第4話 黒い光の正体は......

 やられた……。これじゃあ。兎ちゃん達は丸焦げだろうね。

 うぅ……兎ちゃん達が一体、何をしてたって言うの……


 私が咄嗟にカメラを逸らしたから何とかガイドラインには比っ引っ掛からなかったけど。


 肉の焼ける美味しそうな匂い。木々の焼ける音。こちらに近づく足音。

 さすがにカメラを起動したままじゃウサギちゃん達のアレを移すことになるかも。


「あれれ?ちょっと機材にトラブルがあったみたい。ちょっと画面変えるね」


《oK》《分かったー》《あの黒いやつ機材トラブルだったんだ》《やっぱ3Dかい》


 私は配信画面を『ちょっと待ってね!』と書いた静止画に変えて、マイクをオフにする。


 ふぅ……よし。まずは話し合いをしてみよー。


 私がウサギのアレの方に歩いて行くと、横側から誰かが歌いながらやってくる。


「ご飯♪今日のご飯は私の大好きなミート。回収♪回収♪」


 ウサギのアレの前で少し待つと、茂みの方から陽気に私より少し年上くらいの女の子がスキップしながら現れた。


「あれ?あなた何?こんな所で何してるわけ?」


 魅惑。こういう時のためにあるんだね。便利。私と相性バッチリ!


「リリ、この子達と遊んでいたら迷っちゃって……そしたら急に矢が飛んできてびっくりしちゃって……わ、リリを助けてくれない?」


 完璧な上目遣い。これで少しは彼女の心を……


「私……今、あんたの言葉を聞いて凄くドキドキしちゃったわ。あんたの事好きかも」


 効果絶大すぎた……。これは女同士でというイケない展開に行ってしまいそう。

 そんなことになったら思想の偏った視聴者が暴れだしちゃう……。


「ごめんなさい。リリはリスナーの皆が彼氏みたいなものなので」

「かはっ!この胸の痛みが失恋……」


 数秒で恋と失恋を味わうなんて……可哀そうだけど面白い。


「そ、それじゃあ友達だけでも……なってくれない」


 あれ?なんか性格変わった?落ち込んじゃったかなー。


「いいよ♪それでーリリ、道に迷ってるんだけど……安全な頼もしいあなたにお願いしたいの……安全な所まで案内してくれない?」


 私がキラキラした瞳で女の子を見つめると、女の子のしゅんとした顔に生気が宿った。


「もちろん!任せなさい!リリちゃん。私は冒険者のレクシィよ。あなたを安全な場所まで連れて行ってあげる」

「感謝。感謝。レクシィ!」

「ほわぁ~」


 レクシィの頬がさらに緩む。

 そのままウサギのアレを地面に引きづり、私を案内してくれた。


 長い森を抜け、巨大樹の立ち並ぶ中にある村。

 そこはまるでゲームの世界に出てくる、獣人やエルフの隠れ家を彷彿とさせるような景色だった。


 レクシィは私のキラキラ目に反応して、説明をしてくれた。


「ここはいわゆる人間から亜人と呼ばれている獣人やエルフやその他もろもろなどが暮らしているエリアなの。私も最近来たばかりなんだけど……人間にも居心地のいい場所だと思うわ」


