第43話 裏アカ


「はぁ~、もうやる事なくなっちゃった~」


 自分のものかのように俺のベッドに寝そべると、唸る笑来。


「なくていい、帰れよ」


「悠がトイレ行きたくならなければ、もっと楽しめたのに」


「朝トイレする主義の人間でよかった」


 あのまま縛られてたら何をされるか分からない。

 内容によってはそのまま縛られてた方がよかったのかもしれないが。


「ちなみに、何をしようとしてたんだ?」


「何って、悠の縛られてる姿を写真に撮ったり、色々してビビらせたりかな」


「エロい事をしようとは?」


「なわけあるか、この変態。私はどっちかというとMじゃい」


「……うす」


 立場が逆だったエロいことをしてもいいようだ。ていうか主導権を俺が握ってるから絶対にエロいことするけど。

 笑来は縛るより縛られたい派か……いい事聞いた。


「でも安心だわ。笑来、そこまでダメージ受けてなくて」


 普通に話せてる時点で、昨日のことはそこまで気にしてはいないようだ。まず安心。


「いやいや、気にしてるて。何言ってんの?」


 首をブンブンと振る。


「お前だったら、絶対に愚痴るか泣くかするだろうが」


「昨日泣いたからそれはいいの。愚痴は表に出して言わないよ。悠も思い出したくないだろうし」


「なら裏で言ってるのか」


「そう! 裏アカで言いまくってるわ!」


 と、にこやかにスマホの画面を見せてくる。

 そこには、夜中0時くらいから朝方まで、実心についての愚痴がこれでもかと投稿されていた。


『は何あの女』『ユルサナイ』『コロス』『一生ヤれないような体にしてやる』『赤ちゃん産めなくしてやる』『顔面もぐちゃぐちゃにしたい』『無駄に可愛いのマジでシバきたい』『人の彼氏に告白するとかどんな神経してるわけ?』『男が居なきゃ寂しさ紛らわせないとかオワコン』


「病んでるやん、てかこわ」


 率直な感想だ。


 裏アカにここまで書き込む人なんて存在するのか。

 アニメの世界だけの話だと思っていたから、ちょっと引く。

 これを薄暗い部屋で死んだ目をして書いてると想像すると、恐怖映像すぎる。


「こーやって吐き出すと落ち着くんだよね、私の精神安定剤」


 スマホに頬を擦り付ける笑来。


「前だったら泣くだけでストレス発散になってたのに」


「もう泣くだけじゃ発散できないんだよ。今回は特にさ」


「もっとなんか発散方法あるんじゃないのか? ほら、ご飯食べるとか寝るとか」


「ストレスなんか外に出さなきゃ意味ないじゃん、内に秘めてたらいずれ溢れてそれこそ壊れちゃうって」


「……まぁな」


 誰にも迷惑かけないという点では、裏アカに愚痴るのは案外いい方法なのかもしれない。

 フォロワー0人だから、本当の意味で誰にも迷惑が掛からない。


 学校の人にこの件を言うわけでもなく、あくまで自分だけで完結する。

 やっぱ笑来は性格いいんだな。



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