『因果の試練』

「まだまだ行きますわよ!」


 蹴りを防いだ神宮司さんの剣にさらに拳が叩きこまれる。あの悪魔……リムは格闘家かなんかなのか?


 神宮司さんはなんとかといった感じでその拳を防ぎきる。


「重すぎんだよ! ドレス着て出していいパワーじゃないだろ!?」


 神宮司さんがリムに対して悪態をつく。うーん確かに俺もその通りだと思う。


「何を言ってるんですの? 格闘家たるもの、ドレスを着るのは当たり前ですわ」


「ごめん、ちょっと何言ってるかわかんねぇわ」


 俺は神宮司さんに全面同意したいと思う。なんなんだあいつ!?


「全く、これだから殿方はいけませんわね。まぁ魔界には殿方はいないのですけど」


「多分この世界じゃ女だろうと格闘家でドレス着るやつはいねぇわ……ちょっとまてよ? 中国の辺りにはいるかもしれねぇ」


 チャイナドレスとドレスとではわけが違うでしょうよ。神宮司さん、一旦落ち着こう?


「駄弁っている時間はありませんわ。来ないならまた私が攻撃いたしますわよ! せや!」


 リムは瞬時に回し蹴りを神宮司さんに打ち込んだ。当然神宮司さんは剣で守るが、衝撃を殺しきれず、ダンジョンの壁まで吹き飛ばされた。


「かはっ。なんでこんなつぇえんだよ」


「伯爵位を得るまでひたすら、研鑽を積んだからですわ!」


 リムも悪魔伯爵であるようだ。単純に考えるなら、レイナと決着のついていないアルデンの同格。


「まぁそんな方法、人間には無理だよなぁ……じゃあ俺は俺の方法で先を見据えることにするわ」


「いくらでもかかってきなさいまし。私を倒さないことには先に進めませんわよ!」


「じゃあ用意、させてもらうぜ?」


 そういった神宮司さんの聖剣の中心に青い光の筋が走っていく。なんだ? あれ?


「む?」


「辺りの魔力の循環速度が上がってますね」


 ウェスタとレイナが何かを感知したらしい。俺も魔力の移動速度が早くなったなぁとは思ったけど、そんなことになってたのか。


「実に、いいですわ! 人間の可能性。そして異世界の力の範囲の拡張。それがあなたの選んだ強くなるための選択なのですね! さぁ! その輝きを持って私にかかってきなさい!」


「まぁたった今人間はやめたらしいけどな? まぁ間違ってはない。俺がお前を倒すための覚悟の選択だ。今までどうなるかわからなかったからやらなかったけど、案外やれば成功するもんだな。『聖剣招来エクスカリバー』」


 神宮司さんの目の前に神々しい剣が突き刺さる。神宮司さんは魂装の剣を右手に、今召喚している剣を左手に持った。


 これはまさかの……! 二刀流だー! よっ! 男のロマン! というかさりげなく人間やめたっていわなかったか? 気のせいか。


「さぁ! 続き行きますわよ!」


「全力でいかしてもらうわ」


 先ほどよりもさらに早い拳が神宮司さんめがけて飛んでいく。しかしその拳を、神宮司さんは切り裂いた。早い。神宮司さんが剣を振る所が全く見えなかった。


 リムの腕は肘ほどまで真っ二つに裂けたが、次の瞬間には元通りになっていた。


「とってもよいですわ! 本当ならこれで試練は終了なんですけども。まだ消化不良ですわよね?」


「ああ、この力、試したいって思うのは悪いことじゃないだろ?」


「あなたならそういうと思いましたわ! さぁ! 続きと行きましょうか!」


 次の瞬間、神宮司さんの剣とリムの拳がぶつかり、大きな衝撃波が発生した。その衝撃はをよそに、リムは姿勢を低くして神宮司さんの腹部に拳を打ち込んだ。


 その拳は神宮司さんの腹部を貫通する。


「いてぇなぁ。でも、いてぇだけだ」


 神宮司さんは腹部に穴が開いた状態で、リムに向かって剣を振った。


「この状態で攻撃するんですの?」


 さすがにリムも驚いたようで、一旦拳を引き抜いて後方へと下がった。


「まぁな? 見ればわかんだろ」


 神宮司さんの腹に開いた風穴は、すでに埋まっていた。


 えぇ? 再生能力とかあったの?


「魔力体ですか! これは一本取られましたわね!」


「まぁまだまだ余裕はあるからいくらでもやろうぜ。今は気分がいいからな」


 そして二人はもう一度攻撃をぶつけ合う。……はずだった。


「は~いそこまで~。ここでの試練は終了ですよ~」


「アイネ様!?」


「なっ!?」


 突然現れた女性によって、神宮司さんの剣は人差し指と中指で挟むようにして捕まれ、リムの攻撃は人差し指一本で止められた。


 突然現れたあの女性……リムの言葉を信じるならアイネという名前の女性だ。髪の毛が長く、片目が見えないが、その目は確かに赤く輝いていた。


「まったく、リムは何を熱くなっているのですか~? 1人でも覚醒者がでたらすぐに帰ってくるようにいいましたよね~?」


「そう、ですわね。おっしゃる通りですわ」


 さっきまでめちゃくちゃ強気だったリムがめっちゃ萎縮してる。おそらくこのアイネという女性は悪魔公爵なんだろうな。


「皇子さまの御前ではしたないですね~。さぁ、これ以上恥をさらす前に帰りますよ~?」


 皇子という単語を耳にしたその瞬間、またも俺の目に痛みが走る。


「かしこまりましたわ」


 アイネの言葉をリムは了承、そして二人は一度礼をした後、真っ黒な穴の中に消えて行った。


「まじでなんだったんだ?」


 後には呆然とする神宮司さんと俺達が残された。

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