第11話 ワンちゃん発見。あと一歩......
結局、来ちゃった。
パルン隊長は一向に折れないし、レクシィは『スリルを求める』の一点張り。
この二人とは意地でもパーティは組みたくない。
絶対、こんな所罠。きっとどこかの小さな建物の中にポツンとおいてあるに違いない。
まあ……私的にはワンちゃんの確保とそれっぽいものが見つかればいいんだけどさ……。
さっきから私たちは部屋を見て回っては腐っている木の螺旋階段で一つ上に上っている。
ここまでに何回か床と階段が外れてぎりぎりで踏ん張るパルン隊長を見た。
ちょっと面白いから写真何枚か撮っちゃったけど。
「妙ですね。もうしばらく上っているのに宝らしきものも罠らしきものも見当たりません」
確かに……妙かもしれない。
さっきからどこの部屋を探しても空き部屋ばかり。古代に滅びたとしても何かが生活していた痕跡くらいは残っていてもいいはず。
やっぱりちゃんと荷物を持ってこの場所を出て行ったのかな。
でも……こんな魔物から守れそうな街をわざわざ出ていく必要なんて。
「臨戦態勢!」
ぼーっと考えていた私の耳に右ストレート並の威力で掛け声が飛んでくる。
パルン隊長か。急にそんな大声出さなくても。
「すいません。いつもの癖が出ました。今、この螺旋階段の上で6体の存在を確認しました。まだこちらには気づいていません。奇襲しましょう」
あれ?でも……レクシィは弓。パルン隊長は魔法。後方支援しかいないんじゃ?
なるほど……理解っちゃった。つまり私が前衛を張る囮というワケか。
「私は基本的な体術や戦闘術は心得ているつもりです。二人は後方支援をお願いします」
「分かったわ」
パルン隊長の言葉に弓を手に取ったレクシィが頷く。
どうやら私が行かなくても良かったみたい。さすが仲間思いの隊長。
「では3,2,1。奇襲しましょう」
☆★
「って。結局私が囮になってるじゃーーーん」
私は必死に良く分からない広間を駆けまわる。
また魔物も私めがけてどういう意思かは分からないけど、突進してくる。
奇襲までの流れは良かった。でも……なぜか前に走って行くパルン隊長を無視して、私を追いかけ回してきて。
私、そんなに足速くないのにーー。
「予想外でしたっ!まさか敵意をもった私以上に魔物を惹きつける何かがあなたにあったなんて。嫉妬しそうです」
私を追いかけている魔物を追いかけているパルン隊長が愉快そうに言う。
「大丈夫よ。私が一発で仕留めてあげる。これでも故郷では弓の名手と言われてたのよ」
「あなたの矢は外したら私たち爆風に巻き込まれて即死なので気を付けてください」
自信満々の表情で弓を握っていたレクシィが、パルン隊長の言葉を聞いてから、急に泣きそうな顔をしだす。
私はその時、かすかに嫌な予感がした。
「大丈夫だわ……当てればいいのよね。当てれば。絶対にあたるわ。弓の名手だから」
レクシィは自信なさげな顔で矢を放ってくる。
レクシィから放たれた変な力のこもる黒い矢は私の手前の地面に刺さった。
「もう……しっかりしてよレクシィ」
私ががっかりしていると、間もなくしてその矢は黒光りし、大きな爆発を起こす。
大きな爆風で私は壁辺りまで吹っ飛ばされた。
いてて……あれ?この広間。どこかで……。思い出せない。
カラフルで絵の描かれている窓。白を基調として、あちこちに黒い装飾の目立つ壁。
こん二等辺三角形の屋根。
ん~~。なんだっけー。首元まで出て来てるんだけど。
「いやー。すいません。メンタルを崩すと弓の精度が無くなるという話は本当だったなんて」
「結果をオーライだからいいわ」
「え,でもリリ様も無事ですが吹っ飛んではいましたよ」
「え!」
遠くでレクシィとパルン隊長の話し声が聞こえてくる。
人が爆風で飛ばされた後に頭悩ませているのに呑気な……。
あっ!ここは。ゲームでよく見る教会。
てことはここは廃教会?もし神がまだ見てたらどうするの?
「ワャンワャン!」
犬の鳴き声がする。
私は確信して鳴き声の方を振りむく。
「ワンちゃん発見」
私は急いで立ち上がり、ワンちゃんの方へと走る。
私の声を聞いたパルン隊長と訳が分からないレクシィが後を追ってくる。
私が捕まえるまであと少しの所でワンちゃんは何かを踏み、翼を生やして逃げて行った。
その瞬間、広間は小刻みに揺れる。
一体、何踏んだの?ワンちゃん。もしかして罠?
あと少しだったのにー。
部屋のあちこちの壁が破壊され、ゴーレムらしき魔物が現れる。
「リリ様はワンちゃんを追いかけてください。この戦闘の中であなたが一番不要です」
パルン隊長が私にバッサリと言う。
そんな事言われたら……ちょっと後は任せたとは言えないかも。
妙に傷つくし……。
「分かった……あ、あとはまかせたよ~」
私はモヤっとする心をなだめながらワンちゃんを追いかける。
まだワンちゃんは近くを浮遊していた。
もうとっくに逃げられたと思ってたけど、これは強運。
私はこのワンちゃんを確保してペットとして飼う。
「ペット捕獲―」
「ワャン!」
またあと少しの所でワンちゃんが躱す。
ワンちゃんは今度は飛ぶことなく地面を走って行く。
「待ってーー」
どうしてこの犬。私から逃げるの?今までは向こうから寄って来てたのに。
私はしばらくワンちゃんと追いかけっこをした末に良く分からない部屋に辿り着いた。
なぜならワンちゃんがそこで止まったから。
縁が暗く光る銀で作られた青色の王座のある小さな部屋。
電気は消えていて暗く、見えるのはワンちゃんと王座と王座の後ろにある、大きな女性の像くらい。
あと窓に写る可愛い私。
「やっと追い詰めた。もう逃げられないよ」
私はワンちゃんに向かってとびかかる。
ワンちゃんはその場で遠吠えをする。
仲間でも呼んでいるのかな?
そんな疑問を持った瞬間、私は何かの障壁にあたって、ワンちゃんの手前で倒れた。
ワンちゃん……そんな能力まで。
これは……余計に惹かれちゃった。
「なになにー誘拐?見に行くのめんどくさいなー。大人しく保護されとけばよかったのに」
部屋のどこかから女の人の声が聞こえる。それも私の嫌いなギャル系。
しかし、部屋のどこにも人の姿なんて見当たらない。
「ワャン!ワャン!」
く……『どうだ思い知ったか』みたいに鳴いて。
「早くこの障壁をどけて大人しく捕まってー」
私は障壁を両手の拳で叩く。
「まあまあ。そう乱暴にしないでよ~。今、行くから」
その声が響いた途端、王座の後ろにある女の像が白々く光り出す。
異世界転移した小悪魔vtuberリリの大人気異世界配信~届け現実のリスナーへ異世界堪能配信~ あらすじ編集 寝起 まひる @neokimahiru
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