第7話 仕事終わりの楽しみ。

「本当にごめんなしゃい~~~。うぐっ。私、そんなつもじゃなかったの~」


 詰所への帰り、たまたま出くわしたレクシィが泣きながら私に飛びついて来た。


 なぜこんな事になっているのか私にも分かる。


 1,話してしまったことを私に謝るため探す→詰所を訪ね、受付の人に私たちが強盗団のアジトに向かったことを知らされる→大体の妄想がエスカレートして今に至る。


 多分だけどそういう事だと思う。

 もーいいのに~。墓場まで持って行かなかったことは墓場まで引きずるけど。


 私はゆっくりとレクシィの頭を撫でる。


「こうなった以上はあなたが逝くまで利用させて貰うからね~搾取し続けるからね~」

「ずずずずずっ。あいっ!分がっだわ」

「そろそろ離れてくれない?色んな水が付くかもしれないから」


 レクシィは少し残念そうに私の身体から離れ、いろんな水を拭いた。


「それでリリ。早速だけど、私の家。泊まっていかない?」


 急なお誘い。でも私にはマイハウスがあるし~。ふかふかベットも。

 それにエゴサやメール返信とかも。


「異世界でも稀にしか見れない景色が今日見えるのよ」

「行く!」

「それじゃあ行こう。準備をしないとね」


 空はオレンジ色を過ぎて、夜を告げるかのように暗くなり始めていた。

 日は西の方にほぼ沈んでいる。時間的には5,6,7時辺りかな。


 あ!でも……私、詰所に行って今回の報酬について話し合わなきゃ。


「ごめん。リリは先に詰所に行かなきゃ」

「いいのよ。あんなの。今日行っても明日行っても変わんないわ。早く!」


 私は駆け足で前を行くレクシィに手を引かれながら、家まで連れて行かれた。


 しばらく街の中を走らされ、レクシィの家まで着いた。

 私が途中バテてたせいか、着くころには日が空から消えていた。


 私……今日、たくさん走ったから筋肉痛でただでさえ痛いのに。さらに走れだなんて……全くどこの鬼畜プレイかな。明日は一日中レクシィに運んで貰おーっと。


「ここよ!私の家!」


 レクシィが日本なら客一人はいらなそうなボロ宿を指さす。

 あまりの外装の汚さに私は露骨に嫌な顔をしてしまった。


「中は良いところなのよ。結構、快適だわ」


 あぁ……確かに物を外見だけで判断するのは良くないからね。

 きっと中身はそこそこいい日本のマンションくらいの内装なのかな?


 私とレクシィは欠けだらけの木のドアを開け、中に入る。


「いらっしゃーい。おっ!お友達かい?お嬢ちゃん」


 坊主に傷だらけでサングラスの似合いそうな顔。そして野太い声にいかつい身体。

 もう確実に裏世界の人間じゃん……レクシィ。一体、どんな環境で育ってきたの?


「そうよ。ちょっと屋上を貸してくれない?」

「いいぜ。確か今日は虹星が流れる日だもんな」


 虹と星を掛けたもの……もしかしてイヴリンが美しいものを全て合わせて作ったの?

 それは……映える。早く見たい。


 屋上の鍵を渡されたレクシィが私を引っ張って螺旋階段を上る。


 階段を上りながら周りを見る限り、あちこち床が欠けてたり壁が汚れてたりと決して居心地の良さそうな場所ではなかった。


 やっぱりレクシィはどんな環境で育ってきたの?

