第35話 もう一度私とやり直さない?
「なんか同情すらできなくなったわ私。結局人の彼氏奪おうとする腹黒じゃん」
不機嫌そうな顔を浮かべる笑来に、
「今日で終わるからいいじゃん。この後パァ―っと焼肉でもいこーぜ。奏と但野ちゃんも誘ってさ」
「悠の奢り?」
「ドリンクバーくらいは出してあげようかな」
「デザートは?」
「……デザートも」
「うっし、早く終わらせよう」
奢られることを糧にして、笑来は気持ちを切り替える。
デザートとドリンクバーで笑来の笑顔を守れるなら安い物だ。
「お待たせー、トイレ行ってきたわー」
「お、おかえり」
俺達が戻る頃には、実心はもうカップの中を空にしていた。
「それで~、話って何?」
ゴクリと俺は生唾を飲む。
何を言われても、凛とした態度を取ろう。ここでテンパってたら実心の思うつぼだ。
そこに漬け込まれて言いくるめてくるかもしれないし。
「えっと、ものすごく簡潔に言うとさ――」
「復縁しよって言いたいんでしょ」
耐え切れなくなったか、笑来は実心を見透かすように言う。
「え……」
と、放心状態になる実心。どうやら図星のようだ。
「笑来と別れて私ともう一回やり直そって言うんでしょどうせ。分かってるから私」
「私は、その……」
「いいからそうやって自衛するのは。今日実心を呼んだのはこっちもその事で話があるからなんだよね」
「なんで知ってるの私が言おうとしたこと……」
「大体検討は付くし、それに実心の中学の話は全部教えてもらったからね」
「もしかして……」
実心の目は俺の方を向く。
「但野ちゃんに聞いたよ、全部」
「なんで……秋羅と繋がってるわけ」
「奏と友達だったんだよ、偶然」
「世の中って狭いよね~ホント。いい事も悪い事も全部身近な人を通じて知れるんだからさ」
皮肉じみた言い方をする笑来。
本当に世の中は狭いよな。
知らない間に色んなことが筒抜けになるんだから。
「私、悠のことが運命の人だって改めて実感したの……秋羅から聞いたと思うけど、
私人間不審なところとかがあるからあんまりこれまで信じれなくて……」
いきなり実心は俯きながら話を始める。
「別れてからさ、私気付いたんだよ。やっぱ悠じゃなきゃダメだって……すぐに寂しさを紛らわす為に彼氏を作ったけど、なんか違くて……すごく悠と別れたことを後悔してる」
「ちょ、あんたマジでっ!」
「だからっ! もう一度私とやり直さない? 笑来ちゃんがいるのは分かってる! けど私は悠がいいの!」
机から身を乗り出し、ギュッと俺の手を握る実心。
強く俺の目を見る瞳からは、数滴雫が滴り落ちる。
これまでの俺だったら、このまま実心の方に堕ちていただろう。しかし、今は違う。
俺が実心の手を振り払おうとすると、
「調子乗るのもいい加減にしなよ」
先に、バシンと実心の手を叩きはらうのは笑来であった。
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