第58話 女々しい男

「笑来は凄いよな。俺に彼女ができても諦めてなかったんだから」


 好きな人に恋人が出来たら、諦める人がほとんどだろう。

 けれど、笑来は諦めずに俺の事を好きでいてくれた。

 ここで何か笑来から感動的な言葉が出てくるかと思ったが、


「いや、どうせ別れるのは見当ついてたからね、言わなかっただけで」


 なんとも辛辣。

 え、こういう時って『悠の事本当に好きだったから』とか言うのがテンプレなんじゃないの?


 期待を裏切るよなホント。笑来らしいけど。


「ガチ?」


「だってあの女だよ? すぐに振られる思ってたよ。今だから言っちゃうけど」


「噂が噂だしな」


「3ヵ月も続いたのは想定外だったけど」


「よく当時言わなかったなそれ」


「我慢してたの。本当はボロクソに言ってやりたかったけど」


「我慢強すぎないか? 俺だったら、ボロクソまでとはいかないけど多分愚痴ると思うわ」


 何かしら、笑来の彼氏の悪いところを口にしていると思う。


「だから、悠が振られた時全力でガッツポーズしたよね私」


「全力で……な」


「地面に膝ついてお腹の底から叫んだよねもちろん」


「目の前でされてなくて助かったよ」


 多分、目の前でそんな事されていたら、いくら幼馴染だとしても殴りかかっていただろう。

 今だから笑い話になるけど、まだ未練がある頃にこの話をされていたら笑来を振っていたかもしれない。


「なんか、私からの告白もあっけなかったしね」


 クスっと笑来は笑う。


「さりげなく言ったからな~」


『私にすればよかったのに』と会話の中でポツリと呟かれた告白の言葉。

 笑来が俺に言ったから許されたものの、普通振られて傷心中の人に掛ける言葉ではない。


 言うのにも、相当勇気が必要だったと思う。


「あの状況で言わなかったら、私たちの関係は幼馴染っていう平行線で終わってたからね~」


「たしかにな」


「どうせ、悠から告白されることはなかったと思うしね。この十数年されなかったんだから」


「何も言い返せません」


「告白ってさ、普通男子から言うもんじゃない? 男らしさくらい見せてもらいたかったわ」


 腕を組みながら言う笑来に、


「俺は女々しいからしゃーない」


「未練もタラタラだったしね」


「うっせーな、終わったことだからいいだろ。それに、女子から告られた方が萌える」


「それ逃げてるだけじゃん」


 確かに、俺は逃げていた。


 笑来との関係性が変わってしまうかもしれないという恐怖から。

 そこを踏み出してくれた笑来には、本当に感謝しかない。

 振られた直後だったが、ダメ元でも告白をしてくれたことが、俺にとっては嬉しかった。


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