第26話 これで懲りた

「何? 悠になんか用なわけ? てかなんでここにいるわけ?」


 笑来の冷ややかな目は、少し怯えているようにも見える実心に刺さる。


「ちょうど私もカラオケ来てて、悠を見かけたから声掛けただけだよ~」


「カラオケに来てた? 誰と」


「今日は誰とも予定合わなかったからヒトカラ~」


「ヒトカラね~、嘘っぽ」


「ホントだってぇ~、疑わないでよぉ~」


「は? どう考えても不審でしょ」


「ただの偶然だって~。ホントになんにも企んでないからぁ~」


 両手を振りながら否定する実心。

 俺達がいるカラオケの店舗に、同じ時間帯で都合よく実心が一人でいるなんて疑わないわけがない。てか自分で『企んでない』とか言っている時点で黒だ。


 カラオケなんて近くに何店舗もあるのに、ここにピンポイントで来るのはどう考えてもおかしい。


「あのさ、前会った時で分かったと思うけど、不快だから悠に話掛けないでくれないかな」


 しびれを切らして、笑来は近くのテーブルをバンと強めに叩きながら言う。


「ふ、不快……?」


 ビクッと体を揺らすと、実心は笑来に聞く。


「当り前じゃん。自分の彼氏が元カノと話してたらどう考えても不快なるでしょ。

 あ、それともどうでもいいっていう考えの持ち主?」


「ふ、2人とも怖いって。なんでそんなにピリピリしてるの?」


 理由も分かってないのか。それともこの場をしのぐ為の嘘? いや、こいつは確実に分かっている。分からないわけない。


「分かってるだろうけど、一応言ってあげる。ゴミみたいな振り方したくせに、その振った相手にちょっかい掛けてるのがマジで不快。どうしようもないくらいムカつくんだけど」


 実心をあざ笑うように言う笑来。


「悠、私は――」


「マジで金輪際話し掛けないでくれ。不愉快だ」


 何かを言おうとした時、俺は言わせないように言葉を挟む。

 実心も、自分の置かれている状況にようやく分かったか、


「きょ、今日はもう行くね。あと……なんかごめんね」


 と、実心は背中を丸めながら自分のブースへと帰って行った。


「なんだよあの女。マジムカつく‼」


 実心が部屋に入ったのを確認すると、地団駄を踏みながら唸る笑来。


「俺も同感。マジでダルい」


「まぁ、これで懲りたとは思うけどさ、次来たらぶっ殺す」


「もちろん許可する」


「あ~も~! イラつくから早く歌って発散しよ!」

「3曲連続で歌っていいぞ」


「マジ? 最高すぎる!」


「ジュースとって早くいこーぜ」


「うん!」


 と、ついでに奏の分のジュースも取って、自分たちのブースに戻るのだった。

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