第55話 ピンクな雰囲気


 夜風が涼しい街中を歩く。

 隣には、俺と手を繋いでいる浴衣姿の笑来。

 これからすることに顔を赤らめ、少し俯く。歩く度になびく髪から香る甘いシャンプーの香り。


 ただ歩いているだけなのに、なんとも幸せな気持ちになる。

 ホテルまで戻ると、自分たちの部屋に戻る。

 夕食はもう片づけられており、テーブルは端に移動させられていて、布団が2枚くっついて並べられていた。


「布団、もう用意されてるね」


「まぁ、あとは寝るだけだしな」


 緊張からか、淡々とした会話をする俺達。


「とりあえず、タオルとか用意しよっか」


「……うん」


「シャンプーとかリンスもあるかな?」


「さっき大浴場で色々済ませといたから俺はいいかな」


「たしかに、私もさっきしたからいいや」


 そう。俺は大浴場の時にありとあらゆる準備をしておいた。

 体を隅々まで洗い清め、ムダ毛処理を念入りにした。

 ここに来る前にも、まんじゅうを食べた後に口臭ケアをしておいたし、準備は万全だ。


「これバスタオルね」


 洗面台に向かった笑来は、バスタオルを渡してくる。


「ん、ありがと」


「悠、先入ってていいよ。私ちょっと準備してから行くから」


「お、おう」


 落ち着かない様子で体をもじもじさせると、そのまま笑来は洗面所の扉を閉めた。

 女子は準備に時間が掛かるからな。

 髪の毛を結ったり、その他にも色々とありそうだ。


「よし、入るか」


 と、浴衣を脱ぎ、バスタオルを腰に巻くと、窓を開けて外に出る。

 部屋についている露天風呂は、窓を開けると、すぐの所にある。

 大人が4人ほどは入れる広さの四角い檜風呂。タイル状の壁際には鏡と小さな椅子。シャワーまで完備されている。


 温泉は赤黒く滑らかな湯をしている。大浴場の露天風呂と同じ種類の温泉。これならお風呂に入った時に体が丸見えにならなくて済む。

 俺としては透き通っていた方がいいのだが、笑来の体が見えるのと同じく俺の体も丸見えだ


 男は、興奮したら速攻バレてしまうから多少濁っていた方がありがたい。


「タオルは……ここら辺でいっか」


 濡れないように窓の取手に掛けると、ゆっくりと温泉に足を入れる。


「うわ気持ち~……しかも最高の眺め」


 肩まで浸かり、縁に手を付きながらゆったりと外の光景を見ると、目の前には温泉街が広がっていた。


 昔ながらの店が立ち並ぶ大通り、背の高い建物から漏れる光、きわめつけは夜空に輝く満天の星空と満月。

 ずっと見ていられそうな絶景だ。


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