第6話 脅迫
その話に興味を持ったのが、
「老中」
こと、白河であった。
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そこで、老中は、長政に、作品の感想として、なかなか面白かったと書いたうえで、
「このお話は、事実を元に書かれたんですか?」
といって、メッセージを出した。
するとそれを読んだ長政から老中に対して、
「ええ、私が知っている話を元に書きました」
という返事を見た、老中から長政に対して、それからの返事はなかったのだ。
姉川の方も、少し気になっていた。
というのも、この話は、警察関係者である知り合いから聞いた話だった。
別に極秘ということでもないし、捜査も打ち切られた内容だということだったので、小説のネタにしてもいいかと聞くと、
「プライバシーが守られるならな」
ということであったが、そもそも、姉川も、犯人や被害者の名前も知らない。
しかも、話としてはよくある話であった。犯人グループの一人が暴走したということで興味深い話ではあったが、警察としては、そこまで稀な話というわけでもなかったのだ。
そんな状態において、本当に偶然見つけたこの話に興味を持った白河は、長政という人物の小説を意識するようになったのだ。
そんな長政こと、姉川が、偶然にも、人が殺されそうになるのを目撃した。
すぐにパトカーと救急車を呼び、被害者は、事なきを得たということだったのだ。
第一発見者となった姉川は、警察から事情聴取を受けた。
「大きな物音がしたので、ビックリして表に出ると、ちょうど向かい側のマンションの入り口付近で争っている様子が見え、一人が倒れたかと思うと、争っていたもう一人が、慌ただしく逃げるのが見えたんです。マスクをして、いかにも怪しそうな男でした」
と答えた。
「その時、他の住民は誰も表に出てこなかったんですか?」
と聞かれて、
「ええ、誰も出てきませんでした。こういうマンションで、家族で暮らしている人は、普通に騒音を出すので、あまり気にならないのかも知れませんね。僕はこのマンションの一人暮らしなので、基本的に静かな部屋で、なるべく静かにしようと考えるので、物音が少しでもすれば、反射的に表に飛び出してきますね」
と、姉川は答えた。
「姉川さんは、あの向かいに住んでいる人と馴染みがあるんですか?」
と聞かれた時、ほんの一瞬、ビクッとなった姉川だったが、あまりにも一瞬だったということで、刑事であっても、それくらいの異変には、まったく気づいていなかったのだった。
「いいえ、ありません」
というと、刑事も別に怪しむこともなく、やり過ごしていたのだった。
「走り去った男に見覚えはありましたか?」
という質問に、
「マスクをして、帽子をかぶっていましたからね。よく分かりませんでした」
と答えた。
これは事実であり、しかも、少し遠かったので、よく分からなかったというのが、本当のところであろう。
その事件を捜査していた警察が、一つ姉川以外の証言を見つけることができた。
その証言というのは、だいぶ下の階に住んでいる人の証言で、事件は、5階のフロアで起こったのだが、ちょうど2階に住んでいる住人が、ちょうど表から帰ってきて、部屋に鍵を開けて入ろうとした時、非常階段になっている螺旋階段を、一人の男が、急いで駆け下りてくるのが見えたというのだ。
彼は、まさか上の階で、殺人未遂事件が起こっているなどということを知る由もなかったので、
「5階から、誰か急いで駆け下りているな」
という様子と、マスクをして帽子をかぶっている怪しげな服装だったので、
「覗きでもやって、それを咎められたことで、逃げ出したか何かしたのかな?」
という程度で思っていたということであった。
ちょうど、夕方くらいの時間で、西日が差していたことで、ちょうど、目くらましのような形になった。もろに太陽の眩しさを感じたことで、
「幻でも見たのかな?」
とも感じられたほどなので、実際にそれ以上きにすることではかったのだ。
それを警察に話すと、
「なるほど、マスクをかけていたというのは分かったんだけど、逆光だったのと、上から降りてくるということで、次第に目がくらむ感じになったことで、よく分からなかったということですね?」
と刑事は、納得したように言った。
刑事も納得して、
「ありがとうございます。時間的には合うので、その男が犯人かも知れませんね」
と刑事は言った。
刑事も、証言通りだと感じたのだろう。
