第2話 異世界の管理者?

 あ……痛たたたた……。


 どうしてこうなるのかなー。ここどこー?


 草+木+水たまり=森!


 私がいたのはマンションだから……死んだ?または飛ばされたでいいのかな?

 ここはもう開きなおるしかないかな。ドアノブから手が放れたあたりからの記憶があんまり……。


 うぅ……寒い。確か上着も着てたんだけど……あれ……?何この服?

 それに……弾力がある。AからDくらいには進化したかも。


 え?えぇ……あ!水たまり。


 私はよちよち歩きで水たまりに寄る。


 わぁ……可愛い。私……可愛い。

 うへへっ。リリにそっくり。いや!これは小悪魔 リリだ!


「やっと起きたのかっ!どうだ?その姿は気に入ったか?私に感謝を……」


 女声の何かが近くで喋っているけど、自分の姿をもう少しよく見てみる。


 茶色のゆるふわボブ 。大きく生き生きしている紫紺の瞳。

 白のオフショルダー。に頭にはハート付きミニ悪魔の翼のカチューシャ


 首には現実でも着けているおしゃれな最新式ヘッドホンの模型だねこれ。

 外しとこ……。


「おい!お前!無視するな!あとそれ再現大変だったのだぞ!外すな!」


 だいぶ怒っていたので、渋々怒号が聞こえた方を振り向く。


 そこには想像以上に幼く、想像以上にかわいい女の子が立っていた。


 金色の髪に碧眼で水色を基調として所々に鮮やかな金の装飾が施されているシスター服らしきもの。幼い顔立ち


 きゃわいい~♡。

 ダメダメ!平常心で居なきゃ。私はこの子に無理やり連れてこられたんだから。


「結構昔から見てくれてるんだね。いつも見てくれてありがとう♪」


 このダンスshorts撮ったの2年前くらいだし。

 たまたまスタジオ借りさせてもらってついでに撮ったみたいな?


「え?うぅ……ふん!私に感謝することだな。今日からここがお前の職場だ!」

「でもリリに出来ることなんて配信くらいしかないよ?力仕事とか出来ないから……」

「それでいいのだ!お前にはそれを任せたい」


 それならいいや~みたいに流してはくれないか。

 しかしこの命令口調。一体誰がこんな無垢な少女をこんな風にしたの?


「ごめんなさい!リリには数十万人の視聴者を待たせてるから。かえら……」

「お前のチャンネルは1万人も見に来てないだろ。だから行けるな!」

「グハッ!」


 いつもは確認しないようにしてるけど……だんだん風化してるんだな……私。


「私に協力すればチャンネル登録者も増える。収入も増える。お前のその魅力ならスターも狙えるぞ」


 なに?私がvtuber界のスター?チャンネル登録者1000万人!トップ1%

 日本の頂点!あわよくば世界の頂点で誰もが私を見てくれる。


「気が変わったかもー。その仕事についてゆっくり話そうか~」

「いいぞ!」


 ★


「それで?詳しく教えてくれる?気になるな~?」

「まずお前が私の世界で配信をする→お前が有名になることによっていつかこの世界は世界中の人の目に留まる→私が利益を貰える+この異世界の転生志望者が増えるという仕組みなのだ」


 なるほど……この子が考えるにしては良くできた仕組みカモ。

 でも……それじゃあ私の利益が少ないね~。


 この話で行くと私が稼いだ利益は謎経由からこの子に行って、転生者に位置バレや家バレする危険性が高い。高リスク中リターンじゃ仕事はやっていけないからー


「こうしない?利益の分け前は五分五分。転生志望者はリリが現実世界に帰った後に通す」

「確かにそれも良いな。7:3分けで私は7が良いんだ。5:5じゃ嫌だ」


 女の子はムッとした顔をして私を睨みつけてくる。


 もぅ……そんなに愛らしい顔をされたら……断れない。


「分かった。その案で決定ね」

「私の名前はイヴリンだ!よろしくな!」

「うん。よろしくね♪」


 日本語喋るのに日本名じゃないんだ。複雑な感じなのかな?

 あんまり聞かないでおこう。


「それでさー。リリの悪魔の翼は再現されてないの?生えてる時もあるんだけど」

「それは今から話すから待つのだ!まずはこれを受け取れ!」


 イブリンが空間に出来た丸い穴から取り出した変な小物を4つ手渡してくる。


 なにこれ?どこかに落として失くしそう……


「イブっとwifiとドアノブとステータスカードと自動追尾カメラなのだ。これは配信用だな。編集はお前のPCでやればいいな」


 ドアノブ!?イブっとwifiはまあ現実世界のネットワークにつなぐものなのかなとステータスカードはね異世界のド定番ね。自動追尾カメラはね激しく動くなら必要かもね。

 ドアノブ……?