 へー……あ、忘れてた!リスナーさんがめっちゃ心配のコメント来てる。


「ごめんレクシィ。ちょっと用事が……先に入っといて」

「無理よ……基本的に中に知り合いがいない限りは人間は入れないわ。もしよければ、私も用事手伝ってあげる」


 ん~……それならそのガイドライン的にグレーな判定になりそうなウサギのアレを隠してくれればいいんだけど……。


「その……ウサギのソレ。どこかに置いて来てくれない?」

「それ……あっ。ウサギの事ね。分かったわ少しおいてくるわね」


 レクシィはウサギのソレを引きずりながら、隠し場所を探しに行った。


 よし!今の間に。


 私は手早く配信画面を切り替える。


「こんにちは皆~♪戻ったよー。リリの事、心配した?」


《無事だった》《あれ?なんか背景変わってるやん?》《ウサギさんは?》

《何があったん?》《機材トラブルって言うのは画面切り替えのやつかな?》


「えーっと……ウサギさんが機材に当たって、リリは機材直してから森をに移動して……その途中で冒険者に案内してもらった結果、今ここに居ます」


《あね。状況が良く分かった》《男か?許されねえ》《リリちゃんモテモテ》

《女の子かもしれないよ》《さっきのイケメンウサギに案内された説を推したい》


「リリー。置いて来たわよ!ウサギのうっ!」


 私は急いでレクシィの口を両手で塞ぐ。


《ウサギの何だっ!?言ってみろ》《!?》《女の子だった》《まさかね》


「ウサギの食べた人参だよね!拾ってたからね!!」

「ん?ほうしたほ?」


 私は慌てて一瞬だけマイクをoffにする。


「理由は後で説明するから。レクシィは絶対にウサギの事は放さないでっ!」

「わ、分かったわ。それより……リリ甘い匂いがする。これ好きかもしれないわ」


 私はマイクをonにした。


「という事でね……こちらが案内してくれたレクシィさんね」


《なんか喋ってなかった?》《誤魔化した……》《口裏合わせやね》


 ぐぬぬ……なかなか流されてはくれない。押し切ろうっと。


「これからね!リリたちはエルフや獣人のいる村に入って行くよー」


《エルフ!?どういう技術?》《ケモミミは夢がありすぎるんよ》《ガチで?》

《レクシィさんなんてvtuberはいない。エキストラさん?》


「そうそうエルフにケモミミ。早速、入って行こう!」


《おーーーーーっ》《いくぞー》《早く見たい》《行こう》


 私はマイクを切り、画面を素早く切り替えた。


「誰と喋ってたの?一体、何をやってるわけ?」

「ん……この魔道具で目に見えない遠距離の人達にリリの旅を見て貰ってるの」


 レクシィはうろちょろしながら考え込み始めてしまった。

 現実世界ならこんなのすぐどういう意味か分かるのに。もう嘘つくのはやめようかな。


「墓場まで持っていく覚悟はある?」

「もちろん。あるわよ。私、人の秘密を守るの得意なの」

「実はねリリは違う世界から来た人間で……今、この世界の事を違う世界に宣伝してるんだ」


 レクシィはさらに難しい顔をして、俯く。


「ごめんなさい。私には良く分からないわ。でも……私に協力できることがあったらいつでも言って!私、あなたになら尽くすわ♡」


 う……うう。これだから私は視聴者から淫魔呼ばわりされるんじゃないかな。


「それじゃあ、早く入るわよ」

「うん……」


 私はレクシィに腕を引かれて、門番の前まで連れて行かれた。


 門前には壁に寄りかかって、優雅にパイプで煙をふかしているエルフが一人突っ立っていた。

 容姿は想像通り金髪翠眼。そして緑の服に白いマント。典型的なエルフ。


 でも……もうちょっと可愛らしい感じで出迎えてくれるかと……これはさすがに夢を壊してしまうから写せないかな……


「こんにちは。エルミア門番町様~~」


 レクシィが明らかに嫌そう。

 この人と不仲なのかな?それとも喧嘩するほど仲がいいタイプ?


 エルフはレクシィと私を見て、嫌な笑い方をする。


「よう。メンタル雑魚ちゃん。今日は女を捕獲したのか?詰所行く?」

「誘拐じゃないわ。迷ったらしいから案内してるの……邪魔しないでくれる?エロフさん」


 レクシィの痛烈な言葉にエルフは顔をしかめた。


「ふと思い出したんだが……ここらへんで冒険者見かけてな見に行ったんだが。そいつボロボロに泣きじゃくってスライムにリンチされてたんだ。理由を聞いてみると……」


 何で急にこんな話を……?レクシィになんか関係が?


 隣を見ると、レクシィは青ざめた顔で目の端に涙を浮かべていた。


 なるほど……これはきっとレクシィの話ね。もう行っていいかな?

 視聴者待ってるんだけど?


「もうやめてぇぇぇっ。その話はぜっだいにひどに聞がれたくないわ~~」

「何だ?もうギブアップか?それじゃあ、やることは分かるよな?」

「うぅ……」


 私はそんな二人を放っておいて、こっそり街内に入る。


「おい!」

「はい!」


 まずい……見つかった?これは詰所行き?


「時間があったら詰所に来い。通行証を渡してやる。今はもう行っていいぞ」

「はい」


 私は緊張しながらも服の中に隠していたカメラを出して、街内に入った。

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