第5話 小説の内容
そして、あっという間に過ぎてしまった10年だったが、その頃には、
「もう彼女なんかできなくてもいい」
と思った時、思わぬ出会いから、付き合える女性が現れたのだ。
彼女もバツイチだった。娘がいるのだが、娘はすでに独立していた。本人曰く、
「娘は、21歳の時の子供だ」
という、姉川がその時、44歳、彼女も44歳、ちょうど年齢も同じだということで意気投合したことから、付き合うようになったのだ。
最初は、彼女が、
「付き合っていく自信がない」
と言い出した。
しかし、姉川は、そんな彼女に対して、
「大丈夫だ。俺に任せろ」
というセリフを吐いた。
少し前まで、彼女などいらないとうそぶいたのは誰だったのか?
そんなことを思わせるのだったが、人間、変われば変わるものだ。
と言っても、性格が変わったわけでもなんでもない。ちょっとスイッチが入っただけなのだ。そのスイッチも誰がいつ押したものなのか分からない。自分が何かに触れた時に、偶然入ってしまったのだろうか?
そんなことを考えていると、自分がもう44歳になったということが信じられないくらいだ。
「1日が、なかなか過ぎてくれないというような時期が訪れてくれるのだろうか?」
と、そんなことを考えながら、二人で過ごす時間は、明らかに充実していた。
完全に若い頃の自分に戻ったかのような感覚だった。自分が年を取ったなどと考えたことがあったなど、信じられないくらいだった。
「今年は、クリスマスもバレンタインも楽しみだ」
と、その間に誕生日があるのに、それも楽しみなくらいだった。
そんな彼女が、まさか、40代になってできるなど思ってもみなかった。
自分がまだ20代の頃、会社の課長で、離婚歴があり、40代で再婚した人がいたが、まるで他人事のように思っていた。
実際には2年も経たないうちに離婚することになったようだが、その時に、
「離婚するなら、結婚なんかしなきゃよかったのに」
と、40過ぎてからの結婚に、どんな意味があるのかと思っていたはずなのに、自分が実際に彼女ができると、その時のことが頭をよぎりはするが、それ以上でもそれ以下でもない。
なぜなら、その時の自分が、
「俺はまだ、20代なんだ」
という意識があったからだ。
20代の自分が、40代の人を見た時とは、見ている目線が違っているということであった。
20代であれば、40代の女は、おばさんに見えるはずのだろうが、同い年という感覚からか、年を取っているという感じがしない。
「あの時の課長も、今の俺と同じ感覚だったのではないか?」
と思ったのだ。
だから、抱くことも若い時のような感覚で、普通にできた。ただ、さすがに40代ともなると、精力が衰えているのは仕方のないことだが、女もそれで文句をいうようなことはなかった。
もちろん、その時、何らかの文句が出ていれば、一瞬にして、冷めてしまい、次、会うことはなかったかも知れない。それだけ40代というのは、肉体的にも精神的にもデリケートであり、人生経験が豊富なだけに、相手に妥協を許さない部分もあるに違いない。
実際に付き合っていると、お互いに妥協しあわないと、若いカップルほどうまくはいかないだろう。
肉体の衰えもあれば、精神的な充実もある。自分に自信を持っている人であれば、特にそうで、ある意味、マウントを取りたがるかも知れない。
そうなると、すでにぎこちなくなっていて、
「そんな精神状態でも付き合う必要があるのか?」
という思いは、若い連中に比べれば、大きいに違いない。
そんな若さゆえに、未熟な点が若い時にはあるが、それでも、その年齢が適齢期であり、適齢期に結婚した人の離婚率も高いが、さらに高齢での結婚の方が、圧倒的に離婚する率が高いのではないだろうか。
年齢を重ねれば、重ねただけの人を見る目が備わっている。さらには、自分の年齢を考えて、妥協もできない。さらに、別れたとして、孤立したとしても、今までだって、そうだったではないか?
