悪魔伯爵

 アルデンがそう告げたその瞬間、いつの間にかそのそばにレイナが移動し、鎌と拳をぶつけ合っていた。


 いつの間に……。


「奇遇ですね。私の能力も時間操作系なんですよ。伯爵位を持つ悪魔の中でも概念系の能力を持つのは私だけです」


「全く、嫌な偶然です。あなたが相手じゃなければもう少し楽に殺せましたのに」


 お互い敬語で丁寧に話してはいるが内容がとても物騒である。


 というかアルデンとかいうやつ、悪魔であってたんだな。なんで悪魔がスーツ着てんの?


「殺せるつもりですか? 悪魔伯爵のこの私を!」


 アルデンという悪魔は楽しそうに笑い、レイナの鎌を拳ではじき返した。


「ウェスタさん! あなたは主様の護衛をお願いします!」


「任せるのじゃ!」


 どうやらウェスタは積極的に戦いに参加せず、俺を護衛する方針のようだ。


「私は?」


 いつの間にかとなりに来ていた鈴音が俺に聞いてくる。いやぁ……なんというかその、いいずらいけど……。


「あのレベルになってくると鈴音でも足手まといじゃないかなぁ……」


「確かに……」


 さっきの幻覚? でも一撃でやられちゃってたしな。


「安心するのじゃ。鈴音も儂が守らせてもらうからの」


 ウェスタが俺らにまとめて結界を張る。


「きゃー! かっこいいー!」


「のんきだなぁ……」


 俺達がウェスタに守ってもらって安心してるなか、レイナとアルデンの戦いは激しくなっていった。


「私も武器使わせてもらいますよ! 『魔具デビルズ・ウェポン』!」


 アルデンの手元に漆黒の糸が現れる。武器……?


「なるほど、糸使いですか……」


「正解です。では行きますよ」


 アルデンがまるで自分の手足を操るかのように糸を操り、レイナに攻撃を加え始める。


 レイナがその糸に鎌で攻撃した時、まるで金属同士がぶつかったかのような音がした。


「ふむ。そういう素材ですか」


「私の『魔具デビルズ・ウェポン』は自分で言うのもなんですが高性能でしてね!」


 すると、次の瞬間には二人の位置が入れ替わっていた。


「時間を止めても扱えるんですね、その糸は」


「当たり前です」


 なるほど、時間を止めてその停止した時間の中で戦ってるのか。俺達じゃ観測できない奴じゃないか? レベルがそこそこ上がってきてようやくほんの少しだけウェスタとレイナレベルの動きが見えるようになってきたってのにこの仕打ちかよ!?


 しょうがないから今の間にステータスの確認でもしておくかぁ……。


☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆

名前:夜見 宗次郎

レベル:358

職業:召喚士(V)

ステータス:攻撃力 57323

      守備力 41760

      魔力  43888

      知力  43997

      精神力 48690

      速度  60743

スキル:『契約』『契約:デッドレイス(アイン、ツヴァイ、ドライ、フィーア、フュンフ、フィニ)』『契約:炎竜王(ウェスタ)』『契約:死霊王(レイナ)』

☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆


 お、おお!? キタキタキターーー!! これ俺もそこそこ強くなったんじゃね!? 普通のSクラスよりも強いんじゃね!?


 まぁ……戦闘用のスキルとか、ないんだけどさ……。


 まだ部下のメイド隊の全員より圧倒的に弱いんだけどさ……。


「あの糸って燃えるのかのう……」


 なぜかウェスタは糸が燃えるのかどうか気になっている様子。そうか、戦いたいのか。


 だったらレイナとアルデンの戦いが終わったら、他の氾濫が起きてるダンジョンで暴れてもらおう。それが多分いろいろいいと思うんだ。ウェスタ的にもダンジョンの回りの人的にも。


「鎌で5本に分かれた糸を防ぐのは流石といったところですね」


「鎌使いですから。しかし、あなたは何のためにこの世界に来たのですか?」


 ん、その質問には俺も興味ある。


「人類の強化の為ですよ。試練ってやつです。まぁ私は弱い奴なんでどうでもいいんで、わざわざ弱い奴を少し強くするのに興味はないんですが、この世界は邪神様のお気に入りでして。それで近々起こる危機で生き残る人を増やすために世界のレベルを上げるためにきました」


「ふむ。今私と戦っていてその試練というものは正常に機能しているんですか?」


「いえ、全く? でも私は強い相手と戦えているので満足です」


 ……それでいいのか悪魔さん。さっきバモン様が課す試練とか言ってたからおそらくそれ上司からの命令ですよね?


「先ほど言っていたバモンという人物が邪神ですか?」


「いえ、バモン様は私の直属の上司ですよ。たった5人しかいない悪魔公爵の1人です」


 悪魔公爵か~。あれ、侯爵は?


「それって話してもいいんですか?」


「……あ、いえ、その……だめですね」


 すると、アルデンの隣に真っ黒な穴のようなものが現れ、そのなかから1人の女性が現れた。


「君さぁ、そんなポンポン機密情報吐かないでもらっていいかなぁ? しかも真面目に試練する気はないし……」


 白衣を来た女性で、すごーく申し訳ないんだが、胸しか目がいかない。俺も男だからなぁ……。


「そうちゃん?」


「あ、はいなんでしょうか」


「どこみてるの?」


「……どこも見てません」


 とんでもない圧を鈴音から感じた。


「ボクの立場も勝手に話して……はい、お仕置き確定ね」


「か、勘弁してください」


 白衣の女性……おそらくバモンはアルデンの首をつかんで黒い穴の中に放りこんだ。


「あ、皇子さま、またお会いしましょうね~」


 最後に俺に向かってそういって彼女は黒い穴の中に入っていった。


「皇子?」

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