第36話 答えを聞くまで帰らないよ
「お前自分が今何やってるか分かってるの? 悠の気持ちも考えずに自分勝手に動いて、挙句の果てに私がいるのに奪おうとするとか頭湧いてるんじゃないの?」
胸ぐらを掴み笑来は怒鳴る。
「笑来ちゃんにどう思われても、私、本気だよ」
鋭い眼光を突き付けられても、実心は芯をブラさない。堂々とした眼差しで笑来を見つめている。
「悠がこれまでどんな思いしてたと思ってるの? クソみたいな振られ方して落ち込んで、彼女が出来たと思ったら振られた相手に言い寄られる。マジであり得ないから」
「好きって気持ちには嘘を吐けないよ。笑来ちゃんだってそうじゃないの?」
「私は悠と付き合ってるし、悠のことは誰よりも好きだよ」
「私と悠が付き合ってる時、笑来ちゃん陰でなんて言ってたか覚えてないとは言わせないよ」
顔色を変える実心。
「別に何も――」
「『実心とか女のセンス悪っ、絶対すぐ別れるじゃん』って言ってたよね。放課後教室で」
「なっ――言ってたかもしれないけど、正論でしょ。どう考えても」
「ただの嫉妬でしょ? 悠の事が好きだったから選ばれた私に対しての」
「……」
「変わらないじゃん。笑来ちゃんはそこで怖がって悠を私から奪わなかっただけで、そこを除けば一緒じゃん」
「一番大事な部分を除くなっての」
「好きって気持ちをずっと表に出せない臆病者と私は全然違うけどね」
「っってめ~!」
刹那、笑来の手は実心へと降りかかろうとする。だがしかし、
「やめろ笑来」
俺はその手を止めた。
「一発この女を殴らせて! あの腐ってる思考に一発ぶち込みたいの!」
「殴った所で何も変わらないから、お前の方が悪者になるぞ」
「でも離して! 私気が済まないの!」
手を振り払おうとする笑来。
笑来の気持ちは痛いくらい分かる。俺も心の底からこの女をぶん殴りたいところだ。
しかし、こいつは殴ったところで変わらない。それに笑来が殴ったら実心が何をしたとしても悪になるのはこっちだ。
俺のために笑来が悪者になる必要はない。
「実心、帰ってくれ」
笑来を止めながら、俺は実心に言う。
「私、悠の答えを聞くまで帰らないよ」
「は?」
実心から出る言葉に、俺も不意に声が漏れる。
「せっかくここまでしたの。悠のために。だから私と復縁してくれるよね」
「お前何を言ってんの?」
「悠に尽くしたんだよ、私。だから私と――」
「お前となんて死んでも付き合わねーよ! 本当に頭おかしくなったのかお前は! 早く帰れ!」
耐え切れなくなり俺も声を荒げる。
そんな俺を驚くような目で見ると、
「残念だね。私達ならまた上手くいけると思ったのに」
冷たい声で言うと、1000円札をテーブルに置き、去って行った。
「おまえとなんて出会わなきゃよかったわ」
吐き捨てるように呟いた俺の声は、多分実心には届かなかった。
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