この証言をした人は、年齢的には、姉川よりも、少し年齢の高い人だったようだ。姉川とは年齢が近いことから、面識があった。よく将棋をうつ仲間として、公民館で、二人で将棋を楽しんでいる姿を見かけることがあったという。
そのおかげで、そのあと公民館で将棋を打ちながら、
「ああ、あの事件では、定岡さんも犯人を見られたんですか?」
と、姉川が、定岡と呼ばれた男に話していた。
「ええ、顔は確認できなかったんですけども、マスクをして帽子をかぶった、いかにも怪しげな男を見かけたんですよ」
と定岡と呼ばれた男が言った。
「帽子はどんな色でした?」
と姉川が聞くと、
「確か、緑だったような気がしますね」
「それを警察には?」
と聞かれた定岡は、
「もちろん、言いましたよ」
というと、姉川はそれを聞いて、ニッコリと微笑んだ。この二人の会話を聞いている人は誰もいなかったが、もし誰かがいれば、こんな話をしなかったかも知れないと、二人ともに思った。
ただ、どちらの方が意識が強かったのかというと、姉川の方だったような気がする。
まるで聞き方が、何かを確認しているようだったというのが、まわりに誰もいなくてよかったと考える姉川の気持ちだったのだろう。
二人がこんな話をしているなどと知らない警察の方でも、逃げた犯人のことを、話していたのだった。
「黒いマスクをして、青い帽子をかぶった男というのが、目撃者の話だったんだけど」
と、一人の刑事がいうと、
「ん? 私は緑だったと聞くけど?」
ともう一人の刑事がいうと、
「そりゃあ、場所や角度が違えば、同じ色でも違う色に解釈する人だって出てくるだろうよ」
と、言われ、
「そうかも知れませんね。逆光で眩しかったという話だし、彼は2階から、降りてくる人を見たということだから、光の反射や屈折は著しいのではないだろうかね」
と今度は別の刑事が言った。
「なかなか証言を一つにまとめるのは難しいが、目の錯覚だってあるということを認識しておいた方がいいですね」
と、二人の上司がそう言った。
被害者は、名前を、藤原という男であった。ナイフで刺され、救急車で運ばれたが、命に別状もなく、2日後には、警察と話ができるほどになっていた。彼がそれほどひどいケガではなかったのは、完全に急所を外れていたからだったが、そのあたりのことも含めて、警察の事情聴取が行われた。
病室は手術の次の日には、集中治療室から、一般病棟の個室に移された。医者からは、
「事情聴取はしてもかまいませんが、何しろ術後なので、長くても30分くらいにしてください」
ということで、許可を得ることができた。
「分かりました」
ということ、二人の刑事が、事情を聴くことにした。
「すみません。藤原さんですよね? 少しお話が伺えますでしょうか?」
ということで、警察手帳を提示した二人に対して、
「ええ、かまいませんよ」
と、藤原は、軽く答えたが、そこには感情が入っていないように思えた。
「藤原さんは、刺された時のことを覚えていらっしゃいますか?」
と聞かれて、
「それが、どうもおぼろげなんです。家に帰ってきて、カギを開けて中に入ったのは憶えているんですが、そこから先のことが分からないんです」
というではないか。
「じゃあ、藤原さんは、部屋に入った時、いきなり誰かに襲われたということですか?」
「ええ、そうだと思います。背中に痛みを感じたのを覚えていますから」
それを聞いて、刑事は、
「なるほど」
と感じた。
確かに、藤原の背中にはナイフを突き刺した跡があった。鑑識の話では、血もそんなに落ちていないし、発見が早かったので、致命傷には至らなかったのだろうということだった。だが、実際に彼が倒れていたのは、玄関から、リビングに向かう廊下の途中だった。犯人がとどめを刺さずに逃げたのは、なぜなのか分からなかったが、後で通報者の話を聞いた時、話がつながったような気がした。
ただ、被害者は、少し這っていき、逃げようという気持ちがあったのかも知れない。
犯人はその場から立ち去り、目撃者によって、急いで警察と救急に連絡が入ったので、犯人はとどめを刺さずに逃げたのだろう。
「何か、他に覚えているようなことはありませんか?」
と言われて、
「そういえば、意識が薄れていく中で、何かが割れるような音がしたのを感じました」
というではないか。
確かに、玄関先にあった花瓶が割れているのが分かった。被害者が倒れていたのは、その花瓶が割れている場所から少し入ったところだったので、花瓶が被害者まで飛び散ったということはない。
