所で殺されて、運ばれていたのでは?」
という意見もあったが、それならば、犯人は一人ではなく複数であり、部屋には死体を運びこんだような跡もなければ、防犯カメラにも、怪しい人影があるわけでもない。
真夜中とはいえ、一つの次第を何かにくるんだり、大きな箱の中に入れて運んだりすれば、何かの痕跡は残るはずだが、そんなものもなかった。
やはり、
「他に殺害現場があった」
と考えるのは、あまりにも突飛な発想であるということが分かるのだった。
となると、分からないことが増えてくる。
殺害現場がここでしかないと分かりそうなものなのに、わざわざ、後から床を吹いたりしなければいけないのか? そもそも、死体は早朝に発見されるように仕向けているのだから、逆にいえば、犯人は朝方近くまでいて、5時すぎくらいに掃除に出てくる隣人を、死体発見の人物として選んだのであるから、ギリギリまで潜んでいたと考えるのも普通だろう」
そこで、一人の刑事が何かを思い出したように、
「犯人の目的は、5時すぎに死体を発見させるのが目的だったんでしょうか?」
と言い出した。
それを聞いたもう一人が、
「他に何かあるというのかい?」
と聞きなおすと、
「犯人の目的は時間ではなく、発見者じゃなかったんですか? 隣の奥さんに発見させたいという目的ですね」
というので、
「隣の奥さんに何か事件に関係するものがあるとでもいうんですか?」
と聞かれて、
「そうかも知れないが、そうではないのかも知れない。もし、そうではないとして、逆の意味で考えると、犯人は奥さんに死体を発見させたかったのではなく、発見する可能性がある人の中に、死体を発見させたくない人がいて、その人が発見してしまう前に、隣のおばさんに発見させようと思ったのかも知れませんよ?」
というではないか?
それを聞いたもう一人の刑事は、
「なるほど、それは興味深い考えかも知れないですね。その人は、隣のおばさんのルーティンと知っていて、それならばこれを使わない手はないとでも思ったんじゃないのだろうか?」
と答えた。
「ええ、そうなんです。この部屋はエレベーターにかなり近いところにあるので、奥にいくつも部屋があります。その中に、犯人にとって、第一発見者になってほしくないと思っている人がいると考えればどうでしょう? そう考えると、もう一つの考えが浮かんでくると思いませんか?」
と言われて、
「どういうことですか?」
とまだよく分かっていない様子で、聞いてみた。
「つまりですね? 犯人にとって、その人が第一発見者になっては困るんです。第一発見者になって最初に目立ってもらうと、犯人の計画が揺らいでくる可能性ですね。要するに、犯人にとって、その第一発見者にしたくない人には別の役割を与えていた。つまり自分の身代わり、その人を犯人に仕立て上げたかったじゃないですか? 確かに第一発見者を疑えとは言いますが、すべてにおいてではない。しかも、その人にとって被害者に対して、殺意を抱くだけの十分な根拠があったとすれば、犯人に仕立て上げたい人は、なるべく関わりになりたくないだろうと感じるはずなので、何もなければ、コソコソとしているかも知れない。でも警察にかかれば、そんな裏付けはすぐに得られ、彼が重要参考人となる。そんな時、コソコソ何かをしていれば、犯人と疑うには十分です。そんな人にわざわざ第一発見者になって目立ってもらうと、警察も疑ったとしても、第一発見者として通報したのであれば、すぐに犯人の中から削除してしまう可能性はかなりある。そう思うと、余計なことをしたくないと思うんでしょうね」
と、もう一人の刑事が言った。
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