 そんな質問も喉元までは登ってきたものの、言葉として現れずに消えた。


「着いたわよ。あなたは屋上で待っていて、私はウサギを焼いてくるわ」


 あぁ……うん。私は……ウサギちゃんっ!?あぁ思い出したくない。


 私は鍵の開いた屋上への扉を開け、屋上に出る。

 安全柵一つない平らな地面。現実世界では考えられない構造。


 空は綺麗な夜空で星こそはまだ見えないものの、月らしき物体がはっきり写っていた。


 レクシィも見てないし、今の内にメールとか見とこうかな。


 私はメッセージアプリ『Loap』を開く。


 ゲッ……!ニャ―コさんからメールが大量に届いてる。

 さすがにね……音信不通で配信やってるし、収益の事も知らせてないし。

 少しは返そうかな。


 藍染 ニャ―コ


『梨々?あなた家にいないの?さっき変な手紙が届いたのだけど』

『なんだかよく分からないわ。気づいたら連絡して』

 1日前

『梨々、配信してるの?生きてて安心したわ』

『配信お疲れ様。収益とかはどうなってるの?私、全く分からないのだけど』

『管理人?から変なメールが届いたわ。一体、どうなってるの?』

 今日


 結局、管理人だけじゃ収益を引き出せてないじゃん。

 私の収益は成人しているニャ―コさんに握られてるようなものだからね。

 返信しとこ。


『その管理人の指示に従って。私は今、その管理人のおかげで異世界で配信出来てるから』

 送信済み


 よし。これでいいかな。


「あれ?リリ?何やってるの?その板はなんなの?」


 レクシィが私の頭の横から覗き込んでくる。

 わぁ。


「もう焼きあがったの?」

「こんなの私の炎を使えばちょちょいのちょいよ」


 またイヴ語発動。ちょちょいのちょい。

 中世人がいきなりこんな言葉使ったらビックリする。


「逸らさせないわよ。その板は何?」

「ただの板だよ……。あんまりレクシィには知ってほしくないかも」


 なにせこのレクシィという人間は口が堅そうに見えて、筒抜けだから。

 うかつに話したら、またエルミアさんのような人に漏らされる。


「見せなさいよ!私、内緒にされると心がムカムカするのよ」

「もう……仕方ないなあ。これはスマホ。これで色々できるの」


 スマホをレクシィに手渡すと、レクシィは興味深そうに触る。


 落とさないか心配……私のはまだ一年前に買い替えたばっかりだから。

 あんまり画面とかは割られたくないかなー。ここ異世界だし。


 子どものように輝いた目でスマホを見るレクシィのために画面を付けてあげた。

 レクシィは画面が付いた瞬間、目を丸くして画面を指で触りだした。


「ねえ、これは何なの?」


 レクシィがスマホのゲームアイコンを指さす。


「これはパズルゲーム、一定期間だけリリがコラボしてたやつ」

「ぱずるげえむ?」

「やってみたい?」

「やってみたい!」


 ゲームは中毒性高いから……視力も悪くなるし……異世界人にはあまり良くないんじゃないかな。


 そう思いながらも、渋々レクシィに画面を開いて渡す。

 レクシィは嬉んでスマホを受け取ると。興味深そうに画面を覗きこんだ。


「どうやればいいの?」

「画面にある同じ色を合わせていけばいいんだよ~」


 レクシィは一生懸命にパズルを合わせようとしているけど、なかなかそろわず顔をしかめる。


「何よこれ!全然、出来ないわ」

「ちゃんと教えてあげるから」


 気づけばそのまま一時間近くが立っていた。

 私が空を見上げるとそこは日本では見れないような星の数ほどある星が流れる。


 これは流れ星なんてレベルじゃ。ないじゃん。綺麗。


 決してかかることのないアーチの星。それぞれにそれぞれの色が合って綺麗。

 何よりも数が多い。これは絶対に写真に収めとかないと。


「ほら。レクシィも一緒に撮るよ。立って立って」


 スマホゲームにドはまり中のレクシィからスマホを取り上げ、隣に立たせる。


「はい。ちーず」

「チーズ?」


 レクシィのそんな疑問の言葉と共にシャッター音が響く。


「もういいの?」

「うん。撮れたから。それよりもせっかくの星を楽しもう♪」

「もちろんよ。ウサギの肉食べる?」

「遠慮しとくよー」

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