「現場を見た鑑識が、まるで、被害者を避けるようにして花瓶が割れたのか、花瓶が割れるのを知っていて、そこまで這って行ったのか、少なくとも、花瓶が割れたことに、誰かの作為めいたものを感じますね」
といっていた。
「花瓶が割れたことで、気が付いた人が通報してくれたとすれば、花瓶が割れたことはある意味よかったのかも知れませんね」
と刑事がいうと、
「そうですか、あの花瓶をあそこに置いたのは、先週からだったんですよ」
と藤原は言った。
「ほう、それは興味深いですね」
「以前、スナックで飲んだ時、そこのママさんが、玄関先に花瓶を置くと、幸運が舞い込むというような話をしていたんです。半信半疑でしたが、私は意外とそういうことを信じる方なので。花瓶を置くようにしたんです」
「そのスナックを後で教えてください。そこは常連なんですか?」
「いいですよ。常連といえば常連かな? 1か月に一度くらいは立ち寄っているって感じですね。元々酒が強い方ではないんですが、お気に入りの女の子がいるので、1か月に一度くらいはくるようにするねって話をしていたんです」
というと、刑事はそのあと少し質問をしてみたが、何しろ、記憶があいまいなようなので、真新しい情報を得ることはできなかった。
正直。この情報では、真相に近づくのは難しいようだった。
二人の刑事は、医者から、
「1時間まで」
と言われていたので、記憶が曖昧な相手にこれ以上聞いてもしょうがないと思い、早々に切り上げた。
その足で、第一発見者のところに事情を聞きに行こうかと思ったが、たぶん、まだ会社だろうということで、署に戻ることにした。
二人が署に戻ると、そこで、刑事部長が待っていて、
「昨日の事件のことで、話をしたいという人が来ているので、早速だが、君たち聞いてみてくれるかな?」
「分かりました」
ということで、応接室に通して、話を聞くことにした。
「お話をお伺いしたいと思いますが、まずはお名前からいいですか?」
と言われた相手は。
「私は定岡というものです」
と、底には例のマンションに住んでいる、初老の定岡氏がいたのだ。
髪の毛は半分白くなっていて、今では死後なのだろうが、キレイなロマンスグレーであった。
定岡は、先日見た話を警察にしたのだが、警察の方としては、犯人らしい人物が、非常階段を駆け下りているというのを聞いたことで、犯人の逃走ルートが分かったことになった。時間的にも、犯人であるのは明白だ。定岡氏も、大きな物音を聞いたということであり、定岡氏に、
「その物音というのは、どんな音だったのか、覚えていますか?」
と聞くと、
「確か、何かが割れる音でした。結構大きな音だったと思うので、重くて大きなものだったのではないかと思うんです」
と定岡氏は答えた。
ここまでも、話の辻褄は合っている。それにしても、5階の音が2階の定岡氏のところに響いたのに、他の住人、特に被害者の部屋の近くの住人が聞こえていなかったというのは、実に変なことに思えた。
「聞こえていたくせに、面倒くさいと思って出てこなかったのか。それとも、日ごろから騒音が結構あって、もういちいち誰も気にしなくなったのか?」
と刑事は考えたので、
「ところで、お住まいのマンションですが、騒音は結構ありますか?」
と聞かれた定岡は、
「そうですね。結構騒音はあると思いますよ」
と答えた。
「じゃあ、あなたが聞いた花瓶が割れる音を、近隣の部屋の人が、部屋を閉め切った状態で聞いたとすれば、ビックリするような音だったんでしょうかね?」
と聞かれて、
「そうでもないと思います。音が響いたのは感じるでしょうが、いつものことだという感覚の人が多いんだと思います。あの程度の音をいちいち気にしていたら、神経が休まる時はありませんからね」
と、定岡は答えた。
「定岡さんはどうして、その音に気づいたんですか?」
と聞かれて、
「はい、あの時は、実は私。ベランダでタバコを吸っていたんですが、結構部屋に入った時にタバコの臭いが籠るのを、家族に咎められたので、不本意でしたが、玄関の扉も少し開けようと思って。開けに行ったんですが、その時、ちょうど、その音が聞こえてきたんです。家族もびっくりして、ベランダの方に出てみたようなんです。もちろん、音はベランダ側ではなかったので、家族は何も発見できなかったんですが、私はその時、玄関の外で、先ほど説明しました怪しげな男が、非常階段から降りてくるのを見かけたんですよ」
と定岡氏は言った。
「顔は見ましたか?
