第25話 あくまで偶然

「タンバリンとマラカスもあるじゃん~」


「しかもプロジェクターだよこれ」


「遊び放題だなこれ」


「早速一曲歌っちゃお~!」


 と、率先して笑来はパネルを操作し曲を入れる。


「そうえば、笑来歌上手かったっけか?」


「めちゃ上手いな」


 タンバリンをシャラシャラと鳴らしながら言う奏に、俺は頷く。

 笑来はカラオケで歌う曲ほぼ90点越えの強者だ。しかも美声。


 普段では絶対に出さない声色で歌う。アニソンから邦ロック、アイドルの曲まで様々な曲を歌いこなすカラオケの天才だ。

 聞いてるだけで満足できるほどのクオリティー。


「聞きたいところだけど、俺は喉乾いたからドリンクバー行ってくるわ」


 ソファーから立ち上がると、俺は部屋を後にする。


「メロンソーダ、コーラー、レモンスカッシュもありだな」


 グラスに氷を入れ、ディスペンサーの前で悩んでいると、


「悠だ! やっほ~!」


 遠くの方から声が聞こえると、急に肩に軽い衝撃が走る。


「……なんでここにいるんだよ、お前」


 細い目で見る先には、パァっとした笑顔で「ん?」と小首を傾げる実心がいた。


「偶然だね~、私もカラオケしにきたんだ~。あ、悠何飲むの~?」


 鼻歌を歌いながら腰を揺らす。


「偶然、ね」


 あくまぜ偶然を装う気か。

 確実に狙って来ているぞこれ。絶対に俺達の朝の会話を聞いて来ただろ。

 性格悪っ。


「悠はさ、やっぱ笑来ちゃんと来てるの?」


「そうだけど、なにか?」


「ううん。ラブラブだなーって思っただけだよ」


「そっちもどうせ彼氏だろ?」


「彼氏ね~……実は昨日別れちゃったんだ……」


「へー」


 また一人男が犠牲になったのか。興味は全くないけど。


「ちょっとーなんか悠冷たくない~?」


 冗談交じりにクスリと笑いながら言う実心だが、


「当り前だろ。元カノと普通に話そうって思う方がバカだろ」


「……え?」


「え? じゃねーよ。振った相手に何事もなかったかのように話す方がどうかと思うぞマジ」


「ちょ、悠? どうしたの?」


「何がしたいわけ? 振った相手にちょっかい掛けて面白がってるの? だとしたらいい性格してるなお前」


 コーラを注ぎ、なるべく顔を合わせないように強く言う。

 ここで情など持ってはダメだ。このまま軽蔑した態度を取ろう。その方が自然と離れてくれるはずだ。


「今更かもしれないけど私っ! まだ悠の事っ――」


「ちょっと~? 私の彼氏に触れないでくれる?」


 手を握られそうになった刹那、後ろから冷血な声と共に、その手は笑来の手によって弾かれた。

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