第44話 温泉旅行


「それはそうと! テスト前どっか行かない?」


 唐突に笑来は、俺に近づきそう言う。


「なぜテスト前」


「え、休みだからに決まってるじゃん」


「普通はこの休みを使って勉強をするんだが」


「私はこの休みをそんな頭の悪い使い方をしないよ」


「どっちかというと頭が悪いのはお前だ」


 テスト前に遊ぶなんてテストを放棄しているに等しい。

 けど、息抜きも大切だ。


「行くとしたらどこ行くんだ?」


「うーん、せっかくの休みだから、泊りでどっか行きたいよね~」


「温泉とか?」


「あり! めっちゃあり!」


「泊りだったら、まぁ勉強道具とか持っていけば多少できるかもな」


「そうそう、ただ普通に遊び行くよりは勉強出来るよ!」


「絶対にするする詐欺だけどな」


 プチ温泉旅行か。

 ……ありなんだよな。


 俺も久々に温泉に入りたいし、笑来と一緒の部屋でお泊り。

 お泊り自体は家でも、旅行先のホテルでも一緒にしたことがあるが、親という障害があった。


 だがしかし、今回は親ナシ、完全な笑来と2人きりで同じ部屋。

 温泉となると、泊まるのは旅館。笑来の浴衣姿が拝める。

 勉強なんて前日に詰め込めばなんとかなる。これは行くしかない。


「よし、温泉行くか!」


「え、いいの!」


 手を叩いて言う俺に、パァとした笑顔を向ける笑来。


「行ける時なんて少ないし、笑来も行きたいでしょ?」


「温泉なんて悠の家族と私の家族で行った以来だよ~」


「俺もそうだな」


「けど、今回は2人だもんね~」


「2人だな」


 行くことは決まったのだが、ここで必要なのが親からの許可。

 未成年は親の許可なく外泊は親出来ない。そのため、権者の同意書を書いてもらう必要がある。

 これが一番難関なのかもしれない。


「とりあえず、親に連絡してみるか」


「あ、私のお母さんも悠のお母さんも行って来ていいって~。今LINEで聞いてみた」


「ガチ?」


「うん、ほら」


 と、笑来はスマホを画面を見せてくる。

 そこには『温泉? 悠くんとなら安心だね! 行って来ていよ‼』と笑来のお母さん。『悠と? 全然いいけど襲われないように気を付けてね』と俺の母親。


 おい親。俺を性欲の塊だと思ってないか? 襲わないとは断言できないか、息子を疑うなよ。


「そうだ。奏と秋羅ちゃんも誘ってみる? お世話になったし」


「あーいいかもな」


「よし決定!」


「部屋はもちろん俺と笑来、奏と但野ちゃんだよな?」


「そうだけど……なんかエッチなこと考えてない?」


 笑来は細い目をして俺を見てくる。


「考えてないよ? 多分」


 逆に考えない方がおかしい。彼女と旅館でお泊りなんて、エロハプニングが起きないわけがない。


 それに、和室の間接照明、キレイに敷かれたフカフカの布団が隣合わせて2枚。雰囲気が行為を誘っている。

 浴衣姿だったら、5割増しでエロい。


「……まぁ、期待はしてていいんじゃない?」


 笑来は少し目を逸らすと、ほんわかと頬を赤らめながら言う。

 これ、期待していいのか? いいって事だよな?

 恥ずかしいからか、そっぽを向く笑来を見て、俺は深く深呼吸をすると、


「最高の温泉旅行になりそうだな」


 と、小さく呟くのだった。


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