と聞かれて、
「帽子とマスクをしていましたからね。緑の帽子に、黒いマスクだったと思います。ただ、夕日が逆光になって、顔など分かりもしないですね。服の色も、暗い色という程度で、どんな服なのかということもハッキリとはしません」
と、答えたのだ。
「そうですか。ところで、今日はわざわざ警察まで来ていただいてありがとうございます。わざわざ証言をするのに、警察まで来ていただける人というのは珍しいからですね」
と本当のことであるが、少し含みを持たせる雰囲気で、刑事はそういったのだ。
「はぁ、それがですね」
と、言いにくそうな言い方で、戸惑っているようだった。
「これは、私が言ったなんて言わないでくださいね」
と、定岡氏は念を押しておいて、いかにも、恐縮そうに腰を曲げて、まわりに誰もいないのに、まわりを気にする素振りをした。
なんと言っても、ここは警察なのだ。憚る必要もないだろう。まるで、
「壁に耳あり、障子に目あり」
とでも言いたげであった。
実は、私が目撃したその日から、出かけてから帰ってみると、こんなものがポストに投函されていたんです」
といって、定岡氏は、何通かの手紙を出した。1通目を取り出して、机の上において、中を開いて中のものを取り出した。
そこには、便せんと、写真のようなものがあり、その写真を見ると、まさしく、定岡氏が、ちょうど非常階段である螺旋階段を下りてくる犯人と思しき人間を見つめている写真を、下の方から撮影していたのだ。
「便せんの方を失礼」
といって取り出した便せんを開いてみると、
「定岡君、君が見たのは、この光景だよね? くれぐれも余計なことを言わない方が身のためだよ」
と書かれていた。
それを見た刑事が、
「余計なこととは何なのでしょうね?」
と、聞いたが、
「心当たりはありません。実際に逆光で見え仲たんですからね」
というと、
「うん、そうだね」
と刑事がいうと、
「それから、定期的に脅迫文が来るようになったんですが、その内容は、余計なことは言わないようにというここにある内容の同じものが来ているだけなんです」
というのだった。
「それだけのことをわざわざ念を押すというのも、変だよね。しかも、このことを警察に喋るなとは、一言も書いていないしね。脅迫には違いないんだろうけど、それにしては、言葉が中途半端だね」
というと、もう一人の刑事が、
「言葉が中途半端なだけに、忘れないようにするためということで、定期的に書いてきてるとも思えるね。でも。それこそ、中途半端の上塗りをしているようにも見える。どう解釈したらいいんだろうな」
「警察に知らせてくれというメッセージかも?」
「そうかも知れないけど、それよりも、余計なことって何なのだろうね? 定岡さんにも分からない何かを見られたと思っているのか。それとも、見てもいないことを、あたかも見たかのような暗示なのかも知れないし、とにかく、脅迫だとすると、ちょっとおかしい気がするよね」
というのだった。
「まあ、とりあえず、この写真を少し預からせてもらっていいかな? 少し分析もしてみる必要があるだろうからね」
ということで、鑑識に回すことにした。
ただ、気になるのは、あの写真を撮ったということは、最初から発見者が定岡氏であるということを分かってのことだろうか。
通報者の姉川氏のことも気になるし、ここに2人の目撃者がいるわけで、その二人の証言は、とりあえず辻褄が合っている。
刑事は、定岡氏の話を聞きながら、昨日、第一発見者の姉川氏と話をした内容を思い出していた。
姉川氏も別に大したものを見たわけではないと言っている。
ただ、
「姉川氏が最初の目撃者になったのも、何か犯人側の作為があるのではないか?」
と、刑事は思っていたが、ここにもう一人定岡氏という目撃者も出てきた。
しかも、脅迫めいたものを受けているのである。その脅迫では、普通ならあるべき、
「警察に話すとただではすまない」
などということもないのだった。
そういう意味では、脅迫としては弱い。
ということになると、この事件において、犯人が何を考えているのかが分からない。
果たして、定岡氏が今回の事件を目撃したのは、ただの偶然だったのか?