そう感じると、いまさら、また別れを経験したとしても、別に痛くもないと思っている人が多いだろう。
孤立を痛いとは思わない。戸籍に傷がついたとしても、最初から一つはついているのだ。
「1が2になるだけだ」
というだけのことである。
だから、離婚の1つや2つと思うのだ。
まわりがどう見ているかなどということも、もう関係ない。
「どうせ、あの人、すぐに離婚すると思ったら。やっぱりね」
と言われたとしても、それも最初から覚悟の上である。
「別にあんたに迷惑をかけているわけではない。逆に話題を作ってやったんだから、感謝してもらいたいくらいだよ」
というくらいに大きな気持ちでいれば、そんな陰口を叩くやつに対しては、こっちは気にしていないと示すことで、苛立つことも何もない。
孤立を怖がっていては、高齢になって何もできない。そもそも、孤立だったわけで、元に戻るだけではないか。
「どうせ、俺は、このままずっと孤独なんだ」
と分かっただけでもよかったと思う。
そうすれば、孤独なりにどのような人生を過ごせばいいかということを考えればいいのだ。
「孤立だから、パートナーがほしい」
と考えたのだから、今度は、
「孤立したから、何か趣味をすればいい」
と思えばいいのだ。
孤独だと思うから寂しいわけで、孤立したのだと思い、孤立したことで、自由になんでもできると考えれば、別にマイナスでもない。人生というのは、そういうものではないだろうか?
そんな姉川にも、自分なりの春がやってきた気がした。正直、彼女と一緒にいて実に楽しい。しかも、彼女の雰囲気、態度が、結婚前に付き合っていた、
「今までの人生で、一番好きな女性」
であり、そして、
「決して忘れることのできない女」
に似ているのだ。
「私、あなたと付き合っていく自信がない」
と言って、何度も、ごねられたものだったが、それは、姉川のことを考えてのことだったと思っているので、本当に、同じような思いを感じさせる彼女の雰囲気は、自分の精神年齢を20代に引き戻すだけの力があったのだ。
そもそも、自分の精神年齢が20代に近づいたことで、彼女と出会えたのではないかとも思っていたのだ。どちらが本当なのか分からないが、自分の中の血が滾ってくるのを感じたのは、それだけ、
「愛に飢えていたのではないか?」
そして、その思いが、大願成就したのではないかと思うのだった。
結婚前に付き合っていた女性には、元々、結婚を約束までしていた男性がいたという。その人と、何があったのか分からないが、どうも彼女が男から裏切られたのではないかというのが、まわりの雰囲気だった。
知り合って間もない頃だったので、そんな過去のことを知らずに、姉川は彼女のことを好きになっていた。若い頃の姉川は自分の気持ちを抑えることができないからか、まわりに感情がバレバレだった。それを見た、おせっかいなおばさんたちが、姉川をけしかける。
「好きなら、告白しちゃえば?」
と言って、映画の招待券をくれた・
「これで、デートに行っておいで」
と、背中を押してくれた。
元々、告白しようか、どうしようかを迷っていたので、背中を押された勢いで、デートに誘うと、OKしてくれた。それが最初のデートだったわけだが、せっかくのデートは楽しかったのだが、彼女が数日後、
「やはりあなたと付き合っていく自信はない」
という。
姉川としては、訳が分からない。その理由を、おばさんたちが教えてくれた。そういう過去があるのであれば、仕方がないと思ったが、諦めるわけにもいかなかった。
「泥臭くてもいいから、必死にしがみつく」
という思いが姉川にあって、
「彼女の中で、少しずつ自分の存在を大きくしていけば、きっとうまくいく」
と思って、必死で繋ぎとめた。
それが誠意だと思ってくれたのか、彼女は次第に姉川の方を向いてくれるようになり、付き合い始めた。
だが、それも長くは続かなかった。
ゆっくりと愛を育んでいきたいと思っている姉川と、早く結婚したいという意識を持っていた彼女との間で、二人の思いは交錯するのだった。
そのうちにどちらからともなく冷めた感じになり、結局は自然消滅してしまったのだ。
最初はそれでもよかったのだが、しばらくすると、激しい後悔に襲われたのは、姉川の方だった。
「あわやくば、もう一度」
