閑話 『コミュ障な氷の女王』
夜見がまだウェスタと契約したばかりの頃、Sクラスダンジョンの中で、1人の女性が多数の魔物に囲まれていた。どれもがAクラスにまで及ぶ、強力な魔物である。
しかし、彼女は臆することなく、能力を発動する。
「『凍土』」
その言葉と同時に彼女の周囲の魔物が一瞬にして凍てついていく。彼女は日本に3人しかいないソロで活動をしているSクラス探索者。名前は石沢 鈴音。美しい長く黒い髪、優れた容姿を持ち、さらに最強クラスの能力を持つ探索者ということで国内での人気は凄まじいものがある。
「ふぅ、今日の仕事も終わりかな」
散らばった魔石を回収し、彼女は一息つく。そのまま今日はダンジョンから撤退するつもりのようだ。
「まだ、なのかな」
帰路についた彼女は、昨年、ある約束を交わした男の顔を思い出す。さらにはもっと昔にした約束まで。
「そうちゃん、覚えてるかな。昔結婚の約束したこと」
もう10年以上も昔の話であった。
「私が大学の為に引っ越しちゃったから、今は会えてないしなぁ」
引っ越したばかりのうちは、スマホの連絡アプリで連絡を取ることができていたが、彼女はそのスマホを誤って自らの能力で破壊してしまったために、連絡が取れなくなっている。
「あー、早く有名になってほしいなぁ」
彼女は新しく買ったスマホでネットニュースをチェックする。
彼が有名になった時、いち早く気付きたい。そういった気持ちから確認は怠っていない。
今、彼女が見ている記事では最近注目を集めているダンジョン配信についてが一面を飾っていた。
特に最近最も勢いのあるダンジョン配信者、『ココン』についての説明がなされている。
「私もこういう配信とかしたらそうちゃんに気付いてもらえるかな?」
彼女は日本でも最も有名に近い探索者であるために、配信をしたら伸びることは確実である。
「でもなぁ……人と話すのは苦手だし……」
彼女は極度の人見知りであった。その能力、そして人と話すときの冷めきった表情から『氷の女王』と呼ばれることもしばしばだ。
「でもまぁ、それも個性だよね! ダンジョンから帰ったら挑戦してみよう!」
彼女は決意を固め、ダンジョンのセーフゾーンに向かう。このSクラスダンジョンの各層にはセーフゾーンがあり、いったことのある階層に移動できる仕組みになっている。現在彼女がいるのは28層になる。
「転移 第一層」
彼女は転移によって入り口の近くまでもどる。そして、入り口に向かうまでにたまたま出会ったCクラスの魔物を氷の剣によって細切れにし、脱出した。
「外の空気はやっぱりいいね」
彼女は一度伸びをして帰路についた。
「あ、配信するにはカメラとか自立型ドローンとかが必要なんだっけ? 家電屋で売ってるかな?」
配信をすると決めたことを思い出し、家電屋に向かうことにしたらしい。
しばらく歩いて、家電屋に入った彼女はすぐにカメラ等が売られているコーナーに向かった。
そして、最新型の自立型ドローンカメラの説明をじっくりと読み始めた。
「お金ならあるし、最新型の初心者にも扱いやすそうなやつにしておこうかな」
そして彼女は最新型のドローンをレジに持ち込み、一括カード払いで購入した。見るからに女子大生辺りの人が、50万の商品を一括払いしたのだから、店員は驚いた顔をしていた。
「よし、家に帰ったらアカウントとかを作って早速始めてみよう」
彼女はウキウキで家に帰り、アカウントを作成するが、ストリームキーの取得に24時間かかることをしって少しがっかりして就寝するのであった。
◆◆◆
翌日、一日ゲームをして遊んだ後、彼女はついに配信を始めることにした。自身のSNS等でも告知を行い、チャンネルの登録者数は一日にして80万にも及んだ。
配信の待機所を見ると、すでに9万人近くの人が待機していた。
「9万人が見てるのかぁ、少し緊張するなぁ」
彼女は息を整え、配信開始のボタンを押した。
「どうもみなさん、こんばんは! Sクラス探索者の石沢 鈴音と申します。突然ではありますが、今日から週に3日ほどのペースで、ダンジョン、日常生活、ゲームの配信をさせていただきます! 以後、お見知りおきを!」
事前に考えていた挨拶を少し早口でしゃべる彼女の姿にコメント欄が沸き上がった。
コメント
『やばい、かわいすぎる』
『氷の女王のイメージじゃないけど最高だな。推します』
『鈴音様から鈴音ちゃんになったけど最高』
イメージとの相違を上げる声も多いがそれもよいという者が多かったために配信は多いに盛り上がった。
コメント
『鈴音ちゃんは何歳なんですか!? まだ公開されてませんよね!』
「私は19歳ですね。だからまだお酒を飲んで配信とかはないです。そこはその……ごめんなさい?」
初配信の質問回で今まで明かされていなかったことに関して答えるので、この配信はさらに盛り上がりを見せ、ついには同時接続15万人を達成した。
「こんなにたくさん見てくれてありがとうございます! 今度はダンジョンにいって配信するので、その時も是非見に来てくださいね! では1時間ほどでしたが、今日はありがとうございました!」
配信が終了した時、チャンネルの登録者数は107万、最大同時接続は19万まで伸びていた。
翌日はネットニュースの一面を飾ること間違いなしである。
そして……。
「楽しかったな……」
彼女は配信を楽しいと思っていた。
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