偶然だったとすれば、あの写真は何を意味するものなのか?
ひょっとすると、脅迫をした犯人が、何かを確認したいということで、あの場所から、スクショを狙っていたとして、偶然取れてしまったことなのか。それが、脅迫してきた人にとって、都合の悪いことだったことで、何かを口止めしようとしたのかであろうが、その口止めのための理由を、どうも定岡氏が分かっていないということになるのだろうか?
刑事たちは、この脅迫している人が、この事件の犯人とは関係のない。いや、
「暴行未遂事件への関与はしていないのではないか?」
と考えているのだった。
定岡氏の話は、あまりにも曖昧な話であり、実際に事件の話としての内容は、逆に脅迫者による、
「送り付けてきた写真」
が、そのすべてを物語っているのだった。
実際に、写真があることで、
「論より証拠」
とはまさにこのことで、送り付けてきた連中としては、脅迫めいたことをしておきながら、殺人未遂事件の目撃者としての定岡氏を、
「フォローしている」
といってもいいのではないだろうか。
それを考えると、よく分からない部分が膨れ上がるような気がした。
今回の事件は、他の事件とは、結構変わっていた。
計画がずさんというのか、見えている部分が結構あるわりには、どうしても、超えることができない結界のようなものがある。
これは、どんな事件にだって存在するのだが、それは、犯人が必死に考えた計画を、警察が捜査や鑑識による科学的解明によって、犯人に徐々に近づいていく中で、何段階かによって、結界のようなものを感じる。
一種の、
「壁にぶつかった」
というところであろうか。
そんな時、それまで地道に捜査してきた内容が、頭の中でフィードバックされ、どこが問題だったのか、それが分かれば、今度はどこを注視していけばいいのかということが分かってくる。
それが、過去の経験であり、警察官としての感覚であった。
だが、今回の事件においては、分かっていることが、最初から結構ある。
それだけに、最初から捜査しないで言い分、捜査についてあまりよく分かっていない人たちは、
「簡単にかたが付くことだろう」
と思っているに違いない。
それが警察部外者だけなら、まだいいが、警察幹部のような、あまり現場の捜査を自分の足で捜査をしたことがないキャリア組には分からないことであろう。
それだけに、
「すぐに解決することだ」
ということで、思っていると、捜査があまり進展していないことに、
「お前たちは何をやっているんだ。これだけ分かっていることが多いのに、まだ犯人を特定できないのか?」
ということになる。
警察が恐れているのは、冤罪事件でもあった。そういう意味でも、揃いすぎている証拠であったり、犯人を特定して、頑なに犯行を認めない容疑者に対しては、捜査員であれば、たいていの場合、頭の中に冤罪というものがちらつかないとは言えないだろう。
したがって、捜査が煮詰まってくるにしたがって、余計慎重にならなければいけないということでもあるのだ。
特に、今回のような、殺人未遂事件であると、被害者は死んだわけではない。
犯人が、本当に殺害目的があって、最初の事件が、
「失敗だった」
とするならば、次に本当の殺人が起こらないとも限らない。
そのことも考えなければならず、捜査も、被害者のことを考えながらということになるだろう。
当然、被害者には、プライバシーというものが存在し、プライバシーというものを守らなければいけない。
もちろん、殺人事件であり、被害者が死んでいても、死んだ人間のプライバシーがないというわけではないが、生きている人間の場合は、これからも生きていかなければならないわけなので、被害者を追い詰めるようなことは絶対にできないのだ。
下手をすれば、
「殺人未遂被害者が、警察の捜査によって、プライバシーを侵害された」
と報道されかねない。
そうなると警察の立場はないというものだ。自殺でもされると、それこそ、今度は警察による犯罪ということになってしまい、負の連鎖はどこまでも続くことにならないとも限らないのだ。
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