と考えたりもしたが、結局、姉川は転勤することになり、彼女と疎遠になってしまった
連絡を取ることもかなわず、結果、その転勤がとどめになってしまったのだが、それがよかったのか悪かったのか、転勤した先で出会ったのが、元嫁だったというわけだ。
元嫁には、過去のことを話しをしていた。それでも、彼女は、
「前のことなんでしょう?」
といって、気に留めないでくれた。
それを姉川は、
「大人の対応だ」
と感じ、好きだった彼女とは違った、
「大人の女」
を感じさせられたのだ。
だが、その奥さんと離婚したことで、またも、後悔したことを思い出した。あの時の彼女のことは記憶の中で、おぼろげに残っているだけだったが、後悔だけは、あの時の感覚そのまま、残っていたのだった。
あれから20年、出会った女がその時の彼女を思い出させる。ただ、出会った女には、大人の女を感じさせるというよりも、
「40代の男から見た、20代の女」
という目だったのだ。
だが、付き合っている時は、自分も20代になっていて、
「失った青春を取り戻す」
などという格好のいいセリフが似合う感覚だったが、これも、幻だったのだ。
そもそも、姉川というのは、どちらかというと、女性から気を遣ってもらって、それを癒しと感じる方だった。
自分から女性を従わせるなどという感覚はなく、自分を慕ってくれる女性を好んでいたのだ。
だから、今までの別れは、きっとそんな姉川に対して、尽くすことが、自分の本望ではないと思った、あるいは、気づいたことで、お互いの関係がぎこちなくなったのだろう。
姉川は決して相手を拘束しているつもりはない。相手が自分を慕ってくれて、それが癒しになっていると思っているからだが、相手の女は、姉川のそんな中途半端な感情を、束縛だと感じたのではないだろうか。
だから、途中からぎこちなくなり。姉川を遠ざけようとする。それで、自分を再度見つめなおそうとするのだが、姉川には、わけもなく、自分から遠ざかっているようにしか見えないのだ。
そう思うと、姉川には、
「裏切られた」
という、トンチンカンな発想が生まれてくる。
かたや、拘束されているという思いと、かたや、裏切られたという思いとが交錯してしまうと、その修復は不可能に近いといってもいいだろう。
あとは、後腐れなく別れることができるかということだが、そこも、時間が微妙な影響を与えるだろう。
ぎこちない期間が長すぎても短すぎてもダメだ。タイミング的に絶妙な時でなければ、破局は悲惨なものになる。
それは、またしても、後悔が残るということだ。
残ってしまった後悔は、若い時よりも、短かったのだが、それは感覚的なものであり。
「30代を過ぎると、時間というのもは、年とともに、坂道を転がり落ちるかのように、あっという間に過ぎ去っていく」
と言われるが、その感覚に比例しているわけで、実際の期間というのは、そんなに変わらない。
要するに、
「無為な時間を無駄に過ごしてしまった」
ということを、繰り返しているだけだ。
20代の時の感覚とは違って、無為を無駄に過ごす後悔がどんなものなのか、分かってくる気がした。
「人生、まだまだ先が長い」
といって、余裕を感じていた時期が懐かしい。
まるで昨日のことのように感じるが、気づいてみると、20年が経っていて、ハッと思わせることになってしまうのだった。
その女と一緒にいた1年は、楽しかったと思っている。それを思い出にできているだけいいのかも知れないが、それを思い出にできるようになるまでに費やした期間というのは、付き合っていた期間よりも、さらに長いものだった。
「何をやっても、うまくいかない。しかも、恋愛は、人生でこれが最後だったんだ」
と思うと、これからの自分が何を求めていいのか分からなくなってくる。
彼女と付き合うまでは、
「もう、恋愛なんかせずに、孤独な人生を、いかに楽しく過ごしていけるか?」
ということを考えながら、その答えが見つかっていたような気がした。
彼女と出会えたのも、その答えを見つけたことで、気持ちに余裕ができたからだと思っていたが。結局、また破局を迎えると、せっかく見つけた答えを、忘れてしまっていたのだ。
それを思い出すのに、付き合っていた期間を含めると、一体何年、遠回りして戻ってきたというのか、無駄だったといっていいのだろうか?
