記念閑話【ネタバレ注意】『とある茶会』

 深紅の花が咲き誇る庭園の中央にある机。そこで、1人の女性が優雅に紅茶を口にしていた。


 そこに光の柱が立ち上り、その中から一人の客人が現れた。女性はそれに驚くことなく対応する。


「あら、久しぶりね」


「89年前に会ったばっかり。久しぶりでもなんでもない」


 紅茶を口にしていた女性は庭園に現れた客人をもてなすために机に紅茶を置いた。


「あなたは何か飲む? なんでも用意するわよ?」


「じゃあ珈琲を」


 机の上に珈琲が現れる。客人は女性の向かいの席に着いた。


「それで、あなたは何をしに来たの?」


 突然来訪した客人に女性は尋ねる。客人がこの庭園に直接来るのはとても珍しいことだからだ。


「89年ぶりに休暇ができたから少し様子を見に来た」


 それに対し客人は淡泊にそう答えた。


「それだけじゃないでしょう? 大方娘の様子を私にききに来たとかそんな感じじゃないかしら?」


「正解」


 女性は様子を見に来ただけのはずはないと、客人を問い詰める。そしてその読みは正解だったらしい。


「まぁあなたが来なくてもいずれ伝えに行くつもりだったしちょうどいいわ。私が下界を観察している限りだと、あなたの娘ダンジョンの最下層で眠りこけてるわよ?」


「私の教育は失敗だった」


 客人はわざわざ座っていた椅子から降りてからゆっくりと膝を地面につけた。


「教育失敗も何もあなたあの子に会いに行ってあげてないじゃない。まぁ私も息子とは1回もあってないからあまり言えないけどね?」


「確かにその通り。わかった。次の仕事にひと段落付けたら会いにいく」


 客人はもう数千万年あってない娘に会いに行くことを決意した。


「そう。あなたが行くなら私も息子に会いに行ってみましょうかね」


 客人の決意に流されてか、女性も決意を固めた。


「私は少し時間かかりそう。先に行けば?」


「そうね。そうさせてもらうわ。まぁあと数年は出ないつもりだけど」


 その女性の言葉を聞いて、客人は少し驚いたような顔をした。


「逆に数年で出るつもりだったんだ」


「まぁそうね。前から会おうとは思っていたし、いい機会だわ」


 女性は時間にルーズなタイプで、睡眠時も後5年といって140年寝たりなどはよくあることだ。しかし今回は数年で動こうというのだ。客人はそれをとても珍しく思ったのだ。


「さきに行ってくるといい」


「そうさせてもおうかしら。しかし、私たちの立場で仲良くしているところってどれくらいあるんでしょうね?」


 女性と客人は本来対立してしかるべき立場であるが、2人はこうして茶会をするほど仲が良い。それはひとえに、どちらも共にその立場の存在としては破天荒であるからだ。


「私が知る限りはない。転換のあなたが珍しいだけ」


「確かにそうね」


 もともと女性は客人の同じ立場であったが、才能を生かすために立場を変えたのだ。


「まぁどうでもいい話ね。お菓子でも食べながら私たちの子の様子でも見ましょうよ」


「そうする」


 机の上にお菓子がどこからともなく現れる。それは取り出されたのではなく、創り出された。


「私たちのこの次元は発展してていいわよね」


「私たちが仲良くしてるおかげ」


 二人は恩着せがましくそういうと、ポテチの袋やらを開けてこれまたどこからともなく現れた水晶のようなものを覗きながら食べ始めた。


 紅茶、珈琲にポテチとなかなかミスマッチな組み合わせである。


「ん? あなたの息子随分と弱くなった」


「まぁ一回死んじゃったから仕方ないわね~」


 女性の子は一度死んでいるらしい。二人はポテチと飲み物をつまみながら観察を続ける。


「世界、見ない間に変わったね」


「元の世界なら滅んだわよ?」


「そう」


 世界が一つ滅んだという事実に対して、二人は全く興味を示さなかった。彼女らにとって世界の一つや二つなどどうでもよいのである。


「ああ、今うちの子がいる世界に滅びられると少し困るわね」


「珈琲、ポテチ、大事」


 彼女たちはこの次元に存在するすべてのものを創り出すことができるが、存在が滅びてしまえば創り出すことは不可能となる。


「滅びそうになったら私がカバーするからあなたは安心して仕事してなさい」


「ん、頼む」


 客人はかなり忙しい身である。女性も本来は同等の仕事量があるはずだが、有能な部下のおかげで一切仕事が回ってこないので暇をしているのだ。その暇があれば世界を救うことなどたやすいのだ。


「会いに行くときはなにか持っていこうかしら?」


「食べ物とかはあの世界の人に持ってくには向いてない。高そうな武器とかもっていけば?」


 食文化だけが異様に進んでいるあの世界にほかの世界の食品をもっていっても喜ばれはしないと客人はアドバイスする。


「武器、ね。ちょうど死蔵してる魔剣もたくさんあることだしそれをもっていこうかしら?」


「いいと思う」


 その後も自らの子たちについて色々話合いながら二人の茶会は進んでいく。


「そういえばあなたいつまでいるつもりなの?」


「3年は休みだから1年はいる」


「そう」


 なんとこの茶会は1年間継続されるらしい。


 


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