第41話 ほぼ全部じゃねーか!

「流石に遊びすぎたか~、トイレ行って来ていいよ~」


 俺に背を向けてササっと後片付けをする笑来。


「お前……」


「痛っ――ちょ、いてててっ」


 自由になった俺は起き上がり、笑来の肩を強く握る。


「……話は後! とりあえずトイレ!」


 怒鳴るのは後回し、膀胱を空にしないとダメだ。

 大きな声を出すと反動でちびりそうだ。


 駆け足で階段を降り、トイレへと駆け込む。ものの数秒でスッキリさせると、冷蔵庫から紙パックのコーヒーを取り出すと、飲みつつ自室へと戻る。


「おい、クソメンヘラ演技役者の笑来さん」


 ドアを開けると、すぐさま笑来の肩をもう一度強く握る。


「めちゃ痛いし……何かな?」


 振り向くと、引き攣った笑顔を浮かべる。


「何かな? じゃねーよ。何をしてたのかな? 俺を縛って」


「何って、普通に演技をしてただけ?」


「だからなんで?」


「一回、メンヘラっていうのを演じて見たかったんだよね~」


「あ?」


「ほら、元カノと色々あった時にさ、よくメンヘラかする彼女っているじゃん? あれ一回やって見たかったんだよね~」


「シバくぞ」


 おかげで、俺は漏らす一歩寸前だったんだが? それに、


「尿器とか手錠とか、お前どこまでマジで演じようとしてたんだよ」


「ガチ感って大事じゃん?」


「どう考えてもやりすぎだろ」


「ネットでなんでも手に入るからさ~、つい手が込んじゃって~」


「お前、これからネットで物買うの禁止な」


 安易に犯罪行為に手を染めかねない。次は日本刀とか買ってきそう。

 尿器買うくらいの度胸があるのなら、やりかねない。


「……一回、俺を縛ったのはいいとしよう」


「あ、そんな簡単に許してくれるんだ」


「許してねー。もっと気になることがあるんだよ」


「スマホ?」


「そうスマホ」


 ただ演技として持っていたのか、ちゃんと中身を見ていたのか。包丁は作り物だったとして、スマホは見られている可能性がある。


「連絡先とかは消してないよ? ほぼ何にも見てないし」


「ほぼ?」


 首を横に振る笑来に、さらに肩を握る力を強める。


「……すんません正直に言います。あのアバズレ女とのトークは見させてもらいました」


「……あ、死にたい」


「いやいや、そんなに深くは見てないよ? 付き合うまでの過程と付き合ってた当時と別れる寸前までのやつしか見てないから!」


「ほぼ全部じゃねーかよ!」


 付き合う前の甘酸っぱい関係の時も、付き合ってた時の甘々な時も全部見られたってことか。


「……死にたい」


 と、羞恥で赤面した顔を両手で覆う俺であった。




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