その後は、本当に女性と付き合うということに対して、一切の興味を示さなくなってしまった。
「年齢的なものなのか、それとも肉体的なことなのか?」
と考えたが、肉体的なものではなさそうだ。
まだまだ性欲もあるようで、ただ、女性と付き合うということが億劫で、面倒くさいということを、やっとこの年になって悟ったというわけだ。
「どうして結婚なんかしないといけないんだ?」
という思い、形式的に考えれば、昭和の考え方として、
「家系を守っていく」
という、古めかしいものから、
「少子高齢化に歯止めをかける」
という、日本人としてのリアルな問題に、
「個人である自分が関わることで、どうして、こんな嫌な思いをしなければいけないんだ?」
と考えると、
「結婚というものは、本当にしたいと思う人がすればいいわけで、そもそも、結婚しなければいけないというような風潮が、今の時代にはあっていないのではないか?」
と思うのだった。
結婚する人よりも離婚する人の方が圧倒的に多いという。理屈的におかしいが、そういわれてみると、疑問には感じるが違和感は感じない。実に理屈に合わない感覚だといえるのではないだろうか。
そんな姉川は、性欲が出た時は、風俗に通うようにしていた。
「ここでだったら、変に好きになることもないし、お互いに、お金での契約なので、彼女にも求められないようなことをしてくれる」
という意味で、50代になってからも、風俗通いを続けている。
最初の頃は、お気に入りの女の子にずっと入っていたが、そのうちに、飽きが来るようになったのだ。
いろいろな女の子に入ってみて、気に入った女の子には、もう一度入ることはあったが、3度目はなかった。
飽きがくるのが怖いと思ったのと、変に感情移入してしまって、恋愛感情を持つというようなことがないようにと思うようになった。
「この年でまさかね」
とは思うのだが、万が一ということもある。
そうなってしまうと、もう、どうしようもなく、
「何度同じ過ちを繰り返すんだ」
と、自己嫌悪の塊となって、それまで以上の後悔が襲ってくるに違いない。
今のところ、そういう感覚はないが、もしあったとすると、そこから立ち直るのに、どれだけの時間が掛かるというのか。
そもそも、立ち直ることができるのかという思いすらあって、さすがにこの年での、色ごとでの後悔は、致命的ではないかと、思うのだった。
自分が孤立していて、孤独感を味わっているのは、分かっているが、その感覚は半分マヒしていた。
孤独であっても、寂しささえ感じなければ、別にかまわないと思っている。寂しさを感じないようにするには、感覚をマヒさせることが一番で、感覚をマヒさせるということが、
「後悔を伴わない」
ということに繋がると思うと、頭の中も繋がったような気がするのだった。
風俗では、
「癒し」
を感じることができる。
お金を払って癒してもらうという感覚に、若い頃だと自己嫌悪を感じていたが、今ではそんなこともない。生きる上での活性化と、精神的に落ち込まず、後悔をしないようにするために貰う癒しなのだから、自分で稼いだお金で得るものなのであって、何が悪いというのかである。
ある意味、マヒした感情を、再度活性化させるという意味での癒しであれば、何が悪いというのかということになるのだ。
そんな人生を歩んでいて、まわりの人は、
「年を取って、一人でいて、家庭も持っていないなんて、情けないと思わないのか? 惨めにしか見えないだろう」
ということをいう人が実際にはいるし、30代くらいまでだったら、そんな人を自分でも、
「惨めな人だ」
と感じたのだろうが、今の姉川には、
「言いたいやつには言わせておけばいい」
と考えていた。
彼には彼で趣味があった。これは偶然であったが、白河と同じで、
「小説を書くこと」
だったのだ。
小説は、サスペンスタッチのもので、どこかドキュメンタリーのような書き方が多く、実際にどこで起こっても不思議ではないような事件が多かった。
