魂装

「そろそろ起きるのじゃ、主殿」


 ウェスタに肩をゆすられ、目が覚める。ダンジョンの中で相変わらず暗いが確認すると時刻はすでに7時を回っていた。だいぶ長いこと寝たな。


「おはようウェスタ。朝ごはん食べて、攻略し始めるか」


 布団から出て座り、亜空間から今日の朝食である菓子パンを取り出す。


「む、それはパンか?」


「そうだぞ。普通のとはちょっと違うけどな」


 ウェスタはパンを見るなり少し嫌そうな顔をした。もしかしてパン、苦手か?


「ウェスタ、パンは苦手か?」


「少し苦手なのじゃ。昔、儂がまだ竜王じゃなかったころに食べた黒パンがその、あれでな」


 なるほど、異世界にあるパンがダメだった感じか。


「大丈夫、これは普通のパンとは違うからな。中にジャムが入っててうまいんだぞ」


 ちなみに俺が持っているのはいちごジャムパンだ。いろいろな菓子パンがあるとは言え、俺はこれが一番好きだ。高校生の時の昼休みはよく食ってたな。


「しかし、それでもパンには少し抵抗があるのじゃが……。主殿、そのパン、一口だけくれぬか? それで判断するのじゃ」


「いいけど、無理しなくてもほかの食べ物は買ってきてるぞ」


 おにぎりとかな。ちなみに皿、牛乳、コーンフレークも持ってきてるぞ。なんでも入る亜空間便利すぎなんだよな。


「いや、パンが苦手といっても随分前の話なのじゃ。挑戦、してみるぞ」


「そうか、じゃあはいこれ」


 俺は菓子パンの袋を開けて、ウェスタの口元に差し出した。ウェスタは小さめに一口それを食べた。そして、その瞳を輝かせる。


「うまいのじゃ! 昔食べたパンとは大違いじゃ! 儂も朝はこれを食べるぞ!」


 どうやらお気に召していただけたらしい。もう一つ同じいちごジャムパンを出して、袋から出しそれをウェスタに渡す。


「はいこれ」


 するとウェスタは俺に向かってそのパンを差し出してきた。なんだ?


「主殿のパンを一口もらった分のお返しじゃ」


「別にそのぐらい気にしなくていいぞ?」


 ウェスタの一口は小さいしな。全然気にすることじゃない。


「儂が少し気にするのじゃ。遠慮せずに一口食べるのじゃ!」


 そういうわけなので一口いただくことにする。小さめにな。


「わかったって。うん、うまいな」


 その後は二人でゆっくりパンを食べた後、布団とかをしまって。結界を一度解除、そして俺だけに張りなおしてもらって出発となった。


「さて、ここを下りるんだよな」


「そうじゃな」


 5層へと降りる階段。ウェスタと二人で階段を下っていく。しかし、今回はほかの層の時の階段よりもやけに長い感じがした。


「なんか、長いな」


「そうじゃな、おそらく、5層にはボス部屋があると思うのじゃ」


 なるほどボス部屋。それってやばいんじゃね? こんなにSクラスが跋扈するダンジョンなわけだ。ボスも相当に頭おかしい強さしてると思う。


「5層の敵を確認して難易度を予測するのじゃ。そろそろ出るぞ」


 ウェスタのいう通り、ようやく5層の通路にでた。禍々しい空気だ。そして、ほかの階層よりもなんか冷えるというか涼しい気がする。


「なんか、冷えるな」


「そうじゃな……これでどうじゃ?」


 すると、急に先ほどまで感じていた冷気を感じなくなった。


「ウェスタ、なにしたんだ?」


「結界を調節しただけじゃよ」


 ウェスタが適温に調節してくれたらしい。


「ありがとな、ウェスタ」


「どういたしましてなのじゃ」


 ウェスタはそういうと、すぐに俺に背を向けた。そして臨戦態勢に入る。


「8%……」


 ウェスタの角に炎が灯った。熱くないのかな、あれ。そして、4層からさらに広くなった通路の先から現れたのは魔法使いのような恰好をし、杖を持ったスケルトンであった。


 ウェスタとそのスケルトンが対面した瞬間、ダンジョンの壁が凍り付き始めた。なるほど、冷え込むのはあいつのせいか。


 しかし、氷魔法か、それはウェスタ相手にはよくないんじゃないか?


