第53話 夜の温泉街


「ほらほら! まずは温泉まんじゅう行こ!」


「お前、胃袋バケモンかよ」


 夕食を食べ終え、浴衣姿のまま俺達は温泉街を歩いていた。

 向かうは、但野ちゃんがおすすめする温泉まんじゅうの店。

 徒歩で3分ほどのところにあるらしい。


 率先して歩くのは、先程土鍋のご飯をほぼ一人で空にした笑来。

 まだ食欲があるとか、胃袋に何か飼っているに違いない。

 俺達3人は、満腹でもう動けないくらいなのに。


「甘いものは別腹って言うじゃん?」


「一個くらいで十分だろでも」


「いや、私は5個は食べる。んでおみあげとして20個入りを買う」


「帰りには全部なくなりそうだな」


「……やっぱ30個くらい買っておこうかな」


 やっぱ帰りに食べるつもりだったなこれ。

 自分の分がなくなったら俺の分のお土産まで手を出してきそうだ。


「着いたよ~。ここがあーしのおすすめのお店~」


 瓦屋根が立派な建物で立ち止まる但野ちゃん。


「『岬まんじゅう』だって! 絶対美味いやつだこれ!」


 店の表でせいろで蒸されているまんじゅう。

 こしあん、粒あん、抹茶などと様々な種類があり、甘い香りが鼻孔をくすぐってくる。


「確かに、これ見たら3つは食べれそうな気がしてきた」


「あ、すみませ~ん! こしあん30個入り1つと、10個入り一つと、単品で5個下さい!」


 早速、外のカウンターにて注文する笑来。


「俺もこしあん20個入り一つと、単品で3個下さい」


「あーしは、抹茶10個入りと、粒あん10個入りください」


「俺はそうだな~、こしあん20個入りと粒あん20個入りで」


 笑来に続き、俺達は順番に注文していく。

 店員さんから手渡されると、待ちきれない笑来は、袋からひとつまんじゅうを取り出すと、パクリと一口食べる。


「……うんまぁぁぁ~」


 口に入れた瞬間、笑来の口元はほどけ、なんとも幸せな表情を浮かべる。

 目からは少し雫が垂れているようにも見える。


「これが泣くほど美味しいっていうやつか」


 と、笑来を見つつ、俺も一口食べる。


「……んまぁぁ~」


「悠も私と同じ反応してるじゃん~」


 つい、笑来と同じ反応をしてしまった。流石にこのまんじゅうは美味しすぎた。

 フワフワと柔らかい外皮、内側には上品に甘い舌触り滑らかななこしあん。

 これは何個でも食べれる味だ。

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