第9話 行方不明のワンちゃん。ワンチャン飼える?

「頼もう!」


 私はイヴリンが籠っている倉庫の扉を開ける。


 中はとっても……汚らわしい空間だった。


 ここは窓がないから換気もできない。夏は暑い。冬は寒い。

 そして汚い。いろんな虫よけを置いているからかろうじて虫はいないけど。


 私の過去に取捨選択できずに溜めてきたものが集結したんだなという感じ。


 イヴリンはそんな荷物の中で私の捨てられしyagidoに座り、昔私が使っていたミニ机に乗ったデスクトップをまじまじと見つめていた。


 まるで家に引きこもっているニートみたい。未だに私の非売品グッズは掘り当てて無いみたいだし。


 私はガラクタの山をどけ、イヴリンの前に堂々と立つ。


「色々、聞きたい事があるんだけど」

「私は、今忙しいのだ。お前の質問に答えてる暇はない」


 イヴリンのあまりのそっけなさに私は腹が立った。

 誰のおかげで今、この場に居られると思ってるのかなー?


「それならもう配信やらないかなー。結局、権利は私にあるからなー」

「やめろー……私の稼ぎがまた少なくなってしまう!どうすればいいんだ?」

「それじゃあ。答えて貰おうか!」


 そう言いながら、イヴリンのデスクトップ画面を少し覗いてみる


 角度的にみずらかったけど、画面には白とピンク色の混ざつた特徴的な髪型で右目に白い眼帯をしているのが見えた。


 どこかで見覚えのある格好。私の知り合いにも似たのがいたような気がする。


「で?何が聞きたいんだ?」

「ワンちゃんって名前の犬知ってる?」

「知らん!何だそのふざけた名前は。私はそんな名前つけないぞ」


 あの世界の女神様ってイヴリンしかいないし。それに前任の人が飼っていたと言われても明らかに名前が幼稚すぎる。こんなのイヴリンが以外にどこに居るの。


「もしかしたら私の姉の所有物だったのかもな。とにかくそれは私のじゃない」

「姉ってどんな人だったの?」


 イヴリンは少し考え込む。

 ちょうどいい言葉を見つけたのか、すぐに拳で掌を軽く叩いた。


「怠惰、不注意、強欲、サボり症、無責任、放任主義、自由。人間の悪い所を集めた管理者だな。おせちでもいい人間とは言えないな。それでこの世界も……」


 なるほど。自分は責任から逃れてまだ幼い妹にこの世界を任せたという訳ね。

 私は妹になったことがないから分からないけど……この姉はあまり良くないという事は分かる。


 あとお世辞ね。もし……前任のその姉の所有物だったと言うのなら。

 世界と共に手放したって事だと思うから、飼ってもいいかな。


「あとは……もしかして自分でお金の操作出来なかったー?ぷぷぷ」

「もーうっ聞くことはないな。じゃあさっさと出ていけ」


 私は部屋中に張り巡らされていた魔法陣の光と共に物置の外に追い出された。


 あ……痛たたたた。

 力づくで追い出すのやめてよー。


 私はもう一度物置の扉を開けようとする。

 しかし、扉は固く閉ざされていて、自分の力ではビクともしなかった。


 はぁ~。もういいや。ワンちゃんを早く捕まえようかな~。


 観念してドアから外に出る。

 私はドアの先の廊下で誰かとぶつかった。


「あなた。どっから現れたんですか。私は……なんだ。あなたですか」


 あ……ドジ猫隊長。さっきどっか行ったんじゃなかったっけ。

 どうしてまたこんなところに……。


「私は今、忙しいのでもう行きますね」

「あっ!待って。リリも手伝うから」


 獣人は少しだけ安心そうなため息をついた。


「仕方ありません。特別に許可しましょう。特別に。特別ですからね。付いてきてください」

「自己紹介はしないの?私はリリ。よろしくね~」

「パルンです。それより一刻も早く探さないと。モタモタしている暇はありません」


 私はパルンさんと共に村を出て、10分くらいを掛けて謎の溢れる真っ暗な森の中に行った。

 途中で落ち込んでいるレクシィを見かけたから取り敢えず連れてきておいた。


「私が昨日、痕跡で追尾できたのはここまでです」

「ムムム……これは事件の匂いがしますな~。皆も画面の前で考えてみてー」

「はあ……恥ずかしい」


 凄く統率の取れてないパーティ。というかレクシィは何でこんな落ち込んでるの?

 取り敢えず面白いし撫でとこうかな。


 私は落ち込んだレクシィの頭をなでなでする。うわ~髪サラサラー。


「はっ!あれ?私、いつの間にこんな所にいるの?」


 レクシィは生き返った植物の様に、俯いていた顔を上げる。


 私が連れて来たからだけど……もしかして落ち込んでいる間の記憶ないのかな?

 だから何も質問してこないまま、すんなりと。


「やっぱりここで途切れてますね……。空でも飛んだんでしょうか?この先にはあまり行きたくないんですが」


 確かに……このくらい森は行きたくないかも。オバケとか出そう。


「この先は確か……ダメな方の亜人がいる無地エリアでしょ?知ってるわ」


 レクシィが悠然たる構えで森を見渡す。


「少しは学習したんですね。そうですここは安地から追い出された亜人が集まる無地エリアです。昔はここも合わせて亜人国家でした」


 この場所にもいろいろと事情が……。

 でも……そこが無法地帯ならvtueberが足を運ぶのは危険なんじゃ……。


「ではお二人とも……このフード付きのローブを着て行ってください。無法地帯エリア(あそこ)では姿を隠している獣人も多いですから」


 私とレクシィは手渡されたローブを身に着用する。


「では行きましょう」


 私たちは真っ暗な森の中へと入った。


 ☆★

 そこは不思議な空間だった。

 無法地帯という割にはそこまで荒れていない。

 何というか……省かれた亜人達が普通の生活をしているようにしか私には見えなかった。


 もっと道にゴミとか散らばってたり、普通に叫び声が聞こえるような場所だと思ってた。


 普通に店をやって、普通に家があって、普通に住民も歩いている。


 唯一違うところは歩いている民が獣人やエルフではなく、吸血鬼や龍人、他にも悪魔の翼の生えたような種族がいる所かな。


 恐らく、他にもいっぱいいるんだと思う。


「まずは……少し情報集め程度に寄って行きましょうか。賭博屋に」


 パルン隊長は少し嬉しそうに賭博屋へと向かう。


 絶対、危ない展開になる。こっそり動画を回しておこう。

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