皇子はこの俺だ☆

「いえ、その人違いだと思いますよ?」


 さすがに訂正しておこうかなってことでテルミエルに対して俺が答える。というか俺、偉い人と間違われすぎなんだよな。レイナも魔王だと思ってたっぽいしさ。


「何をおっしゃいますか。魂で判別可能ですよ?」


「えぇ?」


 謎理論展開されたんだけど。第一俺それわかんないから。


「後は目でもわかりますね。悪魔特有の目をお持ちになってますから」


「いや、俺普通に黒目なんですけど……」


 日本人らしい黒髪黒目ですね。


「少々お待ちくださいね……はい、これでいかがでしょうか」


 俺に向かって手をかざしたテルミエル。同時に俺の目に熱がこもったような感覚がする。と、同時に脳裏によぎる一欠けらの記憶。


 その記憶の中で俺の目の前に立っていたのは1人の女性だった。周りには深紅の花が咲き誇っている。


『母さん、俺ちょっと俗世見て回ろうと思うんだよね』


『あら、私の元を離れようなんて……反抗期かしら?』


『いや、そういうわけじゃないけど……俺達執務をキリマスさんに任せきりじゃん。少しは仕事できるように見識を広めたいと思ってさ』


『別にあれは好きでやってるから任せておけばいいのよ。まぁあなたが行きたいというのなら条件があるわ』


 ここまでしか思い出せない。条件ってなんだったっけ。そこが一番大事だろうが。


 というか、これって昔の……というか前世の俺って感じなのか? この適当そうな感じはまぁ、俺っぽいけどいまいちその辺がよくわからない。感覚的ではあるが、大体一億年くらいは前な気もしないでもない。それはまぁおぼろげでも仕方ないよな。


 ただ、俺が母さんと呼んでいたあの女性に関しては割とはっきり思い出せる。彼女は『邪神』、または『悪魔王』と呼ばれる存在だった。それは確かに皇子と呼ばれるだろうな。納得だよ。


 また、俺は戦いが好きではないからこれはついでではあるんだが……力の使い方、いくつか思い出した。


 『魂装』、『大魔王武装』、『魔具』。どれも強力な物ばかり。俺、さぞかし強かったんだろうなぁ。今はステータスが伴ってないんだけど。あとで少し能力試して見ようかな。


「うん? なぜか左目が金色ですね」


「気にしないでくれ。それは俺の前世での話だ」


 実は前世、まぁ一つ前に見に行った世界というのが正しいか。それについても少しだけ思い出した。特に大きかったのは俺に愛する伴侶がいたということ。


『気にしないで。私はあなたのそばにいる事ができるだけで幸せなんだから。いつか、絶対に一番になって見せるからね!』


 彼女以上に大切な人がいると告げても共にあろうとしてくれた彼女を俺は迎えにいきたいと思う。


 そういえば彼女以上に大切な人って誰だったっけな。とても大事なことのはずなのに、思い出せない。


『やめようよ。私と一緒に今まで通りゆっくり過ごそうよ!』


 そうだ、俺は大事な人を置いて……。


「主殿? 顔色が良くないのじゃ」


「主様、無理はなさらず」


「そうちゃん?」


 3人が心配してくれる。そうだ、昔ばっかり考えてないで今の事も考えないと。


「大丈夫だよ。皆。どうやら俺が皇子ってのは間違いないらしい。それと、前世が魔王ってこともわかった。レイナには今まで申し訳ないことをしたと思ってる。ごめんな」


 ぶっちゃけ思い出せてる範囲が狭すぎて、レイナの事はまだ思い出せてないけど、きっと俺に仕えていたというのは間違いじゃなかった。


「それでテルミエル。あの悪魔の回収は俺からも許可を出すよ」


「ありがとうございます。では私はこれで失礼しますね。皇子様、皇女様ともに体調にはお気をつけくださいね」


 テルミエルはそういうと目にも止まらぬ速度であおむけに転がるヴェンテの首元をつかむと真っ黒な穴に放りこんだ。


 そしてその後こちらに一度礼をしてからテルミエルもその穴の中へと消えて行った。


「しかしまぁ伯爵位はやべぇ奴が多いな」


 俺がそうつぶやいたとき、俺の目の前に金本さんが来た。


「あなたがお兄ちゃんって本当?」


 そうか、皇女って呼ばれてたもんな。それに母さんが私の娘になりなさいとか言ったって話も聞いてるし、間違いはなさそうだ。


「らしいですね」


「敬語じゃなくていいよお兄ちゃん。これからよろしくね!」


 一応現世では金本さんの方が年上なんだけどな。


「お、おう、よろしくな」


「妹枠なら……まぁいいかな……」


「ん? なんか言った?」


「何も?」


 隣で鈴音が何か言った気がするが。まぁ気のせいだろうな。


「とりあえず、ここでの問題は解決したから急いで次のダンジョンに行こう。そろそろ本当に犠牲者が出てもおかしくない」


「賛成じゃな」


「行きましょうか」


「急ごう!」


「私も連れてってね、お兄ちゃん!」


 というわけでなぜか一行が1人増えたがレイナの魔法で転移する。


「ちょっと待てお前ら!? どっか行くならせめて俺に説明してか」


 転移する直前に何か聞こえた気がする。なにか、忘れているような……気のせいか。


 視界が変わり、新たに着た場所は横浜ダンジョン。


 そこでは、すでに悪魔と人間との決着がついていた。

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