初期者 P(計画)②

名前:葉島一也はじまかずや

年齢:28歳

職業:会社員

顔:(良い意味で)特徴のないしょうゆ顔

髪:3ヶ月に一度の美容院通いで事足りるこだわりのない短髪。整髪料は好まない。

体格:中肉中背。筋肉は少なく、線が細い。

服装:ジャケット、スーツ、ジャージそれぞれで同じデザインのものを使い回す。

性格:穏やかで、落ち着きのある雰囲気が崩れない。

特技:家庭料理を作ること。カレーライス、麻婆豆腐など。

弱点:高所。恐怖症まではいかないが、観覧車なども苦手と本人談。

口調:口の動きが少ない。聞き取れはするが、暗い印象を与える。

要望:前世の記憶を残し、毎日思い出させること。

一言メモ:転生=救い? 真顔で言っていたから、冗談ではなさそう……。


「……まぁ、いっか。及第点って感じ」


 イズミコが俺の記した人物表から顔を上げる。対面の葉島と隣の俺を交互に見て、座を正す。


「では、これより転生召喚を行います。泉にかざすようにして、左手をこちらに」


 イズミコが右手を差し出して、葉島を促す。歯島は一瞬だけ身構えたが、言う通りに左手を寄越す。


 下から添えるように、イズミコは葉島の手を握った。イズミコの小さな手のひらで指を包んで、しばらく、そのまま……。


 イズミコは口の中でなにやら呟いている。

 俺にも葉島にも聞こえないが、粛々と、淡々と、儀式的リチュラリスティックな雰囲気に何も言えない。


 イズミコの唇が止まる。息継ぎを数度繰り返し、薄く開いたまま、身をかがめて……


 ちう


 と、葉島の手に口づけをした。


「なッ……!」


 何をしてんだ、という俺の言葉は、イズミコの左手一本で制止させられる。

 その間も、イズミコは葉島と触れ合っている。親指の付け根へ柔らかに噛みつくように、上下の唇をあてがったまま。

 葉島の野郎は、面食らいながらも手を動かすことなく、されるがままになっていやがる。

 実に1分以上、イズミコの紳士的なキスは続いた。


「……ぷ、は」


 ようやく上体を起こし、イズミコは葉島から口を離した。


「さぁ、いきなさい。ここから、転生したあなたが始まります」


 イズミコの言葉に葉島は伸ばしたままの右手を、泉の水面に置く。

 同時に、再び召喚陣が浮かび上がり、目を潰すほどの光量で葉島が青白く覆い尽くされる。


 そして、葉島はいなくなった。


「……今のが、私の転生召喚方式。見た方が早いでしょ」


「イズミコ」


 俺は、溜まった鬱憤をぶちまける。


「誰彼構わずキスをするようなふしだらな子に育てた覚えはありません!」

「育てられた覚え、ないし」


 イズミコは袖からハンカチを取り出すと、唇を拭う。


「必要なことなの。ああしないと、異能を与えられないんだから」

「与える? 異能を?」


 鸚鵡返しに、イズミコはこくんと頷く。


「……私が管理する世界には、人類に対する異能の付与が許可されているの」

「それって、火を吹いたり空を飛んだり?」

「最初はそんな感じのイメージでいい。最後の質問の回答に応える形で、召喚時に異能を組み込む。そのためには……」


 言葉を切ったイズミコは、舌先を指で挟んで、ぐいっと垂らしてみせる。

 鮮血色の表面に、小さな門と、さらに小さな鍵穴が刻まれていた。舌の上の門は、周りに召喚陣と同じ字体の文字が細かく書かれており、凹凸ができないように埋め込まれている。


「それ……」

「鍵を開けて、直接贈らないといけないんだから」


 イズミコは指をハンカチで拭い、舌の位置を気にしてむぐむぐと唇を動かす。


「私のは、分類カテゴリ【超越変異】・称号コード舌鍵索引ぜっけんさくいん』。これで転生者に合わせた異能を照合して、引き出して、与えているの」

「…………」

「なに」


 座ったままの俺に合わせて、イズミコはしゃがんでくれる。


「……転生召喚士っていうのは、みんな、それを持っているのか?」

「まさか。召喚士は何千何万っているけど、異能付与の許可が降りているのは100もいない」


 さらりと、イズミコは言ってのける。細かい説明は端折られたが、イズミコ曰く「召喚士ってのは、生前の世界で言う所の法曹資格取得者みたいなもの。で、異能付与が許可されているのが、大手法律事務所のエースって感じ」とのこと。


 しばし、俺はイズミコを眺める。いまの彼女は、巫女服がバツグンに似合う幼い少女でしかない。舌に異能を刻んだ転生召喚士、だなんて、思えない……。

 わしゃわしゃわしゃ、と、頭を撫でてみる。


「にゃぁあッ!」


 飛びのいて、引っ掻かれて、毛を逆立てられた。


「なにすんのよ!」

「いや、その……頑張ったんだな、イズミコは」

「……そうよ。頑張った」


 イズミコはしおらしく答えてから、ぷいっとそっぽを向いた。膨らむ頰は、まだ幼さを残している。

 選ばれし召喚士には見えない愛らしさに、つい顔がほころぶ。


 ぱしん! と、俺は自分の膝を打つ。


「よし、イズミコ。俺はイズミコの手となり足となろう。掃除も炊事もなんでもこい! 存分にこき使ってくれよ!」

「終身雇用なんだから、当然だし」


 向き直ったイズミコは「じゃ、さっそく」と、半畳分の泉を指差した。


「最初の仕事。あなたも、転生してきなさい」


 ……うん? 俺も、転生?

 目を丸くする俺に、イズミコは肩を落とす。


「あのね。あなたの肩書きはなに?」

「転生召喚士付きの、査問官」

「だよね。だから、ほら」


 ぐいっと襟を掴まれて、立たされる。すぐ横には、泉。


「い、いやいやいや! とりあえず、説明してくれって!」

「こき使えって言ったでしょ。とっとといきなさい。生き返りなさい」

「ま、待って……」

「問答、無用!」


 腰を掴まれて、回転力に持っていかれた俺は、頭から世界に落ちていく。

 決まり手は、上手投げだった……

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