通り魔事件であったり、連続暴行事件などと言った事件を、老刑事が解決に導くというような内容の小説で、もちろん、プロではなく、若い頃は、新人賞などに投稿したこともあったが、それも、30代までで、40を過ぎると、
「プロになるのは諦めよう」
と思うようになっていた。
浅川が、
「孤立はしていない」
と感じるようになったのは、小説を書いていることで、人生が充実していたからだ。
40過ぎで彼女ができた時、少しの間、小説の執筆のペースを落としていた。それでも彼女と一緒にいる時期が楽しいと思えたからだが、別れてから、かなりの間、ショックが尾を引いていたが、その間でも執筆をやめることはなかった。さすがに、最初の1か月ほどというのは、手につかなかったが、それ以降は、ペースが落ちてはいたが、執筆はしていた。
「気が紛れる」
ということもあったからで、小説というのが、やはり自分にとって生きがいであったことを思い出したのだ。
「もう、これ以上恋愛をすることはないだろう」
と思うと、一抹の寂しさが感じられたが、一度通り越すと、そんな思いを忘れてしまうほど、生きがいがあることが、どれほどの自分の力になるかということを思い知った気がしたのだ。
それは、プロになる、ならないに関係がない。むしろ、ならなかったことで、生きがいとして自分の中に残るのだから、それはそれでいいことだと思った。
「趣味と実益を兼ねた」
という仕事ができる人を羨ましいと思った時期もあったが、精神的にきつくなった時、どこにも逃げ場がないことを思えば、それも、果たしていいことなのかどうか、考えさせられたものだった。
そんな彼が書いた小説は、最近では、SNSの無料投稿サイトに挙げられていた。
本当は、アクセス数の多いサイトがいいのだろうが、あまりにも多すぎると、
「誰にも見られることもなく埋もれてしまう」
という危惧と。
「ある特定のジャンルが、ほとんどを占めている」
という、偏ったジャンルのサイトになっていたことが、姉川にとって、敬遠する理由だったのだ。
そのジャンルというのが、
「異世界ファンタジー系」
で、半分以上がこのジャンルだと言われた。
一番多い時で、8割近くがそうだったのではないかと言われているほどだったのだ。
これも奇遇なのかも知れないが、実は姉川がアップしているサイトで同じくアップしているのが白河だった。
もちろん、お互いに知り合いというわけではないし、そもそも、本名で投稿するという人もいないだろう。ペンネームを使っていて、ちなみに、白河が、
「老中」
という名前で、姉川が、
「長政」
という名前を使っていた。
歴史に造詣の深い人であれば、何となく分かるとは思うが、二人も歴史が好きだったということなのだろう。
そんな中で、長政は、老中のことを意識もしていないが、逆に老中は、長政のことを意識していた。
それは、長政が書いている小説の中で、無視することのできない内容の小説があり、
「できることなら会ってみたい」
と感じていたのだった。
長政の書いている小説の中に。
「性欲の連鎖」
という内容のものがあったのだ。
その話は、連続暴行魔の話であり、通り魔のような男で、定期的に女を暗闇で遅い、車に連れ込み、そこで暴行するという話であった。
犯人はもちろん、一人ではない。3人組でやっていることであり、その3人は、罪の意識のかけらもない連中であった。
「捕まらなければいいんだ」
という程度の考えの連中で、まずは目を付けた女をワゴン車でつけていき、暗いトンネルの出口のところで、一人が車から飛び出し、女を抑えつけたところ、後ろからもう一人が、麻酔剤を沁みこませたタオルを口と鼻に当て、眠らせて、そのまま車に連れ込むというやり方だった。
女の方も、目の前の男にばかり集中しているので、まさか後ろから麻酔剤をかがされるなどと思っていなかったので、手際よくやれば、襲い掛かって車に連れ込むまでは、数秒の世界だった。
