第38話 ついに壊れた

「……なんだこれは」


 翌日、自室にて目を覚ます俺は動揺していた。

 昨日の夜、確かに自分の部屋で寝ていたはずなのに、部屋の様子が違う。


 壁にはこれまで飾っていなかった、幼少期から現在まで撮った笑来との写真がこれでもかと貼られ、匂いも、笑来の匂いがする。

 そしてなにより、俺が驚いているのが、


「なぜに手錠をされてるんだ、俺」


 四肢を手錠でベッドに固定され、身動きが取れない状態にされていた。

 首だけしか動かせない。

 とりあえず、状況を確認しよう。


 朝起きたら自室で監禁されている……うん、全く意味が分からない。

 誘拐されて監禁なら百歩譲って分かる。けど、なぜ俺の部屋で。

 これをしでかす思い当たる人物は一人しかいない。


「あ、スマホ」


 ベッド上で充電されていたスマホに目を向けるが、ない。

 スマホをも取られているということか。


「あ、起きたんだね。おはよ」


 謎の状況に頭を悩ませていると、ガチャリとドアが開く。

 入って来たのは、親でもなくエプロン姿の笑来。

 ドアを開けた時に香って来るいい匂い。どうやら料理をしていたらしい。

 してたのはいいのだが……


「笑来、その手に持ってる包丁をどうにかしてくれないか?」


 右手には出刃包丁。左手には俺のスマホを持っていた。

 監禁漫画でよく見る展開だ。相手が笑来だから恐怖感は薄いが、背筋がゾクゾクする。


「あ、ごめん。ちょっと色々してたから……」


「しかも、なんで赤い液体が付いてるの、更に怖いんだけど」


「あー……」


 と、笑来は包丁を背中に隠す。

 ちょっと待て。一体何をしてたんだ。めちゃくちゃ怖くなってきたんだが。


「一応聞くが、これは全部笑来がしたのか?」


 手錠をじゃらじゃらと揺らしながら俺は聞く。


「うん、そうだよ。悠がどこかへ行かないように私がしてあげたの」


「いや、俺はどこにも行かないけど、これはなんだ? そうゆう遊びかなんか?」


「ううん。私は本気だよ」


「ついに壊れたか、お前」


 昨日の反動で、ついに笑来が壊れた。


「ちなみに、メンヘラプレイっていうわけじゃ」


「ないね。私は悠が私の傍から離れないようにしてるだけだよ」


「ダメだこれ」


 本格的におかしくなったらしい。

 独占欲が出てくれるのは嬉しいのだが、度が過ぎている。

 しかも一日、いや一晩でこの変わりよう。昨日のが原因で新たな人格が出てきたのか?

 生まれてから一度もこんな笑来を見た事ないぞ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る