 ウェスタはいくつかの炎を浮かべ、スケルトンのほうに飛ばす。氷ついたダンジョンの壁が一斉に溶け、それを見たスケルトンは氷壁で守りを展開するが、それも一瞬にして溶かしつくされた。


 ただ、威力はしっかりと殺し切ったのか、炎が直撃してもスケルトンはまだ立っていた。


 しかし、さすがはウェスタ、一瞬にしてそのスケルトンの懐にもぐりこんだ。すぐ接近戦に持ち込もうとするんだから……。


 接近してきたウェスタに気が付いたスケルトンだったが、防御をする前にウェスタに殴り飛ばされ、壁に激突する。


 そのスケルトンは今までのスケルトンとは違うらしく、壁にぶつかった後すぐにウェスタの追跡対策で巨大な氷壁を展開した。その氷壁は炎に溶かされるわけでもなく、ウェスタの拳一つで粉々に粉砕されるが。


 氷壁が粉々に粉砕されたその瞬間、スケルトンの足元に魔法陣が現れ、それが輝き始める。


「魂装を使えるとは、厄介になってきたものじゃ」


 先ほどまでスケルトンが持っていた杖。それが青白い光に飲まれ、大鎌へと変貌を遂げる。


 同時に、通路のいたるところに炎の球体が浮かび始める。これは、Cクラスダンジョンのボス部屋で見たあれか?


 スケルトンがウェスタのほうへ走りだすと同時に、俺の視界を炎が埋め尽くした。


 数十秒後、炎が晴れたとき、ところどころ焦げたスケルトンが膝をついていた。これでもまだ倒れないか。


 ゆっくりと立ち上がろうとしたスケルトンであったが、ウェスタに頭を殴られ、こちらに向かって吹き飛んできた。


 俺の目の前で転がるスケルトン。一応射程距離内だ。試してみるか。


「『契約』!」


 そのスケルトンの意識空間に俺の魔力を流し込んでいく。こいつ、多分ウェスタと同じようにかなりはっきりとした意識空間が存在しているな。引きずり込まれないのはそれを自覚し、ものにしていないからか。今後、これ以上の相手には契約を下手に使うべきではないかもしれないな。


 俺の魔力が9割がたなくなったところで、魔法陣がスケルトンを読み込んだ。どうやら成功してくれたらしい。


「随分と無茶するのう、主殿。魂装を使える相手との契約は危険じゃぞ?」


「魂装ってなんだ?」


 さっきこのスケルトンがやって見せた杖を大鎌に変えた魔法か?


「簡単に言えば魂に宿るそのものだけの武具じゃ。どんな武具になるかはそのものの魂の形次第。固有の能力もついておる。使いこなすのは簡単ではないがのう」


 どうやら俺の予測はあっていたらしい。


「で、それを使える相手との契約はなんで危ないんだ?」


「儂がやって見せた意識空間への引き込みができる上に意識空間の上で相手の魂に攻撃が可能じゃ。そうなってしまえば儂の保護も及ばんのじゃ。今回は奴の魂装が未完成だったから助かったのじゃ」


 魂と意識というのはどうやら互換性があるものらしい。今後の契約はしっかり考えてから行おう。


「わかった、注意することにするよ」


「そうじゃな。あ、今度主殿に魂装の使い方を教えるのじゃ。魂装があれば意識空間で戦うことができるからのう」


 どうやら今度魂装とやらの使い方を教えてくれるらしい。ありがたいことだ。

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