「それでお前の衣装はこの絶対無敵な異次元収納バッグに入ってる!悪魔の翼はお前が念じれば出したりしまったりできるぞ」


 丁寧なチュートリアルをありがとう。念じる……念じる……念じる。


 私は空を羽ばたけるような大きな翼をイメージして背中に力を入れる。


 すると背中から赤ちゃんデビルに生えてそうな小さい翼がチョコンと姿を現した。


 あれれ?何か思ってたのと違う……おかしいなあ。


「くすすすすっ。お前!それでもかなりいいな!底辺にお似合いだな!」


 キー―――ッ!大丈夫。我慢我漫画漫画。私はお姉さん。お手本な態度を取らないと。

 もう翼恥ずかしいしこっそりしまおう。


「それでっ?ドアノブって何かなー???」

「ドアノブはお前が緊急時にすぐに家に帰れるようにあるものだ。使い方はドアノブを適当な場所で回すだけでいいんだぞ。それでな注意点が……」


 帰ろう。寒い。もっとあったかいリスナー帝国だったら降り立っても良かったカナ。


 私はドアノブを捻る。すると空間が長方形のドア型に切り取られ、エアドアを形成した。


 ゆっくりドアを開ける。中からは私が玄関に置いた芳香剤の香りが鼻を幸せにする。


 いつもの景色。真っすぐ伸びる廊下の横に配信部屋とバスルーム、トイレ、倉庫 (部屋)のドアがついてるこの景色。


「帰ってきたぁ……早速、皆にこの姿を自慢しようかなっ!」


 自分の部屋へと早歩きで向かう私の目の前にはいつしか前にも見たような魔法陣が光を纏っていた。


「またしても立ちはだかるかぁ……」

 突風に吹っ飛ばされた私はドアの外まで転がった。


「注意点があるんだがな。家の壁に風の魔法陣があるから誤発動させないように注意しろよー!私も操作出来るからな!はっはっは!」


 ぐぬぬ……帰れなかった。


「これが最後だ。お前の異世界での力はチャンネル登録者の数で変わっていく。チャンネル登録者は戦闘力みたいなものだからな!」

「ふふっ。そうだね」


 そのセリフvtuberからしか聞いたことがない。私も数か月前に同じことを言った気がする。

 見られてた……?


「これで説明は以上だ!後はお前の配信活動を頑張ってくれ。必要な物はそのバッグに入っている。」


 イヴリンは丸い円形の穴に入り、その後すぐに穴は閉じた。


 しっかりした子だったなー。よしカバンの中を見て……。

 そらが夕焼け。


 明日でもいいかな……そんな急に異世界なんてきついからね。

 今日はゆっくり休んで明日の朝行こうかな。夜は怖いし……


 私はドアノブを捻り、家の中に入る。


「あれ?何でもう戻って来てるんだ!少しは異世界に馴染めよ!!」

「でもーここリリの家だから。それよりもどうしてここにいるのイヴリン。憧れの配信者のお部屋を見てみたいのかな?それとも……泊まってみたい?」


 イヴリンは私の言葉に顔を真っ赤にした。

 分かりやすくて助かる~。やっぱり可愛いな~。


「こ、これは仕事だ。お前の行動をたまには監視しないと逃げるかもしれないからな」

「本当に?それじゃあ倉庫に泊まってれば?リリの部屋は鍵閉めとくから」

「うぅ……うっぅぅ」


 やば!ちょっとからかい過ぎたかな?


「いいのだ。倉庫には色々、お宝が眠ってると思うからな……はっはっはっ!」

「え?勝手に住まないでよ!ちょっと……」


 イヴリンは私の言葉を無視して倉庫の中へと入って行った。

 私が倉庫を開けようとすると、扉は固く閉ざされビクともしない。


 もしかしてイヴリンって私のヘビーなファンなの?


「はぁ……今日はもういろいろありすぎて疲れた。お風呂入って寝よ」


 私はお風呂に入って改めて自分の姿に見とれた後、ベットの中に着いた。

 いつも夜中は眠れなくて深夜枠の配信をやっていたけど、今日はやけにすやすや眠れた。


「おまっ!……まだ寝てたのか!おっ!それはJKコラボ配信の時の灰のセーラー服。いいな!」


 あれ?イヴリンの声?私は確か自分の部屋で寝たはずだけど……。


「えっ!何でいるの?あー。もしかして……こっそり覗きに来たのー?変態―」

「ち、違う!私はお前を起こしに来たのだ。もう昼なのに活動しないお前を」


 寝ぼけた目をパチパチさせて、時計の方を見る。

 時計はもうすでに2時を回っていた。


「リリはもう……絶対に朝枠が出来ない身体になってしまった。あとリリ系の悪魔って夜行性じゃないの?なんで私、あっさり寝ちゃってるの」

「知るか!早く異世界に来た人らしいことをしてこい!きっちり稼いでもらうぞ」


 えーやだー。私、ずっと布団の中に籠ってたいのに。

 大体、配信者は気まぐれでやるからいい仕事なの。強制されるものじゃないの


「ほら!必要な物は全てこの異次元収納バッグに入ってる!早く行ってくれ」

「エゴサだけしていい?」

「ダメだっ!風で強制的に追い出すぞ」

「分かったから。今出るって」

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