第5話 エルミアさんは嫌な人
「という事でね皆。街に入って来たんだけど……少し野暮用ができちゃって……軽く街の風景を見て、スパチャ読んで終わりにしたい!」
《ガチかよー》《続き期待しています》《続編!続編》《気になる~》
《さっきニャ―コさん来てたよ》《やべー!エルフと獣人がちょっと見える》
えーニャ―コさん来てたのか=。絶対に何かしらメッセージで文句来る。
私の契約してるサービスが圏外ってだけでイブっとwifiひとつで他のサービスは全部使えるんだろうね。
本当にどういう仕組みなんだろう?
あ、忘れちゃダメ。この街を早く皆に見せないと。
私はカメラを手に乗せ、上に持ち上げながら歩く。
「大体、このような街並みになってるよ♪どう?皆。どこか気になる建物があれば後で動画上げるけど?」
《なんかマジの異世界っぽくてビビる》《さすがにこれはフルダイブの領域でしょ》
《俺、武器屋》《冒険者ギルド一択。ないとは思うけど》《アクセサリーとか》
「いいね。いいねー。それじゃあ気になったところは後でリリが動画に上げまーす」
《はーい》《待ってるよー》《くれぐれもキルされないようにね》《気を付けて》
「じゃあ、最後にスパチャ読んじゃおうえーとアチャチャさん500円ありがとうございます……」
私はその場に立ち尽くしてスパチャをただひたすら捌いた。
周りの獣人やエルフたちからは変な人間を見る目で見られたけど、これは慣れているから大丈夫。
それに耐えながら10分。私は全員のスパチャを読み終わった。
「ということで皆。今回は初回で何もできなかったけど……次回は何かしら異世界チャレンジをしてみようと思うから。また見に来てねー♪バーイ!リリ」
「バーイ!」「バーイ!バーイ!」「次回も楽しみにしてる~」
私は配信を切った。
「はぁ……憂鬱。これから詰所で取り調べをすることになる~」
私はとぼとぼ歩きで看板で大きく『亜兵隊詰所』と書かれた大きな建物に向かう。
「こんにちは。用件をお願いします」
建物の中に入ると、クールな短髪エルフが私を出迎えてくれた。
短髪エルフって言ったらやっぱりクールだよね~。良い!
「えっと……エルフア門番長はいますか?」
あれれ?なんだかエルフさんの反応が変。確かこの名前だったはずなんだけど。
「あっ!エルミア様の事ですね。先ほど戻られました。こちらにどうぞ」
私は広い館内の横に伸びている廊下をエルフと共に歩く。
エルフは少し華奢な装飾が施された扉の前で止まった。
「エルミア様。例のお客様がいらっしゃいました」
「入れろ」
ドアの内側からエルミアさんの貫禄あふれる声が響く。
悪い事にはならないといいけど……。
「どうぞ中へ。私はこれで失礼します」
私は震える手で扉を開ける。
「お前がそんな人間で良かった。3,4日後に来てたら牢の中にいれようと思っていた」
扉の先にはまるで軍隊の軍曹のような服を着ているエルミアさんが座っていた。
普通のエルフになら似合わないな~。あの性格でつり目のエルミアさんだからこそ似合う物だと思う!
「えへへ~面白い冗談ですね~」
「本気だ。私はしょうもない冗談は言わないぞ」
「はい。すみません」
この人怖い。何を考えているかが分からないから怖い。
ここは油断したら死んでるやばい異世界。だからこそ怖い。
「お前のステータスカードの提示とこの書類に住所、種族、生年月日、名前、職業、滞在目的を書け」
エルミアさんがいくつかの項目の書かれた薄い紙一枚を机に置く。
「どうした?固くならなくていいぞ?早く座れ」
「はい!」
あなたが原因なんだけどね。何考えているか分からないあなたが!
私はエルミアさんの反対の席に座り、ペンと紙を手にする。
えー……っと。名前は小悪魔リリ、種族 人間族 生年月日は……後回しで住所も……後回し。
職業は無職 。滞在目的は一時的な拠点。
よし後は……住所と生年月日。
「やっぱりそこで詰まったか。まさか本当のなのか?」
「何がですか……?」
「お前が行った後、メンタルボロボロのアイツにお前の事を聞いたんだ。そしたらアイツが『リリは別世界から来た人間だ』って漏らしたんだ。どうなんだ?」
墓場まで持っていくんじゃないの~?
墓場どころかスタートダッシュで漏らしてるじゃん~。
多分、この人に嘘をついたってすぐに見抜かれる。
そんなんで余計な疑い付けられたら余計にまずい。正直に話そ~。
「本当の事です……」
「そうか。ならこれは使えるな。お前。確か系統は誘惑系の淫魔だよな?」
「認めたくないけど……そうみたいです」
エルミアさんはニヤッと笑う。
何かものすごく嫌な予感がする。でも下手にこの事をばら撒かれたりしたら命の危険だし……。
「よし。付いてこい。この任務をこなせたら永久通行許可証+お前の秘密は不問にしてやる」
エルミアさんはドアを開けて私を手招きする。
きっとこれなら……よし。あわよくば動画のネタにでもなれば……なんちゃって。
私たちは広い館内まで戻り、緑色の昇降板で2階に上がった。
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