防犯カメラの位置は把握しているので、車を影にすれば大丈夫だと思っていたようだが、やつらの計画はあまりにもずさんだった。防犯カメラを車で見えないようにするというところまではよかったが、同じ車を使えば、すぐに足が付くことくらい分かりそうなものなのに、そのあたりが抜けていることから、犯人はすぐに捕まった。
だが、捕まった犯人は2人だけで、あとの1人は捕まらなかった。
というのも、その1人というのは、殺されていたのだ。
その男は、味を占めたのか、実は一人で犯行に及んだ。そして、その女性を妊娠させてしまい、そして彼女を自殺に追い込んだ。
男たちは、お互いに足がつかないように、行動はオープンにするのが約束だったのだが、1人だけが約束を破って、強姦し、しかも妊娠させて自殺に追い込んでしまった。かなり厳しく糾弾すると、その男は逆上し、乱闘になったのだが、その時、怒りに任せてこの男を後ろから殴ったことで、死んでしまったのだった。
殺された男が一人で暴行に及んだのは、その男が襲ったその女性を好きになってしまったことが原因だった。
「好きになった人を、後の2人に襲わせたくない。自分だけで独占したい」
という思いからの犯行だったのだ。
しょせんは、犯罪者による浅はかなる考え方だったのだが、それが、あとの2人にバレてしまい、制裁を加えられることになると、激しい抵抗も虚しく、殺されてしまったのだ。
他の2人もまさか、殺そうなどと思ったわけではないが、裏切りということと、やったことの残忍さから、
「仕方のないことだ」
ということで、2人で、山に死体を埋めに行ったのだった。
その状態を見ていた人がいた。
その人は、自殺した女の子の兄であり、かなり頭がよくて行動力のある兄は、警察並みの捜査で、犯人を早々と突き止めていたのだ。
警察のように、国家権力があるわけではないので、聞きこんだ相手に話術で、話を聞き出すことができたし。その日の妹の行動から、バス停を降りて、家に帰る道すがらだったことは分かっていた。
そこで、通り魔の話を聞き込み、見張っていると、あたかも、怪しげな3人組がいることに気づいたのだった。
調べてみると、こいつらが、とんでもない連中で、警察に見つからないところで、女が泣き寝入りすることを計算に入れて、定期的に犯行を繰り返していた。
もうしばらくすると、警察も連続暴行事件として調べを始めると思っていたので、そうなれば、少しおとなしくしておこうと考えていたのだ。
自殺をした女の子のことは、兄が警察に訴え出ようかと思ったが、証拠があるわけでもない。
殺害されたということであれば、警察も動くだろうが、自殺では、他の理由を指摘され、動こうとしない警察に業を煮やすことになるに違いない。
それが分かっていたので、警察には言わずに、自分の手で復讐を考えた。
だが、犯人グループのずさんな計画から、思ったよりも早く警察が、捜査を始め、犯人に辿り着きそうだ。
そこで、一番の悪党である、妹を自殺に追いやった男に対して復讐をしなければいけないのだが、時間的にどこまで猶予があるか分からなかった。
「別に俺はどうなってもいいんだ」
ということで、彼は、一番手っ取り早い、殺害を考えたのだ。
小説の中では未遂になっていた。一人の刑事が、この男の計画に気づいたのだ。
だが、犯人が逮捕された時、
「まあ、いいか、本当に殺したいやつは、すでにこの世の者じゃないんだからな」
と言ったことで、殺害が露呈し、ある意味、復讐は成功したとのことだった。
主人公は、
「自分の手で殺すことができなかったのだから、未遂に終わったとしても、よしとすればいいか」
といって、事件が中途半端に終わったというオチをつけて、大団円を迎えていたのだった。
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