第8話 深夜テンションはツライよね。

「こんにっちわー。あれ?レクシィちゃん何で寝てるの?夜はこれからじゃない」


 私が寝ているレクシィを揺さぶるとレクシィが眠たそうな表情で布団から起き上がる。


「リリ?あんたこそ何で寝てないの?それに何か変だし」

「ねえ、それよりも……私の事好きなんでしょ?これから外出て遊びに行こうよ~」

「あんた何言ってんの?こんな時間に外出たら誘拐されるわ。気でも狂ったの?」


 私は激しくレクシィに揺さぶり返される。


「じゃあ~。私とイイコトしない?まだまだ夜は長いんだしさ~」

「え!それって例えば……」


 レクシィが顔を火照らせてもじもじする。


 あーなんか眠くなってきた。もう限界。


「zzz……」


 私はそのままゆっくり眠りについた。


 ☆★


 次の日の昼。私は恥ずかしさで死にそうだった。


 俗に言う深夜テンションってやつ。

 確かレクシィが早寝した後に少しだけ深夜枠やって今日のためのサムネ作って……

 その後の記憶はあんまりないけど、今日のレクシィの反応で大体何をしたのかよくわかる。


 深夜テンションを知らないレクシィはやたらと『イイコトってどんな事なの?』と疲れた目で聞いてくる。

 どうやら深夜に私が言ったことの内容が気になって眠れなかったらしい。


 どれだけ誤魔化してもしつこく聞いてくるから呆れるかも。

 もう……いっそ今日のネタの話だって事にしとこ。


 私が顔を洗うなどのその他もろもろをして出ていくと、近くでレクシィが周りをきょろきょろしていた。


 どうでもいいけど……今日の衣装は~冬用白いコート、白いエスキモ―、白いマフラーの3点。これがなんと無料!いいですね~。


「あぁ……リリ!やっと見つけたわ。臭いを辿って探していたのよ」


 動物!?メンタル弱いから動物に例えるならウサギかな。でも……そうすると共食いしていることになってしまう。


「ねえ……ところで昨日の夜中に言っていた良い事って何なの?」


 レクシィが両手を組み合わせ。目を輝かせる。


 またその話か……大丈夫!私には秘策の言い訳がある。


「今度、一緒にこの街の案内動画を撮らない?」

「それって私が目立っちゃうってことじゃないの?」


 レクシィは自身のなさそうに人差し指を合わせていじいじする。


 さすが弱メンタル。この程度で緊張するんだね。


「大丈夫。レクシィにはスター性があるから!リリが保証するよ」


 うぅ……自分では私って言えるのに人と話すときはいつもリリになる。

 これって普段vtuberでやってるやつが癖として染み付いて来てるんじゃ……。

 なんか素が出せてないみたいで嫌。


「仕方ないわね!私に任せなさいよ」


 レクシィはドヤ顔で腕を組む。


 よーし!全然関係ない内容だとは思うけど……なんとなく納得させられたかな。


「じゃあ私、これで行くね。今日は重要な約束があるから」

「私もついて行くわ」


 えー。今日はただのエルミアさんを利用するだけの配信だからレクシィが居ても役に立たないしなー。


 あっ!そうだ。


「レクシィは街の紹介の練習をしておいて。いつでも撮影できるように」

「分かったわ!確かに入念な準備が必要ね」


 レクシィは嬉しそうに街へと走って行った。


 これでレクシィがエルミアさんに私の余計な秘密を話す危険もない。

 集中してエルミアさんを説得することができそう。

 へへへへへ……


 私は意気揚々と亜兵隊詰所へと向かう。


 詰所の前まで行くと、私が来るのを分かっていたかのように前の受付さんが扉の前に棒立ちしていた。


「ほぉ……本当に。お待ちしておりました。エルミア様に門の前で待っておくように言われまして……先見の明があるんでしょうね。エルミア様は中でお待ちです。行きましょう」


 先見の明どころの話じゃないでしょう。それはもう未来予知の領域。


 私は受付のエルフと共にエルミアさんの部屋へ向かう。


「バカ野郎っ!なんでそんな事も出来なかった。少なくともあんなのもう一度捕まえるなんて不可能だ」

「す、すいません。私としたことが。警戒が緩んでいました」


 私は中から聞こえた怒声に身体を震わす。


 もしかして……これってかなり悪い雰囲気なんじゃ……。迂闊に私と雑談配信やってくれない?なんて言えない。

 もしそんな事言ったら……タコ殴りにされる。


 私は変な妄想で怯えてノックしようとする手を止める。


 すると、内側からゆっくりとドアが開き、中から見覚えのある獣人が出てくる。


「あなたは……こんにちは強盗団奇襲任務以来ですね。エルミア様なら不機嫌ですよ」

「あ……お久しぶりです。そうですか」


 そういえばこの人。私の隣でサポートしてくれていた獣人部隊の隊長さんだったけ。

 ボロ服着てたから皮の服装での姿が違いすぎて分からなかった。


 獣人は不満そうに部屋の扉を閉めて廊下を重い足取りで歩いて行った。


 余計にノック出来なくなったー。どうしよう。これ軽い気持ちでノックしていいやつ?


「おい。コアクマ……リリだな。私に用があるんだろう?入ってくれ」


 私は恐る恐るドアを開けて中に入る。


 そこでエルミアさんは机の上で両手を組み、不敵な笑みを浮かべる。


「突然だが。お前にはワン……チャンという動物を捕獲してほしい。女神様が我らを試すために預けてくださったものなのだが……先日、部下が緩んでいるうちに逃げ出したそうだ」


 それよりもこっちの願いを先に聞いて欲しいな……視聴者が急かしてくるから。


 ていうか女神ってイヴリンの事でしょ。ワンちゃん以外に名前考えられなかったの?

 さすがに前回は酷い目にあったし。今回はやめとこうかな。


「もし見つけたら飼って良い。それにお前にも願いがあるんだろう?今の私には断るという事も出来るんだが?」

「やります!」


 ワンちゃん!!飼いたい。正直、エルミアさんが絶対に断れないような手腕はあるからいいけど……この世界に来てワンちゃんを飼うのはとてもいい良案。


 マンションじゃ、ペット禁止とかで飼えなかったし。実家で飼うのも猛烈な反対を受けただろうし……。もしこの世界で飼えるのなら!


「その目は交渉成立という事で良いな?」

「はい。ですが……勝手に飼って良いんですか?」

「だってお前は別世界の人間なんだろ?女神の所有物が所有物を飼って何が悪い?」


 確かに……?まあいいや、後でイヴリンに聞いてみよ。許可してくれるかもしれないし。


「手がかりは垂れ猫耳から聞け。あいつが管理してたんだから何か知ってるだろ。以上だ」


 エルミアさんはペンを片手に机に山積みの書類を苦い顔をしながら記入し始めた。


 私は空気の様にして扉の外に出る。


 すぐに私は誰もいない廊下でドアノブを使って家の中に戻った。


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