正常な試練

「何者じゃ? 冥竜王にも及ぶほどの圧を感じたぞ」


「あれは戦っちゃダメな相手ですね……魔王様と同格の魔力の圧……正真正銘の化け物ですよ」


 白衣の女性が消えたのち、ウェスタとレイナが口々にそういった。口ぶり的に二人よりも強いのか、あの白衣の人。


 おそらく名前はバモンか……悪魔の公爵の1人。そんなに強いんだな。しかし、最後に彼女は俺を見て、「皇子さま」といった。それは一体どういう意味なんだろう。それについて少し考えたとき、目に少しの痛みが走った。……今のは?


 まぁ考えてもしかたない。今はとりあえず他のダンジョンの氾濫を静めなければ。


 ……だが本当にそれでいいんだろうか。アルデンはこの氾濫を「試練」といった。これはこの世界の人が強くなるために故意に引き起こされたものということだろ?


 それを外の世界から来たウェスタとレイナの力で解決してもよいものなのだろうか。それではこの世界の人は強くなれないんじゃないか? アルデンはこの世界に危機が訪れるといった。果たしてそれは俺達だけで解決できることなのだろうか。


 俺達だけがこの世界トップクラスの力を持っていても仕方ないんじゃないのか?


「ウェスタ、レイナ。この氾濫はこの世界の人への『試練』らしい。要はこの世界の人々を強くしたい。ここに俺達が関わっちゃ、多分だめだ。でも、死者がでるのは流石に見過ごせない。と、いうわけで、俺達は保険的な感じで人が死にそうだったら助ける形である程度は手をださずにいようと思う。異存ないか?」


「儂は賛成じゃな。先ほどの悪魔に並ぶ存在がこの世界に敵意を持った時、世界を守れるのが儂らしかいないという状況は好ましくない」


「試験の時の人もそこそこ優秀でしたが、トップがあの程度となると少し不安も残りますね。私も賛成です」


 二人は賛成してくれた。鈴音はどうだ?


「私はこの世界の人間だけど……? まぁ言わせてもらうなら……さっきの悪魔相手だとまるで勝てる気がしなかったよ。多分この世界の誰も勝てない存在だったんだと思う。この世界の人間として、二人に頼りきりなんて絶対にダメだと思ってる。だから……強くなりたい。他の人もきっとそう言うとおもう」


「そうじゃな、鈴音さえよければ今度儂が稽古をつけてやるのじゃ。また次会える時は、連絡するのじゃぞ?」


 盛大な鈴音の強化フラグが経ちましたと。


 とまぁそういうわけで、俺達はウェスタとレイナをあくまで最終兵器として他の氾濫を起こしているダンジョンを見て回ることにした。他のSクラスの力量把握も含めてな。


 というわけでつけっぱなしになっていたコラボ配信を挨拶ののち、終了。すぐにレイナの転移魔法で他のダンジョンに向かうことになった。まず初めは……一番近い札幌ダンジョン。


 レイナに少し札幌ダンジョンについての特徴を伝えると、いったこともないのに転移できた。


 転移魔法、これはずるです。反則です。


 札幌ダンジョンの内部。そこでは両断されたSクラスの魔物の死体がそこら中に転がっていた。


 死屍累々という言葉がぴったり当てはまる混沌とした状況であった。


「ぐっ!?」


 すると、ちょうど俺達が立っていたすぐ前に誰か人が吹き飛ばされてきた。誰だ?


「バケモンが! ったく、あの二人を思い出すぜ。ん? おかしいな、俺は幻覚でも見てるのか?」


 吹き飛ばされてきた人物はうちのウェスタとレイナを見てそんなことをのたまった。


 なるほど、札幌の担当は神宮司さんだったか。


「神宮司さん!? 無理はしないでくださいね!? あなたはこの世界の最終戦力なんですから……。ってそちらの方々は?」


 失礼、もう一人いらっしゃった。この方は……。清川 澄佳さん、確か聖女と呼ばれているSクラス探索者だったはず。


「すまねぇ清川、一回だけ回復頼む。こいつらは俺の知り合い。なんでここにいるかは俺もわからん」


「端的にいうなら……試練を見届けにきました」


 実際さっきの悪魔がぽろぽろ話してた話ではあるんだが、広めていいのかぶっちゃけわからないからな。ここはお茶を濁させていただこう。


「もっとわかんなくなったわ」


 神宮司さんが苦笑をこぼしたその時、通路の奥から声が聞こえてきた。


「その方たちも戦うんですの?」


 声のした方を見ると、まるで舞台衣装のようなドレスを来た赤い目の女性が奥から歩いてきた。


「いや、観客みたいなところだな」


「では関係ありませんわね。続けますわよ! 私たちの死合を!」


 これまた濃いキャラが来たなぁ……なに? 悪魔って好戦的な奴しかいないの?


 とにかく今は試練を見届けよう。あの悪魔を相手に神宮司さんが何かをつかむその可能性を、見届けよう。


 神宮司さんは剣を構えて女性に突撃していく。が、しかしその剣は簡単に躱される。あれ、神宮司さんの剣って因果に干渉して絶対当たるんじゃなかったっけ?


「やっぱやべーよお前。なんで俺の剣躱してんだよ」


「因果律など干渉するのはたやすいことですわ。後、お前ではなくちゃんとリムという名前がありましてよ!」


 名前の宣言と同時にリムと名乗った悪魔は神宮司さんに蹴りを入れる。神宮司さんもしっかり剣でそれを防いでいる。


「手加減されておるな」


「まぁ仕方ないでしょう」


 二人曰く、神宮司さんは手加減されているらしい。神宮司さん、鈴音しだいでどうなるかはわからないけど仮にも世界最強だぞ? やっぱ悪魔ってあり得ないほど強いんだなって。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る